「悠美、入学おめでとう」
笑顔の両親から入学したお祝いとして、前からねだっていたスマートフォンを渡された。
ずっと欲しかったスマホ。私も例に漏れずインターネットの世界に魅力されていった。
最初は見るだけだったが、今ではインターネットで出来たネッ友とのやり取りが楽しくて仕方がない。
朝、起きるのが辛くても、夜中までスマホを触っていた。授業中も隙があればスマホをチェックする。



最近は、よく生配信というものを観ている。生配信をやってくれている人は自称二十五歳の男の人。その人は落ち着いた声と巧みな話術でリスナーとの掛け合いも上手い。私も笑いながら時折コメントしては毎晩楽しんでいる。
定時配信といって、彼は毎日同じ時間に配信をしてくれる。
私は、定時配信までにご飯とお風呂を済ませて配信に備える。
「今日はどんな配信かなぁ」

そんな配信に通っているうち、リスナー同士でも楽しく話をするようになった。その中に一人、気になる人がいる。
《刹那》
性別は分からないけど、刹那のコメントは誰よりも目を引く。面白い話の時も真面目な話の時も、的を得たコメントをする。
ーー刹那、かぁ。
刹那に対する興味は湧き始めると止まらない。
遂に、私は刹那にダイレクトメッセージを送ってしまった。
刹那の返信はすぐにきた。
刹那は、私が通っている生配信のリスナーであるということを認知していてくれた。少ししかコメントをしない私のことを知っていてくれたことに驚き、刹那のメッセージをもう一度確しかめてみる。
ネットでも、私のことを知ってくれている人がいる!それも、あの《刹那》!
今まで感じたことがなかった胸の高鳴りを感じた。

そのダイレクトメッセージをきっかけに、私と刹那は毎日やり取りをするようになった。たったそれだけで私の生活は変わったと言っても過言ではない。
『ダイレクトメッセージじゃ手間がかかるし、良かったらLINE交換しない?』
刹那からの提案だ。まさか、刹那とLINE交換出来るなんて想像だにしなかった。
LINEで通話をすると、刹那は私と同じ中学生で男の子だった。住んでいるのは沖縄。
それから、スマホは生配信と刹那とのやり取りのLINEがメインになった。
「今日の配信、面白かったよねぇ!」
「うん。普段では知ることが出来ないことを話してくれるし、トークも面白いからいいよね」
「あ、そういえば今日ね、学校のテストが返ってきたの」
「どうだった?」
「なんとかってところかぁ」
こんな他愛のない会話が私たちのやり取り。大したことを話してるわけじゃないのに、他の人と話すより何倍も楽しい。



中学二年生の春休み。
いつも通り刹那と通話をしていた。でも、刹那の返事は上の空。
「刹那? 何かあったの?」
「あの、さ......俺、トアことが好きだ」
トアというのは私のハンドルネーム。
刹那が私のことが好き......? 嘘でしょ?
「トア、俺と付き合って欲しいんだけど、ダメかな」
「......あ、あの」
「いきなり、こんなこと言われても困るよな、悪い」
「違う! 私、私も刹那のことが好き!」
インターネットで知り合った子と付き合うなんて、大人からしたら馬鹿かもしれない。騙されてると言われるかもしれない。でも、刹那を想う気持ちは本物だ。
そうして、正式に私たちは付き合うことになった。
正直、最初は実感が湧かなかった。
《刹那》の本当の名前が『島袋 翔太』で、住んでいるところが沖縄、弟が一人。 私は、『長谷川 悠美』で神奈川に住んでいて一人っ子であること。ネットで隠していたことを打ち明ける度に、付き合っている実感が湧いてきた。
翔太は、高校に入ってアルバイトを始めた。その間、連絡が取れないことも多くなり寂しかったが、翔太の邪魔をしたくて我慢をしていた。

