あの日から1ヶ月経った。
特に何かあったかと言えば何もない。ただ奏と紬、互いに下の名前で呼び合うようになって、図書室以外でも話すことが増えたぐらいだ。
そして今日の放課後もいつも通り図書室で過ごしている。もうすっかり奏がいることも当たり前になっていた。
「ねぇ紬くん?」
「どうした?」
「もうテスト期間だけど君は勉強しなくていいの?」
もうそろそろうちの高校は期末テストがある、この高校のテストは他校と比べてレベルが高いで有名で、しっかり勉強しないと赤点回避が至難の業だ。
「そういえばもうそんな時期か、すっかり忘れてた」
「やけに落ち着いてるわね?」
「別に赤点を回避さえすれば僕は良いからね」
「ふぅんそうなんだ」
最近になって奏のことが少しわかった。彼女は思った以上に喋ることだ。基本僕と比野がよく話し相手になっているが、他の人には話しかけていない、女子から話しかけられても、男子から話しかけられても、彼女は塩対応。なので彼女は一定の信頼が無いとそもそも話さない。
そんな彼女の次の言葉で僕は驚いた。
「ねぇ紬くん、期末テストの合計点私の方が高かったら、一緒に映画見に行ってよ」
「別に良いよ…ん?今なんて?」
奏からの予想外の言葉に戸惑って、思わず聞き返す。
「だから、テストの合計点私の方が高かったら一緒に映画見に行こうって言ったの」
「何故テストの点数勝負をするのかはともかく、何で僕と映画を見に行きたいの?」
正直何か裏があるとしか思えなかった。疑うことはあまり良く無いだろうが、急過ぎる上ここまで普通だと、どうしても疑ってしまった。
「最近やってる映画を見たいのだけど、内容的に比野さんは誘えないし、その、1人だとなんか寂しいから」
じゃあ何故普通に誘わなかったのか疑問に思ったが、口にせず、珍しい彼女の提案に乗ってみることにした。
「良いけど負けても文句言うなよ〜」
「負けると思ってないし、負けても文句言わないから」
自信があるのか、少し口角が上がっている。
何で奏がこんな事を言ったのか気になったが、あまり気にしないでおこうと思った。そしてその自信を無くさせてやると少々考えながら、僕は内心楽しみでいた。