【side音】
カーテンの隙間から入り込む太陽の光で目が覚めた。
隣に眠る日向の柔らかい髪をそっと撫でて無防備にも曝け出された首元にそっとキスをする。
少しだけ強く吸い付いて話せば赤い花が咲く。
服を着れば隠れてしまうような場所。きっとこれを見るのは日向だけだろう。
日向でさえ気づかないかも知れない
でもそれでよかった。
一夜限りの体の関係を証明する何かが欲しかったのかも知れない。
俺の想いが少しでも報われたと錯覚できる何かが。
だから、そんな俺の私利私欲が陽の目を見ることなんかなくていいのだ。
ズレてしまった掛け布団を一糸纏わぬ真っ白な肌を隠すように掛け直してベッドを降り、ベッドの下に入り込んだ服をかき集める。
適当な服を着て、ローテーブルに書き置きをひとつ。
合鍵を置いて家を出た。

初恋は実らない。昔聞いた迷信のようなもの。
きっと叶った人だっているだろうけど、俺は本当だと思う。
実らなかった俺たちの初恋は乗り越える必要も忘れる必要もきっとない。
日向の想いが届かなかったのは。
俺の想いが一方通行で終わってしまったのは。
甘くない恋もあることを知るためだったんだろう。
2人いるはずの運命の人の1人目。人を愛し、愛を失うことを教えてくれる人。
きっと君にとっての1人目は俺とそっくりの兄だったけど。
俺にとっての1人目は間違いなく君だった。
だからどうかしばらくは、実らなかった者同士。
傷の舐め合いをすることを許してください。


「いつでも来いよ」