いつの間にか、私たちは一度も会うことはなく大学二生。
ーーあっという間だなぁ......
今日は、私たちが付き合った記念日の日。
翔太は、アルバイト先に頼んで休みを貰ってくれた。
久しぶりに沢山話せる。
いつもよりテンション高い私に比べて、逆に翔太は少し無口。
「翔太、何かあった?」
「ん?」
「なんだか、いつもと違う感じがしたから......」
少しの沈黙のあと、翔太は今までとは違う声色で発した言葉に私は驚いた。
「俺がアルバイトを始めた理由なんだけど、悠美に会いに行こうと思ってたんだ。沖縄はバイト代が安いから、金が貯まるまで時間がかかっちゃったんだけどさ」
「私に会うために?」
「うん。俺と会ってくれるかな?」
「会いたい! 凄い会いたい!!」
ホッとしたようで、翔太の声も柔らかくなった。
それから、何日もかけて会う計画を二人で話し合った。
翔太の誕生日は七月。私は九月。それなら、中間の八月に東京で会うことにした。



待ち合わせは羽田空港。
朝、時間より早めに家を出て空港へと向かう。
どんな早く空港に行っても、翔太の乗る飛行機が早く着くことはないのに......
翔太との待ち合わせは、空港内にあるレストランだ。
私は先にレストランに入って待っていた。
スマホを画面でこまめに時間をチェック。
ーーもうそろそろかな。
そう思った瞬間、翔太からの着信がきて、場所を伝えると今からレストランに来る。
緊張して頭の中はごちゃごちゃだ。
「こんにちは」
紺色のストライプの入ったワイシャツに白のチノパン。
いきなり顔を覗き込まれ、声を掛けられた。
「こ、こんにちは......」
「なんだよ、そんな下向いて。顔が真っ赤なの、バレバレだぞ?」
「しょ、翔太......!? これは、仕方ないの!」
このやり取りが、スマホ越しではない私たちの初めての会話だった。

その後、宿泊先のホテルに行き、荷物を預かって貰った。
ーーよし、翔太を楽しませるぞ!
私は翔太を振り回すように東京を案内をした。
「おい、待てよ」
翔太の声がかかるまで私は目まぐるしく案内した。東京がこんなに楽しいだなんて思ったのは初めてだ。
「翔太、こっちこっち! 早く!!」
「はいはい。分かりました、お嬢様?」
「もー、何よ、その『お嬢様』ってぇ」
振り向く度、翔太と目が合う。とても澄んだ瞳で、こちらをまっすぐ見ている。私の周りには、こんな瞳を持ち合わせてる人はいなかった。だからこそ翔太を直視出来ない。見られてるのがとても恥ずかしい。
「ん? どうかした?」
「別に......」
不思議そうに、また顔を覗き込んでくる翔太。更に恥ずかしくなって、視線を逸らし別の話題に持っていく。
ーー彼女らしいこと出来てるのかな? 変な子って思われてないかな?
なんだかんだ、頭の中は常に翔太のことでいっぱいだ。

「よし。大体計画通りに回れたね!」
「そうだな。それじゃ、どこかでメシでも食べてホテルに帰るか」
「そだね! ホテル戻ったら、最上階のラウンジに行きたいだけど......嫌?」
「何処までも、お供致しますよ、『お嬢様』」
相変わらず澄んだ瞳で微笑んでくる。
ーーうぅ。やはり、これは殺しにかかってる......

予約していたホテルは、少しランクを高めにした。
部屋も夜景が綺麗な部屋を頼んである。
私も東京のホテルに泊まったことはない。もちろん、翔太も。
だからこそ、ホテル選びには拘った。翔太はもっと安いホテルを提案したが、私は食い下がらなかった。
部屋に行く途中のエレベーターの中は、私と翔太の二人きり。どうしても緊張する。するなという方が無理だ。
ガチガチな私に、いきなり後ろから抱きしめる翔太。
「ありがとう。凄い楽しい日になったよ」
「翔太......」
見つめあったあと、私たちはキスをした。
初めてのキス......
エレベーターが部屋のある階で止まり扉が開く。
部屋に行くまで、私の顔は真っ赤だったはず。
だって、ずっと翔太が肩に手を回し密着させてくるから。

部屋の扉を開けて入った瞬間、翔太は窓際まで走っていった。
「マジ?」
カードキーを所定の機械に差し込むと部屋の電気が付いた。
翔太は夜景に見惚れて窓際に座っている。
そういえば、私もこんな風に東京をみたことはない。こんなに素敵な夜景は初めてだ。
ゆっくり翔太のところへ行き、隣に座った。私も窓から夜の灯りを一望する。
「凄いね」
「うん。東京には、こんなものもあるんだな」
「私も知らなかった」
少しの間、私たちは窓際から離れられなかった。

