あいと呼ばれた少年は、螢川藍(ほたるかわあい)。“月下の魔法使い”――言葉の通り《月灯りさす美しい夜》でのみ魔法が使える者を、そう呼ぶ。


「しょうがないだろ。僕たちに回ってくる仕事は、厄介つきの黄昏案件だ。これでもまだ、マシな方だ」

「黄昏案件?」

「お前は知らなくていい。僕はもう行く、深央に伝えなきゃいけない事があるから――それと。僕と深央はまだいいけど、誰彼構わず飛びつこうとするの禁止」

「どうして?」

「どうしても」




 説明するのも面倒臭いと言わんばかりに、さっさとその場を離れてしまった。本音を言うともう少しだけ、話したかったのだが。


 名残惜しい気持ちもあったが、冷えた身体を温めるために今度こそ風呂場へと向かった。