「そ、そうよ。当然じゃない。そのために予約したんだから」

 恵一は、まだ戸惑っている様子だった。そういう由梨香も内心バクバクだった。
 ここまで来たら引き返せない。
 ドアを閉めた由梨香の手は震えていた。落ち着こうと、設置してある小型冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すとゴクゴクと飲んだ。落ち着け……自分。
 すると恵一の口が開いた。

「あ、あのさ……これってどういう意味か、分かっているのか?」

「どういう……意味って?」

 思わず由梨香は聞き返した。分かっていない訳がない。

「だから……俺まで居たら……その……関係を持ちたいと言っているようなものだし」

 何だか言いにくそうに言ってくる恵一。頬を少し赤く染めながら頭をかいていた。
 もしかしたら少しは期待してくれただろうか?
 心臓は、これでもかというぐらいにドキドキと高鳴っていた。
 ギュッと胸が締め付けられそうなぐらいに熱くて、苦しい。でも……もう最後しかない。ここで失敗したらお別れどころか、苦い思い出として残るだろう。

「私は……そのつもりだけど」

「……えっ?」

「せっかくの誕生日なんだし、いい思い出ぐらい残したいじゃない? 私、そういうの経験がないし」

 何でこの言葉になってしまったのだろう? もう少し言葉があっただろうに。
 すると何か誤解したのか、恵一の表情は曇りだした。眉をひそめて、悲しそうな顔をしてくる。

「俺は……いい思い出で終わらせたくない」

「けい……いち?」

「どうして、そんな風に言うんだよ? 俺は……由梨香とは、そんな安っぽい関係で終わらせたくない」