それから、私はシャワーを浴び昼間の汗を流した。
次は翔太がシャワーを。その間に急いで自分のキャリーケースを開け、服を着る。急いでメイクも済ませる。
私なりのサプライズ。翔太の反応が気になる。
ーー翔太、シャワーから出てきたらなんて言うかな
シャワーの音がやむ。
なんとか、間に合った。
時の流れが遅い。翔太に早く見てもらいたい。
ガチャッという音。
「あー、サッパリし......」
こちらを見た翔太が止まる。
「サッパリしたなら良かった」
「いや、悠美、その格好......」
「普段はこういうの着ないんだけど、どうかな?」
私も、なんだかんだ女の子。少しくらい彼氏には良く見られたい。
ーーやりすぎかな。
段々と自分が恥ずかしくなってきて、また下を向いてしまう。
と、翔太が抱きついてきた。
「綺麗だ......」
「本当!? へへ、嬉しい」
今日のこの夜のために、友達に何件も付き合ってもらって今着ているドレスを買った。
「じゃあ、ラウンジに行こっか」
「え、でも......俺、普段着だし、こんな格好でいいのかな」
「大丈夫、大丈夫! 私がついてるから!」
「なんだよ、それ」
二人で笑いながら手を繋いでラウンジの前まで行ってみたものの、明らかにここだけ雰囲気が違う。
いくらお洒落をしてきたと言えど、心の準備を忘れていた。
ーーどうしよう
「ほら、行くんだろ?」
私がたじろいているのを察してくれたのか、翔太が私の手を取ってラウンジの中に入っていく。
なんでもない顔をしてカウンター席に座り、私を隣に招いた。
「慣れてるね......」
「そんな事ある訳ないだろ。こんな所、初めてだよ」
「え、そうなの?」
私たちは、誰にも聞こえないよう小声で話した。
「俺はモヒートで。悠美は何がいい?」
「何か飲みやすいやつないかなぁ」
目の前に来たバーテンダーへスマートにオーダーする翔太。
明らかに私だけ浮いている。
「お客様は、どんなものがお好きですか?」
気を利かせてくれたのだろう。バーテンダーがさりげなく声をかけてくれた。
「飲みやすいものがいいです......」
「それなら、ファジーネーブルはいかがでしょう? 甘味もありますし、飲みやすいので女性は好んで頼まれる方が多いですよ」
「じゃあ、それで......」
隣では、顔を逸らして笑いを堪える翔太。
「もう、何よ」
「悪い、悪い。悠美って、お酒とか飲まないの?」
「付き合い程度だし、いつも連れてかれるのは居酒屋」
「そうなんだ。こんなお洒落なドレスを持ってくるから、てっきり慣れてるのかと思って、内心ヒヤヒヤしたよ」
「そういう翔太はどうなのよ」
「俺の地元の酒は泡盛だから弱くはないと思うよ。それに沖縄にもバーくらいあるよ」
ああ、そうだった。
沖縄はお酒をよく飲むらしいし、前に友達とバーで飲んできたって聞いたこともある。
なんだかんだ、翔太って経験豊富なのかもしれない。
そんなことを考えている間に、ファジーネーブルがテーブルに置かれ、そっと差し出された。
ヤケになった私は、すぐさまグラスを取り一気に飲み干す。
「おい、悠美。無茶するな。そんな飲み方したら危ないぞ」
「何よ、もう! 子ども扱いしないで!」
ちゃんと私は翔太の漏らしたため息を聞き逃さなかった。
翔太は頼んだモヒートを飲みながら、にこやかに私の話に耳を貸してくれている。
これも初めての経験。味わったことのない『非日常』が、また大切な思い出を作っていく。



「ほら、飲めよ」
翔太がミネラルウォーターのペットボトルを渡してくる。
すっかり酔いが回ってしまった私は、言われるがままペットボトルに口をつける。
酔いが回った私は翔太に連れられて部屋に戻ってきた......
「翔太が目の前にいる。これが、翔太なんだ」
「な、なんだよ、いきなり」
「うへへぇ」
まだ酔いが覚めてないのかもしれない。
今までの緊張もなくなり、ぼけーと翔太をみつめていたら、今度は翔太が顔を赤くして横を向いた。
ーーへぇ、こんな可愛い所もあるんだぁ
今まで知らなかった翔太が沢山でてくる。凄く嬉しい。そして、愛おしい。

