夕暮れ時に笑うキミを僕は永遠に忘れない

「そっから高校入って本格的に人との関わりを避けながら図書室に入り浸ってたら、奏が入って来た。これで俺の昔話はお終い」
そうして俺は話を締めた。
正直、奏にここまで話すつもりはなかった。
あの子の話を他人に話したって、変に思われるだけだ。
だけど奏には話しておきたかった。
あの子に似てる彼女に、このことを話さずにはいられなかった。
「ん?」
ふと、奏の目を見ると、心配いるように見えた。
「心配してくれてるのか?」
「えぇ…」
不安そうな声色でそう返す奏に俺は言った。
「全部が全部消えた訳じゃないぞ。確かにあの子に教えてもらったことに蓋をしてるし、その時目指していた目標も消えた」
あの子の教え、そして憧れ、そのほぼ全てに今は蓋をしている。
だけど、まだ残っているものもある。
「あの子がくれた、揺れすぎて誰だかわからないたった一枚の写真。これのお陰で、俺はまだあの子に再会することを諦めきれないんだ…」
あの子が「カメラ貰った」とはしゃいでいる時に、一緒に撮った写真。
これがなければ俺は、無気力にただ時間が過ぎるのを感じる生活を送っていただろう。
俺にとってあの写真は、あの子との思い出であり、呪いである。

紬くんは、微笑んで「あの子に再会することを諦めきれないんだ…」と言っていたけど、眼の奥からは何もかもを諦めてしまっているようにしか見えなかった。
今の紬くんは、全てを諦め、悔やみ、苦しんでいると思う。
これは紛れもなく私の責任…夕凪奏としての責任…
私が君に、自分勝手な考えを押し付け、勝手に目の前で消えて、こんな思いをさせてしまった責任だ。
胸が苦しい、謝りたいのに謝れない、自分の正体を話したいのに話せない。
きっと彼は、今の自分の姿を私に見られたくないから。
私と、紬くんが話したその子が同一人物だって知ったら、きっともっと追い込まれてしまうから。