言えば諦めてくれるかもしれないが、それでは私は彼の夢を壊してしまう。それだけは、どうしても避けたかった。
 その日。由梨香は自分の部屋でたくさん泣いた。未来のためにも、いや、日本のサッカーのためにも……。
 そう自分に何度も何度も言い聞かせるのだった。
 それから悩みに悩んで由梨香はある決断を出した。

 実行に移したのは、彼が海外との対決でアメリカに遠征に行く三日前。
 本当なら遠征に向けて身体を休めてほしかったが、この日ではないとダメだった。
 丁度自分の誕生日も近かったので、少しの間でも寂しくなるから会いたいと言って呼びつけた。奮発して高級ホテルのレストランを予約しておいた。
 もちろん彼は誕生日だからと思っているだろう。
 最後のディナーと言わんばかりの、眺めのいい素敵なレストラン。キラキラした夜景を見ながらフルコース料理を堪能する。

「どうした? 今日は随分と気合が入っているな?」

「そう?」

「いつもよりはしゃいで見えるぞ? いつもなら部屋で祝いたいと言うくせに。まぁ、自分の誕生日だし、たまには贅沢するのも悪くないけど」

 恵一の何気ない言葉を聞いたとき、ギクッと肩を震わせた。流石、幼馴染み。
 確かに、いつもなら贅沢なところで食べるよりも部屋で祝いたいと言っていただろう。バイトや親の仕送りで生活をしていたのもあるが、あまり人前だと恵一とのスキャンダルを撮られそうで用心していた。
 新人ホープで見た目も爽やかでカッコいいからと女性達にも人気が高い。
 今でもスーツを着た恵一はモデルみたいでカッコいい。サラサラで柔らかい黒髪。スッと鼻筋が整っていて、キリッとした二重まぶたの目。背も百八十センチ以上あって手足が長い。モテない方がおかしいだろう。