「翔太」
「ん?」
「好き」
「俺も好きだよ」
そう返した翔太は、私を抱きしめて優しくキスをした。



翌朝、朝陽の眩しさで目が覚めた。
隣で寝ていたはずの翔太がいない。
ーー翔太!? 翔太、どこ!?
部屋を見回すと、窓際に座って外を見ている翔太がいた。
その翔太は、また私の知らない翔太だった。
目を細め、ビルの合間から輝きを放っている空を見ている。
「何してーんの?」
「うわっ!」
「そんなに驚くなんて酷いなぁー」
そう言ながら、今度は私の方から翔太を抱きしめた。
くすりと微笑んでから抱きしめ返してくれる翔太。
この温かさを忘れることは、きっと出来ないだろう。

「よし、準備が出来たらチェックアウトするぞ」
当たり前かのように平然としている翔太に、少し複雑な感情を覚えた。
翔太は、この夏休みという繁忙期の中、無理やり二日間の休みを取って会いに来てくれた。翔太は、今日、沖縄に帰ってしまう。
ーーなによ、また離れ離れになっちゃうってのに平気な顔して。
最初から二日しかいられないことだって分かっていた。また、遠い場所に帰っていくのも覚悟していた。
そのつもりだったのに......いつの間にか、視界がぼやけ声を出して泣いてしまった。
「大丈夫。また会えるから。また、会いに来るから」
「うん......約束、だからね?」
「うん、約束だ」
私は徐々に落ち着きを取り戻し、翔太とホテルを出た。
空港へ着き搭乗のアナウンスが流れるまで、この二日間のことや将来のことをずっと話していた。
どんな家庭にしたい? 子供は何人欲しい?
そんな未来の話を。
アナウンスを聞いた翔太が飛行機に乗ったことを確認。
そして慌てて展望台へ行き、心の中で翔太との約束を胸に飛行機を見送った。



私は、空港から寄り道もせず家に帰り、部屋のベッドに横たわった。まだ翔太の温もりを感じるからだろうか。私の心は、とても穏やかだ。
いきなりスマホが震えた。
翔太から無事に家に着いたというメッセージ。
寂しくも愛おしい。こんな感情は少女漫画の中だけだと思っていた。
そして、いつもの生活が訪れた。
ひとつだけ変化があるとしたら、私のスマホのロック画面だ。恥ずかしがる翔太と無理やり撮った一枚の写真。それを見ては翔太を思い出す。
大学が始まっても、ロック画面を見ては思いを馳せた。
しかし、就活もあり忙しい日々。私も翔太も必死だった。何社も面接を受けては、お祈りメールを貰う日々の連続。
それでも夜は翔太と通話をした。それだけが私の原動力。

やっと内定を貰い、翔太に話すと自分のことより嬉しそう祝ってくれた。
最初は、私が住んでいる近くの会社を希望していた翔太。でも、家の事情もあり沖縄から離れることは出来ないらしい。結局、沖縄の会社に勤めることになった。
春休みに入る頃、翔太から連絡が来なくなった。最初に出会った生配信でも翔太は姿を表さない。
ーーきっと、引越しとか色々あって大変なんだろうな。
毎日毎日、そう自分に言い聞かせた。

そして、ある日。
翔太の幼なじみからダイレクトメッセージが来た。
ーーなんだろう?
何も考えずにフォルダを開け、ダイレクトメッセージをみた瞬間、目眩がした。
私の世界が闇に侵食される。

『翔太は、四日前に事故で死んだよ。 自殺をしようとした女の子を助けようとした時、足を滑らせて海に落ちたみたい。葬儀は身内だけで終わったよ』

ーー翔太が、死んだ?

