side:叶翔   * * *

「あんた、私のどこがそんなにいいのよ。ただの愛想悪い女じゃない。」
 ただ前を見つめながら隣に並ぶ葉月先輩はそう聞いてきた。
 え、そんなこと聞いちゃっていいんですか?
「そうですね〜。」
 止まらなくなりますよ?
「いつもキリッとしてるところに俺一目惚れしたんですよ!!群れずに一人で行動できる先輩がほんとかっこよくて憧れます!!」
「……。」
 顔見てくれないなぁ……。
「それに、こんな俺にもこうやって結局は会話してくれる優しさ!!本当に美しいんですよ。」
 周りからは、少し異様な目で見られた。
「本当に高嶺の花って感じです!!こんな俺が傍にいてもいいんですか?って感じです!!」
「傍に居るとは言ってない。一緒に帰ってるだけ。」
「も〜、冷たいんですからぁ〜!!」
 本当に先輩は面白いなぁ。
 こういう子は振り向かせたくなる。どこまでも、俺を見てて欲しいって言う気持ちが高ぶってくる。
「……私はあんたが思うような高嶺の花じゃないわよ。」
「いいえ、そんな事はありません!!先輩は本当に高嶺の花です!!俺知ってますよ?先輩は、よく周りを見て行動してるってこと!」
「はぁ……?」
 葉月先輩は、怪訝な顔でこちらに振り向いた。
 目、合ったァー!
「いつも正義を貫く勇敢な先輩は、誰の手にもつけれません!」
「……。」
 あまり納得していないようで、呆れていて、不満をもった葉月先輩は、また前を向いた。
 自然と俺は鼻歌を刻む。
 俺たちの沈黙は、それほど気まずいものではなかった。
 風が俺たちの間を駆け抜けていく。
「……──────ちゃんと周りを見て行動しなさいよ。」
 ある瞬間、葉月先輩は複雑そうな目をしてそう呟いた。
 どんな意図があるのか理解が出来なかったけれど……、
「……俺の事心配してくれてるんですか〜?!」
 一気に満面の笑みになって、咄嗟に先輩に抱きつきたくなる。
「暑苦しい。近づかないで。」
 そんな俺を葉月先輩は手で払い除けて、俺はグエェという声を漏らした。
 意外と力強いなぁ・・・。
 まぁ、今のは気持ちが高ぶった俺が悪いか。
「でも、なんで急にそんなことを?」
「─────────。」
 謎の沈黙は、気まずくない。気まずくはないんだ。
 ……けれど、その数秒の沈黙は異様に長く感じ、キュッと口元を噤む先輩の姿が胸に刺さる。
 何かあったのだろうか……。
 少し心配になり、先輩を見つめ眉を下げる俺。
「せんぱ────────……」
「ほら。」
「え。」
 急に止められた。
 と思うと、先輩は静かに俺の足元をちょんちょんっと指さした。
「犬のフン。踏んでるわよ。」
「ああぁ!!新しい靴なのにぃ!!!」
 急な先輩の予知が当たり、テンパる俺。
「……っふふ。」
 そんな俺を見て、初めて先輩は微笑んだ。
 微かに口角を弛めて、声を漏らしただけだけれど。
 先輩が……、笑った……。
「・・・やっぱ、俺たち付き合いません?」
「しつこいわよ。それ。」