side:朝陽   * * *

 田舎は至って平和だ。
 そもそも平均年齢が高いという事もあって、犯罪は比較的少ない。
 だからこそ、犯罪が起こる場所は限られてくるんだ。
 くそ、何なんだよあのLINE。
 時刻は午前一時過ぎ。真夜中にも程がある中、さっき来たLINEを見返した。
 急にあいつから、助けてとか……。
 これで冗談とかだったらまじで締め出すからな。
 俺は、犯罪が起きそうなスポットを数か所に絞って探していた。
 一箇所目、居ない。
 二箇所目、居ない。
 三箇所目、居ない。
 ずっと見当たらない状況が続いていた。
「くそ、もうほとんど探したぞ……。」  
 俺はその場に立ち止まり、頬をつたる汗を拭う。
 ほんとにアレはイタズラ?俺への仕返しだろうか。
 道の端で、にゃーと鳴く野良猫の声が聞こえる。
「っ……、。」
 俺はまた走り出した。
 もういい。イタズラならそれでもいい。あいつの茶番に付き合ってやるよ。だから……、
 だからこそ。どうか、悪戯であってくれ、……
 無事であってくれ──────。

 スポットもだんだんと限られてきた。
 あと残すのは一箇所。
 目星がつくのは、あそこしかない。
 俺は、蒸し暑い空気を掻き分けながら猛スピードで進んだ。
 住宅地を進んだ先にある、森に隣接した小さな裏道。
 その道は、進んでいくと海の浜辺に出るんだ。
 あそこは昔から何回か犯罪があった。
 家の裏側で人の目は届かないし、その道にある公民館も殆ど使われてなく、木が茂っているんだ。
 頼む。イタズラとかもう、どうでもいいんだよ。嘘なら嘘で────────
 脳内にそれが過ぎった時だった。一瞬にして、俺の頭は真っ白になった。
 茂る木々に隣接している道を歩く、二つの影。
 月明かりに照らされた黒く短い髪は、暗闇の中でも異様に目立って靡いていた。
「おい、なにしてんだよお前ら。」
 目の前を歩く男女は、明らかに距離感がおかしかった。
 俺は駆け出して、男女の距離を引き離す。
「ッ……。」
 女の方は、ひどく怯えた目をしていた。
「は、何だよお前、?!!」
 明らかに動揺する男から守るように、女の前に立つ。
「なんだよ、じゃねぇだろ。お前ふざけんなよ。」
 そこまで言うと、俺は男の胸ぐらを掴み上げた。
「なにしようとしてたんだよ。しかもその制服。……春海高の制服だよな?同じ学年か??」
「ッ、!!」
「今ここでこの女を手放すか、学校に報告が入って退学処分になるか、どっちか選べよ。」
 睨みつけると、あっさりもその男は縮こまった。
 は、なんだコイツ。ダサ。
 男はクソが、と捨て台詞を吐いてその場を去っていった。
 ……んなことはどうでもいいんだよ。
 その男が消え去るのを見届けると、後ろを振り返った。
「無事か。何があったんだよ、──────黒川。」
 目の前の女、黒川は体を震わせていた。……あからさまに、口実をつけて狙われたか。
「ッぇ、ぁあッ……。」
 声にならない言葉を漏らして、地面を見つめる黒川。
「……はぁ、とりあえず戻るぞ。」
 そう言って、黒川に手を伸ばした時だった。
 伸ばした手は、空中でパシッと弾かれる。本人は何も言わず、海に抜ける路地の先を駆け出していった。
「ちょ、おい、黒川!!」
 クソが、めんどくせぇ。んなことされたら……、
 んな震えた、涙を溜めた目で見つめられたら……、
 追わねぇわけにはいかねぇだろ。

side:真夜   * * *

 私は、小さい頃から何もわからなかった。笑顔になるきっかけも、怒っちゃうきっかけも。みんなそれぞれちゃんとラインがあるのに、私には何一つなかった─────。