side:真夜 * * *
「暇ね。」
「暇だねー。」
「涼し〜。」
「「真夜、話聞いてた?」」
「んっ?」
私は、いつもの女子メンバーとベランダでパックのジュースを飲んでいた。
「最近、ビックニュースも何も無いし。」
片手でスマホを器用に動かしながら言う友達。
「まだ昼休み三十分もあるよ〜。」
はぁー、とフェンスにダラーンともたれ掛かるもう一人の友達。
……昨日の朝陽、訳分からない。勝手に人のこと決めつけといて。しかも喋ったことないのに。
クラスメイトだったのはびっくりしたけど、今日見た感じ、目立つ方じゃなかったし。私が知らなかったのは、向こうにも難があるでしょ。
「いつも通り喋るだけだったら、物足んないしね〜。真夜はどうしたい?」
「……ん、え?」
急な問いかけに、頭の回転がストップする。
さっきまで考えていたことが全て消去されて、みんなの話題を頭に入れる。
「うーんと……。特にないな〜。」
どんなに頭が働かなくても、こう言っとけば大体どうにかなる。
「そっか〜。」
ほらね。
「じゃあ、誰が一番最初に男子とLINE交換出来るか競お。」
「は、」
「いいねー!」
「時間は昼休みまで!!」
「え、ちょ待ってよ。」
「交換出来たやつから、教室に集合!……よーい、スタート!!」
私が呼び止める前に、友達全員は颯爽と駆け抜けていった。
「……。」
ベランダに取り残される私は、呆然としたまま、もう一度空を眺めた。
……めんどくさ。急に言い出したかと思えば、すぐ実行するじゃん。
はぁ、男子かー。
私、男子とそんなに話さないから無理なんだけど。
……でも、ここで交換できなかったー、って呑気にノコノコと帰ってきたら、ノリ悪って言われるんだろうな。
あ〜、めんどくさー。
ひとまず、勘違いされないように教室から出よ。
・・・いねーよー!!
私は、スマホを片手に持ったまま、廊下をうろちょろしていた。
いや、どんなに初対面でもある程度コミュニケーションは取れるよ?!取れるケド・・・!
でも、LINE交換は無理だわ!!
男子と言えば、ほとんどが初対面なの!!
あー、負けたー。
とりあえず廊下を見渡した。
ヒモそうなやつ……。大人しい子を巻き込むのは流石に可哀想。
でもだからって……、
「やばウケる〜!まじやべぇーやん。」
あんなギラギラした男子は絶対ムリーっ!!!
はぁ……、どうしろって言うのよ……。
「っ……。」
その時、丁度いいものを目にした。
廊下の窓から外を一人で眺めながら、カフェオレを飲んでいる一人の男子生徒。
その横で私は壁によっかかり、スマホをポチポチと操作した。
「……え。」
急な事を前に、対応に困る男子生徒。
「LINE交換してくれない。友達と競ってて。」
淡々とそう言う私を見て、固まる男子生徒。傍から見たら、ただ私が無愛想な奴みたい。
「……お前、流石にそう言うクズみたいな事は断れよ……、」
「引くな!……いいから早くしなさいよ。昨日地雷踏んだ罰。」
そう言って、そいつにLINEのQRコードの載ったスマホ画面を突きつけた。
「朝陽、さっさと登録して。」
「……。」
……なんで黙ってるのよ?!!
「……とりあえず、場所移していい?」
「は?なんで。」
そこまで言うと、朝陽は私の後ろを指さした。
「・・・。」
そこには、ニヤニヤした朝陽の友達であろう男子が立っていた。
「うん、そうだね。移動しよう。」
私は朝陽の背中をグイグイ押して、その場をかけ離れた。
「……はい。できたよ。」
「ありがと。」
人気がさっぱりない屋上のフェンスによっかかって、私は登録承諾ボタンを押した。
「それより、なんでよりにもよって俺?」
「だって、男子とLINE交換とかめんどくさいんだもん。だからって、交換しないとノリ悪いって言われるし。」
「俺も一応、至って普通の男子生徒なんだけど。めんどくさいことに巻き込むなよ。」
「昨日の借り。」
「はぁ。……なんかあれば連絡しろよ。一応、交換したんだから。」
「はぁ……?あんた、ほんとにお節介なんだけど。嫌い、大っ嫌いッ。」
そう言うと、私は屋上を出ていった。
* * *