「ここに来ても古い本しか無いよ、第一図書室なら東棟の一階にあるけど」
「分かっています」
「じゃあなぜこんな場所に?」
「周りがうるさくて、静かな場所を探していたらここへ辿り着きました」
最初彼女が来た時第一図書室と間違えて来たのかと思ったが、ただ静かな場所を求めてここへ来ただけだった。この高校は人数がかなり多く県内でも1、2を争うほどの大きさだ。なのでほとんどの場所が人の声でうるさく、静かな場所といってもここぐらいしかないのだ。
「そうゆうことか」
「あなたはなぜここに?」
「ただ古い本が好きで、ここの書物を漁ってるだけだよ」
夜野は「そうゆうことですか」とほとんど無表情のまま納得した様子だった。
「じゃあ俺は本を読むからこの辺で」
そう言って俺はテーブル隅に置いてある椅子に座り本を読み始めた。彼女は俺と対称の位置に置いてある椅子に座り勉強を始めた。ここにはテーブルが一つしか無く椅子も6つしか無いので自然とそうなってしまう。

1時間半ぐらい経過しただろうか、一切会話することは無かったが、集中力が切れ始めたのか、彼女から質問が飛んできた。
「今何の本を読んでるのですか?」
「ん?ギリシャ神話のオルフェウスとエウリディーケ」
「それは一体どんな話なのですか?」
「死んでしまった、エウリディーケを取り戻すために、オルフェウスが、冥府の神ハーデスに頼んで、地上に戻るまでエウリディーケの顔を見てはいけないという条件付きで一緒に帰ることを許されたんだけど、最後にオルフェウスが死者の国と地上を繋ぐ階段でエウリディーケの顔を見てしまって結局2人は一緒になれなかったて話。」
「なるほど?」
彼女がなぜか気難しい顔をしていたので、「どうかしたか?」と聞いてみたが、「いえ、何でもないです」と返された。
「ふふっ、あなたってなかなかマニアックなのですね」
「そうか?」
夜野が微笑んでいることに、少し驚いた。彼女は今日女子にも男子にも無表情で接していたから、この様に笑うところは初めて見る。
彼女が「どうかした?」と声を掛けてきた。
「いや、笑うんだなと」
「ひどいですね、私だって人だもの笑うことぐらいあります」
「そんな感じで、他の人にも接すれば少し印象がマシだったんじゃないか?」
「別に私がそうしようとして、したことですから、気にしないでください」
「はいはい」
その後夜野は、「そろそろ暗くなるので帰ります」と言って図書室を出た。そして俺も彼女に続いて帰ることにした。