side:?   * * *

 ────わからない、わからないよ、こういう時ってどうしたらいいの?
 怖い、気持ち悪い、気色悪い。
 声はチョコレートみたいに甘いのに、触れてくる手はとても冷たいの。
 夏なのに、体の芯から芯までが凍りそうなほど冷たい。
 心臓が悲鳴をあげてる。緊張なんかじゃない。そんな甘ったるいものじゃない。
 ……警告音にしか聞こえない心臓は、私の決断を代わりにしてくれた。
 指を腰の後ろで静かに動かす。
 今わかる範囲の感情だけを打ち込んで、私は送信を押した。
「なぁ〜、色々困ってるんだろ?相談乗ってやるよ。ほら、いいとこ知ってるからそこ行ってじっくり聞いたげるよ。」
 ヒタ、っと肩が相手の手で覆われる。知らない、なにこれ。どういうこと。
 ちゃんと押せたのかも分からない。
 けれど、もう私は違う危険を察知して、スマホを静かにポケットにしまった。
 どこに届いた、分からない。……何が起きてるの?

side:朝陽   * * *

「う、ぁ……。」
 真っ暗な部屋に、スマホの電源が急に着いて目が覚める。
 なんだよ、こんな時間に通知?
 消去モードにしといたのに電源が着いたってことは、LINE?
 まじ公式LINEとかだったら消してやる。
 そう思いながら、重い腕を伸ばしてスマホをとる。
 ブルーライトを浴びた目を細めながら、俺は内容を確認した。
 そして、家を飛び出した。
 片手にスマホを持って、部屋で着ていたダル着のまま灯りのない田舎道を走る。
 スマホの光は今もその田舎道を照らし続けていた。


 
【FROM──黒川】
 
   【助けて、わからないよ。教えて、気持ち悪い。】
 
       * * *