「たまには、いいでしょ? 記念よ、記念」

 由梨香はグッとグラスに入った赤ワインを飲み干した。少しでも酔って、実行に移せるように。
 恵一とのディナーは本当に楽しかった。ワインも料理も美味しかった。

「おい、由梨香。お前……飲み過ぎだぞ?」

「そう? 全然大丈夫だけど~ひっく。あ~そうだ、部屋行こう。今日部屋も予約しておいたの」

「えっ?」

 無理して飲んだらほろ酔い気分だった。そのまま恵一に寄り添ってもらいながらも部屋に行こうと誘う。
 実は密かにスイートルームを予約していた。
 由梨香は最後の思い出として恵一との一夜を過ごそうと目論んでいた。
 告白だって、まだだけど……どうしても諦めきれない想い。せめて一夜だけでも叶えたいと思った。そうしたら諦めるのだと自分に言い聞かして。
 それで本当に二度と会えなくても大丈夫かと? と聞かれたら答えはノーだ。
 でも……せめていい思い出で終わらせたい。だって……ずっと好きだのだから。

 恵一は戸惑っていたが、部屋までついてきてくれた。本当にそういう気がないのなら部屋の前で断るはずだ。彼は誠実だし、女性とのスキャンダルは一切ない。 
 それは由梨香自身が幼い頃から見てきた。だから自分が特別な気がして、ここまで追いかけて来られたのかもしれない。
 部屋の中は流石、高級ホテルのスイートルームなだけはあって広い。景色も窓から一望が出来るし、清潔感があって素敵だ。でも、由梨香はそれをじっくり見渡す余裕はなかった。ここからが正念場だ。

「由梨香……本当にここで泊まる気か?」