「思い出になんか……出来ないよ」

 思い出なんかには、したくない。

「朔月くん……」

「思い出にするなら、いい思い出にしたい。……両思いだってようやく分かったんだから、いい思い出にするよ」

 それが俺の中にある、早瀬との思い出だ。 早瀬と笑ったこと、早瀬と一緒に働いたこと、早瀬とキスをしたこと、早瀬と身体を重ねたこと。
 これは全部、俺の中にあるいい思い出だ。

「……朔月くんは、優しいね。昔からずっと、優しかった」

 微笑みを浮かべる早瀬は、「私は……朔月くんとこうして、一緒にいられて、本当に良かったと思ってるよ」と俺の手を握りしめる。

「早瀬……死んでも、俺のことは忘れないでほしい」

 俺がそう伝えると、早瀬は「……忘れないよ。 絶対に、忘れない」と微笑んだ。

「……俺も、絶対に忘れないから。早瀬のことは、絶対に絶対に、忘れないよ」

「うん……ありがとう、朔月くん」

 こうして早瀬と一緒にいられるのは……後どのくらいだろうか。
 まだもう少し、一緒にいたい。

「早瀬……眠いだろ? もう、寝ようか」 

「うん……おやすみなさい」

「……おやすみなさい」

 その日俺たちは、繋いで手を離さないようにギュッと握りしめて眠りについた。
 離さないように、しっかりと握りしめていた。その手をーーー。
 

 
✱ ✱ ✱