「古河さん、最近、いっつもオレのこと冷めた目で見てる」

「…へ?」

「オレ、入社した時からずーっとずーっと古河さん一筋なのに…」


オレのこと、ちゃんと見てくれない…。


そんな事言われても…今まで挨拶くらいしかしなかったじゃないよ。


そう言おうとして、ぐぐっと小泉君の体をなんとか退けると、完全に酔いが回っているのか、彼の口から溢れてくるのは、


『愛してる』だの、
『好き』だの、
『離したくない』だの…。


よくもまぁ、恥ずかしげもなく…そして惜しみなく、そんな事が言えるなぁ…でも、それに順応してしまって来ている自分がいて…。


気付いたら、あやすようにとんとんと、背中を叩いていた。


それで……?

それで…………。


多分、その後急に形勢逆転され、今度は私が引き摺られるようにして、タクシーに乗せられて、行き先は勿論彼の家で…。


あまりにも自分勝手な彼の対応に、不満たらたらだった私に向けて、ぽろぽろ涙を見せながら、

『嫌いになんないで』
『傍にいさせて』
『帰らないで』


駄々を捏ねつつ、何時か私にプレゼントして、飲んでくれたらいいな…くらいの気持ちで用意していたフルボディの赤ワインを出され…。


結果、寝た…うん。


多分、それだけ。

一応確認で自分の姿を見てみるけれどスーツは着ていないが、「そういう」痕跡は無かったから、ほっとした。
まぁ、下着姿だし、なんなら彼は上着着てないけれど…。


ただ、今私のお腹に巻き付いてるこの男は…。
果たして昨日の事をどれ位覚えているのか?


「んん…っよっと…っ!」


ぐるりん


なんとか、彼の方に体を向ける。
それだけでかなりの重労働だ。


あー…そういや、高校・大学とバスケやってたって聞いた事あるな。


そう思いつつ、彼の寝顔を静かに観察する。

カーテンからチラチラと舞う朝日に、溶け込んだ明るい髪。
凛々しい眉に、今は閉じられているけども、切れ長な瞳。
人より筋の通った鼻。


ちょっと…コイツかなりのイケメンだったんだ…。


改めて…近くで見るから分かる事。
肌はきめ細やかだし…。


こんなのが、昨日あんなに、子供っぽい仕草や言動をしたとは思えない。


と、そう思い指で前髪を払ってあげようとしたら、ふるる、と睫毛が揺れてぱちりと彼が目を開けた。
寝起きのちょっと掠れた声で声を掛けながら…。