side:叶翔 * * *
「好きです、付き合ってください!!」
カッコ悪いほど顔を赤らめながら、俺は初めて告白をした。
夏香る風が、二人しか居ない校舎裏にふいている。
少し離れた場所で、その光景を見守る友の視線を感じる。
生まれてこの方、恋なんかしたことなかった。
でも、この人と出会って、一目惚れってこういうことなんだって初めて知った。
顔が破裂しそうなほど熱い。
バクバクする心臓を抑え込みながら、俺は彼女の返答を待った。
「───────無理です。帰ってください。」
「へ、」
そんな顔の熱は一気に冷めた。
いつも通り、動じない瞳のままそう告げた彼女は、俺の言葉を聞く前に去っていった。
その場に呆然と立ち尽くす俺。
伸ばした手は、行方を失って彷徨っている。
後ろから肩をポンと叩かれ、同情された。
「ありゃあ、噂以上のバケモンだな……。」
「叶翔、絶対行けると思ってたのに、」
友達もこのあっけなさに呆然としている。
彼女の過ぎ去る背中を俺は黙って見つめた。
ピンと伸びた背筋。
無駄に力んでいない肩。
後ろ姿だけでも、凛々しさを隠しきれないほどの美貌。
そして……、どこまでも儚い彼女の姿。
まるで金木犀のような高嶺の花。
「ま、あれは仕方ねぇよな。」
「あんま気に病むなよ、叶翔っ。」
ははは、と場を和ませる二人。
「……。」
「おいおい、ガチめに凹むなって……」
「──────絶対……、」
「「へ?」」
「絶対に俺を好きになってもらう!!!」
うおぉぉぉぉぉ、と空高く舞い上がってそういった。
「マジかこいつ・・・」
「もう慰めねぇからな・・・??」
少し瞳に溜まった涙を乱暴に拭う。
絶対俺諦めない。絶対振り向かせてみせる!!
side:叶翔の友人 * * *
「葉月先輩〜。」 「無視しないでください!」
「おはようございます!!」 「好き!」
「葉月先輩!!」 「今日、一緒に帰りません?」
「好きです!」 「お菓子いります?」
「ジュースおごりますよ!」
「かまってくださいよぉ〜!!」
「スゥーーーー、は・づ・き・せ・ん・ぱぁ〜い!!」
「・・・……。」
「ねぇねぇ、葉月先輩。今日七夕ですよ、なにかお願いとかしてみます?」
いつも通り叶翔は、廊下で秋来野先輩を見つける度に駆け寄っていった。
「……まじ、あいつ折れねぇよなぁ。」
「一途だね。」
「程があるだろ。」
それを、いつも教室から眺めてツッコむのが日課。
「俺達が結ばれるように────。……とか?」
何いってんだあいつ。
「、、、。」
「ここ最近、秋来野先輩、反応に困ってるよね。」
「そりゃそうだろ……。ここまで来たらあの秋来野先輩でも困るって・・・。」
前までは、何が来てもツーンとシカトしていたのに、最近はシカトしきれずにウズウズしている。
ほんと、あいつも懲りないよな〜。
逆に羨ましくなるわ。
side:叶翔 * * *
「今日も一緒に帰りません?」
今日も俺はチャレンジする。
「……。」
でも、今まで一度も会話をしてくれないんだよなぁ・・・。
でも、そういうところも全部が好きなんだよ!!
「……はぁ。あんた、いつまで付き纏ってくるの。」
「・・・。……は、葉月先輩が会話してくれたぁ!!!!」
うるさい、とジト目で見てくるのもこれまた刺さる。
……てか、好きすぎて友達からキモいって言われたんだよな・・・。
「先輩が俺に振り向いてくれるまで!!」
俺は、初めて続いた会話を途切れさせないように頑張る。
俺よりも断然小さい身長の彼女は、俺と目を合わせてくれない。
ずっと前ばかり見ている。
でも、それでも隣にいれることさえが幸せなんだ。
「……わかった、帰るわよ。」
「え。」
突然言われた言葉を前に立ち尽くす俺。
葉月先輩はそんな俺に目もくれず、外靴に履き替えた。
「何しているの。相手したら消えてくれるんでしょ。早く帰るわよ」
「は、はい!!」
俺は、必死に高ぶる心を抑えて彼女の後を追った。
幸せだ。頑張ったかいがあった。
一緒に帰れるぐらいまでになるなんて。
……俺がこの人に惹かれた理由。
いつもいつもキモがられるけど、ちゃんとした理由は俺にもある。
口数が極端に少ないのに、途端に発するかっこいい一言。
すんなり一緒に帰る、と言っていて本当にかっこいいと思う。
それに……、周りの女子とは違った凛々しさが俺の心を魅了したんだ。
いつも一人で器用に何もかもこなす彼女は本当に美しい。
群れずに主張を貫ける女子ほどかっこいいものはない。