その男の子を見たとき、私は子供ながらなんとなくお父さんが言っていたことを理解した。
弱々しくて、話したいことをハッキリ話せない。
そのせいでこの子はきっとあのいじめっ子たちにいじめられたのだと思った。
「大丈夫血は出てないから、それより、ありがとう助けてくれて。」
力のない笑顔で感謝を伝えるその子を見て私は思わず口に出してしまった。
「良いわよこれくらい。そんなことより、あなたも少しぐらい言い返したらどう？」
初めて会った子に、こんなことを言うのは間違っていると今の私は思うが、当時の私はそんなことを考えずに言った。
「言い返したけど、あいつら全然やめてくれないんだもん」
きっと言い返したのは本当だったのだろう、だけどその言葉はきっと弱々しく、いじめっ子たちには伝わらなかった。
「やめてくれないってことはそれだけ、あなたがハッキリ言ってないってことじゃない」
その言葉は人によっては、ひどく傷つけてしまうかもしれなかった。
そんなことも考えず私は発言してしまったのだろう。
だけど、どうしても伝えたかった、この子が今後いじめられないためにも、この事を伝えてあげたかった。
「私のお父さんがよく言ってるの、言いたいことをはっきり言わないと、いろんな人に嫌われちゃっていじめられたりしちゃうよって」　
だから当時の私は、お父さんの良く言っていたことを、その子に教えた。
だけど、その子は今にも泣きそうな表情を浮かべながら
「無理だよ僕には」
そう言った。
私はどうしようか考えた。
初めて会った子に何故ここまでするのか、わからない。
だけど、この子を今見捨ててはダメだと、子供ながらに察していた。
どうしようか考えたとき、私はあることを思いついた。
「もし君が言いたいことを言えなくていじめられちゃうなら、それまで私が守ってあげる！」
「え…？」
なら私がこのまま見ていれば良い。
単純な答えだった。
私が近くにいる間は、この子はいじめられなくなる。
そして、私が近くにいればいつかきっと、自分の言いたいことを言えるようになると思った。
「けどもし私が言いたいことが言えずにいたら、その時は君が私に言って、言いたいことはしっかり言うんだよって」

「約束！」

夕日に照らされながら少し強引に、私たちは約束を交わした。