真面目で優しい彼の性格が出ている。
 そうなると海外の夢は諦めるしかないと。だが、それでは彼の才能が無駄になってしまう。せっかくのチャンスを逃すには勿体ない。だから私からもう会えないと別れを告げてほしいと言われてしまう。
 何故? 彼らに未来を決められないといけないのだろうか?

「私に……二度と会うなと言いたいのですか?」

 由梨香が食い下がり気味に言うとマネージャーは慌てる。

「いや……別にずっとって言いたい訳ではなくてね? 海外に移籍してもらうために、一時的にでも距離を置いた方がいいと思って」

「君は彼とは交際していないそうだな? だが、ファンなら分かるだろう? 彼は既に日本の注目選手なんだ。そんな選手が交際もしていない一般女性と現を抜かして、未来を潰すとかあってはならない」

 何とかフォローしようとするマネージャーと違って、スポンサー会社の社長は冷たい口調で痛いところを突いてきた。

(確かに……恵一の夢は、海外で活躍するプロのサッカー選手になる事だし、私が居たら、それは出来ない)

 由梨香の選択肢に彼を追いかけて海外に行く事は考えられなかった。
 親には大学までは卒業しなさいと言われてきたし、何よりも言葉と環境が違う海外で暮らしていける勇気はなかった。そもそも幼馴染みとの交流はあるが、交際すらしていない。告白しようと思った事は何度かある。
 でも、今までの関係を壊すのが怖くて、追いかけるのが精一杯だった。
 何処かで決断をしないといけない事は薄々感づいていた。
 恵一が皆に注目を浴びる度に、まるで別世界の人になったようで寂しかった。だから彼もそれを感じて、決断が出せないのかもしれない。

「……分かりました」

 本当は別れたくない。幼い頃から、ずっと彼の背中を追ってきた。これからもそうなるものだと思っていたのに……。