それからは、私の生活はめちゃくちゃだったそうだ。
何故、こんな言い回しかと言えば簡単。
それから私は翔太のことばかり考えていて、抜け殻のようになってしまった。だから、記憶があまりないのだ。



「長谷川さん、この書類も仕分けしておいてね」
「はい」
やっと就職したというのに、私の心の闇はなくならなかった。裏でみんなが私のことを能面だとか暗くて近づきたくないと言っていることは知っている。
でも、そんなの気にならなかった。
私はずっと闇に支配されているのだから。

「ねぇ、君さ。あんなこと言われて、なんとも思わないわけ?」
不躾に話しかけてきた男性。男性といっても、私と大して歳は変わらないだろう。
じっと見つめてくる彼に対して、何か用ですか、と事務的な返事しか思いつかなかった。
「冷たいなぁ。そんな他人みたいにしないでよ」
「......他人ですなら」
「一応、俺、君の前のデスクなんだけど......」
「だから、なんですか」
「顔も名前も覚えてない、とか?」
「すみません」
マジか......と呆気に取られているみたいだけど、あの時から私はもう何もかもがどうでも良くなっている。
しかし、その日を境に彼から何かしらにつけて話しかけられるようになった。仕舞いには、私の後をついてまわる始末だ。
そのおかげで周りからは、付き合っているのでは? という噂の的になってしまった。
名前は『黒川 隼一』。
毎日、ランチに誘ってくる。最初は無言を貫いていたが、流石に耐えきれなくなった。
「迷惑なんで、もうやめて貰えませんか」
「やっと口をきいてくれた! 一回でいい。食事しない? それだけでいい」
これで終わるのなら、と承諾をせざるを得なかった。

指定された日。
待ち合わせ場所に行くと、既に彼はいた。
約束の時間より10分早い。いつから待っていたのだろう。
「あ、長谷川さん!」
「こんにちは」
「色々考えたんだけど、今日は俺が腕によりをかけて美味しい料理を作ります!」
......へ? レストランとかに行くんじゃないの? 何を考えてるの、この人。
少し強引に彼の部屋に連れてこられ、彼は颯爽とキッチンへ。
私は借りてきた猫のように座るしか出来なかった。

それをきっかけに、私と黒川さんは話をするようになり一緒に出掛けるようになっていった。
私と彼の距離が縮まるのは不思議ではない。そのうち、彼の前で笑うようにもなっている。
いつの間にか彼を信頼したのだろう。私は、翔太のことを話した。
「そんなことがあったんだね。それじゃ、あんな風に人を寄せつけない訳だ」
「人を寄せ付けない?」
「だって、誰にも自分から話しかけないし、近寄るなっていうオーラ満載!」
ーーそうなんだ......私、そんな風に見られてたんだ。
「でもさ、こうやって話をしてくれたり笑ってくれたりして嬉しかったんだよね。信じられないと思うけど、君のこと好きなんだ」
「え?」
「だから、お付き合いしてくれませんか?」
ーーねぇ、翔太。私、受けいれていいのかな?
少し間を置いてから、私は彼の方を向き「考えさせて」と返事をした。



それから私は彼に振り回されてばかりだった。
それでも、なぜか嫌じゃなかった。まるで大きな犬のように人懐っこい笑顔。いろんな所へ行き色んな話をしているうちに、私も満更ではなくなっていた。

「ねぇ、そろそろ結婚しない?」
「結婚......」
「うん。改めて言う。俺と結婚してください」

ーー翔太、私が幸せになるのをみててくれますか?

それから、時は早く過ぎていった。
今、私はウエディングドレスを着ている。
手にはスマホ。隼一と一緒にいるようになってからロック画面の画像は変えた。
でも、写真フォルダを見返すと、そこには翔太がいた。
「悠美ー!」
隼一の声に慌ててスマホの画面を閉じる。
「悠美、それじゃ、行こうか」
「うん」
私たちは拍手喝采の中、チャペルで誓いの儀式を終えた。
進行役の人に促されて外に出ると、そこには友人、会社のみんなが鮮やかな花びらと共に笑顔で祝ってくれた。
「では、女性のみなさん! 前に集まってください!」
その声を合図に、待ってました、と女性陣が集まってくる。
ブーケトスの時間だ。
「ちょっと、そこわたしの場所よ!?」
「もう、邪魔しないでよ!」
私の闇を取り払い、鮮やかな世界へと呼び戻してくれた隼一。
そんな恩人の隼一に笑顔を向けてから、私は叫んぶ。
「いっくよー!!!!」
そう言って、思いっきり空にブーケを投げた。

ーーねぇ、翔太? ちゃん見てるかな? 私、ちゃんと幸せを掴んだよ!!


fin.