莉乃が美術部を見学してる間、ふと、目に入った“格技室”を覗いてみることにした。


入口には3,4人が固まって見学していて、中では紺色の袴を身に纏った人たちが
剣道をしていた。


バスケ部とは違う、緊張感を纏った雰囲気の中。お互い竹刀を合わせ、
声を上げながら試合している先輩たちがめちゃくちゃかっこよかった。


先輩たちが竹刀を合わせる音、「面!」と張り上げた声。
それ以外の他の音なんて聞こえなかった。

中には私が4年生の頃、大好きでとてもお世話になった先輩、習い事が同じですごいかっこよかった先輩もいた。



また顔を見ることができて嬉しかった。


私のことなんて覚えているはずがないのにやっぱり見つめてしまう。


試合が終わったのか、先輩たちは私達に


「入りな!近くで見ていいよ!」と声をかけてくれた。


私は入口の前で軽くお辞儀をして中に入らせてもらった。


初めて見る景色で、初めて見る剣道で迫力があって私はドキドキしてた。


再び試合が始まる。間近で見ると竹刀がこっちまで伸びてきそうで少し怖かった。


すごいなぁ何かに一生懸命になれるって。


窓から入る光のせいだろうか。先輩が振り上げる竹刀は私の目にはダイヤモンドの粉が降り注いだみたいにキラキラして見えた。


莉乃のことも忘れて、先輩たちの剣道に見入ってしまった。


体育座りで集中しまくってた私に気がついたのか、私の近くにいた先輩が


「あと少ししたら体験やるから。もう少し待ってて。」


と声をかけてくれた。


「体験やるんですね!楽しみです!」


と答えると先輩は明るい笑顔で


「そうだよ。楽しみにしてて。あ、あとみんな怖く見えるかもだけどみんな優しいから。楽しんでって。」


と答えてくれた。


私は先輩に負けない笑顔を先輩に向けた。


先輩たちのことを何も知らない私でも、きっと楽しいんだろうな。そう思えた。


その先輩にいろんなことを聞いた。

剣道部の雰囲気とか、顧問の先生はどんな感じだとか。あと、3年生しかいないらしい。しかも7人。
今年、1年生が入部しないと剣道部が無くなっちゃうとか先輩に色々教えてもらった。


先輩と色々お話してると試合が終わった。先輩はいつの間にかいなくて、
私がキョロキョロしているとさっきの先輩が私に向かって小さく手招きしているのが見えた。


先輩に近づくと、先輩はそそくさと歩き出した。先輩に付いて行くと、さっき試合をしていた先輩たちが
顔に付けていたやつを取っていて、体験の準備をしていた。

先輩が私のことを他の先輩たちに紹介してくれた。


「この子、剣道に興味あるっぽい。体験やりたいって。ね?」


私に同意を求めるように先輩は首を傾げた。


私がコクコクと頷くと、先輩たちは嬉しそうな顔をして、


「そうなの?!ぜひ楽しんでって!」


と一言だけ言ってそれぞれ準備を始めた。


先輩たちが準備しているところを見ていると、先輩は大量の新聞の準備をしていた。


新聞・・・?何に使うんだろう。私の頭は、はてなでいっぱいだった。


それを見た先輩はクスッと笑って準備を手伝いに行っちゃった。


しばらくすると沢山の人が体験に来た。急に沢山の人が来て、私も先輩たちもめちゃめちゃびっくりした。


少しすると先輩たちは準備を終えたのか、部長さんぽい人が


「体験希望の子こっちおいで!」


と集合をかける。



私は先輩の真横にピッタリとくっついて、部長さんの話を聞いていた。


「少し人数が多いので2つに分けて体験をします。竹刀をふってみたいよって人はこっち、
 基本を覚えたいっていう人はあっちに行ってね」


私はそそくさと竹刀を振る方に行った。


私が行った方には人数が少なくて、5人くらいしかいなかった。


先輩から竹刀が渡されて、竹刀の握り方、振り方をだいたい教えてもらった。

私が思ってたよりも全然重くて、先輩は目に見えないくらいのスピードで振っていたのに、
私なんて持ち上げて、構えるだけでも腕が痛かった。

それでも頑張って竹刀を振り上げてみる。少しはかっこよく見えてるかな。


「竹刀の持ち方わかった人こっち!次は新聞を切ってみよう。」

なるほど。そのための新聞だったんだ。納得。


みんなのを見る限り、新聞がぐちゃってならないで、スパンと切れたら上手らしい。

うわぁ…私こういうの苦手だ。力加減とかわかんないし。