カフェを出たあと、服屋を目指して移動しながら、他愛のない会話をしているときだった。
「これはこれは、天乃くんじゃないですか」
突然後ろから揶揄うような声で、話かけられた。
そいつの顔を見た瞬間俺は、血の気が引いたのを感じた。
「柏崎…」
柏崎康平、中学時代クラスの中心的な存在で、みんなから慕われていた人間。
そして思い出したくもない、あの事件の当事者でもある。
「紬くん?顔色悪いけど知り合いなの?」
奏が心配そうな表情で聞いてくる。
「中学時代の知り合いだよ、それより早く服屋に行くか」
奏にあの事を知られたくない、その思いで俺は素早くこの場を去ろうとした。
「ひどく冷たいじゃないですか、久しぶりの再会だというのに。あ、それより、そこの綺麗なお嬢さん、早くその男から離れた方がいいですよ」
(まさか⁈)
ここはショッピングモール、人も多くいる。こんな場所で、あのことを話すのか。
「彼は中学時代、僕のことを殴って怪我をさせました。彼に何もしてなかったのにです」
「やめろ!!」
思わず声に出してしまった。人の視線が俺に集まってくる。突然の大声に何事かと思う人の視線、話を聞いていて俺のことを冷たい目で見る視線、大丈夫か心配そうな目で見る視線。
あの時のトラウマが蘇る、クラス全員で俺のことを責めた、あの日の記憶が…
「突然大声を出さないでください、隣のお嬢さんもとても驚いていますよ」
「!!」
急いで奏に視線を向けると、驚いた表情の中に不安そうな表情があった。
「紬くん?」
「ごめん奏、ちょっと先に帰るわ」
奏のこんな表情を見たくない、そんな思いで俺はその場を飛び出した。
「待って紬くん!!」
引き止める奏を背に、俺はそのまま走っていった。