side:叶翔 * * *
「ちょ、葉月先輩……!!!待ってくださいって、おかしいですよッ。」
暗い夜道は、俺の声で響いていた。
異様に早い足取りで進んでいく先輩を俺は追う。
追いつき、ガシッと先輩の腕を掴んだ時だった。
「おかしいのはあんたでしょ……。」
いつもの先輩からは想像できないような弱々しく、震えている声を漏らしていた。
「え……」
何が何だか、イマイチ分からない。
先輩は何に不満を抱いているんだ……?
「どうして何度も何度もしつこいくらいに付き纏ってくるのよ、人の気も知らないで、ッ!!」
「葉月先輩……ッ。」
後ろから先輩の顔を覗き込むと、先輩の顔は酷く歪んでいて涙目になっていた。
「消えてよ。私の目の前から消えて……視界に入ってこないでッ!!」
先輩が壊れた。
いつもの先輩がいなくなった。
「なんで……。」
なんで急にそんなことを……、まさか。
「そんなに俺、ウザかったかな、、?」
いつもいつも付き纏っていて、本心ではウザいと感じてた?
「……あんたにはわからないわよ、。」
先輩は、歯を噛み締めてそう言った。
その一言で、ウザかったと言う心情はなくなった。なら何に?
「……。葉月先輩、俺何でも相談に乗りますよ、できることはなんでもします。だから……。今日の先輩、なんだかおかしいですよ。俺で良ければ……」
そう言って、先輩の肩に手を伸ばし、振り向かせた時だった。
「──────私はあんたを好きになれない。」
その一言で、俺の頭は真っ白になった。
「ッ……。」
「あんたは私を、みんなとは違う高嶺の花だと思ってる……。けど、私はどこにでもいる自分で精一杯のクズな人間なのよ……。」
あとから続いた言葉がよく分からない。
好きになれないから、私はクズ?……何故そうなるのだろうか。
それなら、逆にここまで先輩を追い詰めてしまった俺の方がクズでは無いか。
頭の回転が上手く噛み合わない。
先輩は……何にそんなに怯えてるの?
「……───────貴方はもう時期死ぬわ。」
side:叶翔 * * *
別れを告げられて、俺は一人暗い夜道に取り残された。
急な事に頭が回らない。
先輩は、俺をふった。……なのに、先輩はクズ?
ふってしまった罪悪感からそんなことを言っているのだろうか。
……けれど、そんな事よりも先輩から告げられた言葉が一生俺の頭にしがみついて離れない。
俺……死ぬの?
なんで急に葉月先輩はそんなことを……。
ウジウジとした思考回路が回るたび、俺の頭の中ではなにかが噛み合わなくなってきた。
葉月先輩は俺のことが嫌い。
……なのにどうしてあんな表情を……、悲しい顔をしたんだろう。
俺への哀れみ?
けど、そうだとは思えなかった。
あの申し訳なさそうに眉を下げ、顔を歪める先輩の顔が、頭にこびりつく。
……小さい頃から彼女をのことを知ってるわけでもないし、俺が一方的に付き纏ってただけだけど……。
その時俺は、ある決心をした。
俺から見た彼女は、誰よりも特別な存在だった。
誰の色にも染まらず、自分の思う道を進んでて、勇敢だなって。
俺とは全く違う偉大さに俺は憧れて尊敬して、そして惚れたんだ。
……だからこそ、俺は言える。
誰よりも器用な彼女。誰の手も借りずに一人で生き抜けそうなほど凛々しい彼女。
けれど、彼女は誰よりも不器用なのだと頭に過ぎる。
あの時の歪んだ瞳。
「本当にそうなら、答えてくれよ……ッ。」
俺自身の状況なんか、今はどうだっていい。
人はいずれ死ぬのだから、もうこの際俺の死期なんかどうでもいい。
俺は静かにLINEに打ち込んだ。
【今どこですか。】
不器用だからこそ。……あなたは答えてくれるはず。
【[FROM───葉月]
海。】
その返信を確認した瞬間、俺は走り出した。