「……できた」
 糸始末をして糸切り鋏を入れるとパチっと糸が切れた。私は、刺繍出来たものを眺めて図案通り出来たことに安心した。今回はハンガリー風の花刺繍を刺した。私好みに出来上がったから笑みが溢れる。
 ふふっと思わず声を出して笑いながら、型紙を当てて裁断する。それをミシンや手縫いで縫い合わせ完成したものを写真撮影する場所に置き、スマホで撮るとそれにハッシュタグをつけてSNSに投稿した。
 投稿した後はオーダーしていただいた完成品を袋詰めにして名刺とメッセージを添えて封筒に詰めて封をすると手提げかばんに入れて外に出た。
 
 マンションの部屋を出て、最寄り駅まで歩いて十五分。電車を使って一駅だけ乗って、駅から五分ほどのところで郵便局でさっき袋詰めしたものを出して今日の目的地に向かう。
 大きなビルの中に入ると【宮川生地】という文字を見て二階を押し、いつもの様に受付を済ませると中から「奏和ちゃん」という声と共に男性が出てきた。
「誠さん。こんにちわ」
「あぁ、こんにちわ。奏和ちゃん、いらっしゃいませ」
 ここ、宮川生地は生地問屋で手芸店では手に入らないものが売られている。この人は宮川(みやかわ)(まこと)さんと言ってここの御曹司だ。私が初めて来た時に対応してくれたこともあり、今も仲良くさせてもらっている。
「今日は何をお探しですか」
「えっと、シーチングの無地を生成りとチェリーピンク、あとモスグレー、シアン、ラベンダーを五十センチずつ欲しくて……あと、ヌビの生地を」
「了解。ちょっと待ってて、確認するね」
 誠さんは、奥に入ってタブレットを操作してヌビの在庫があるのを確認してくれてそれのピンクベージュを注文する。
「全部あったよ、奏和ちゃん」
「ありがとうございます、誠さん」
 私は会計をすると、注文したものが出てきて誠さんに詰めてもらった。
「今日もありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。奏和ちゃんこのあと用事ある?」
「え? このあとはないです、帰るだけです」
 そう言えば、誠さんはとても嬉しそうに「お昼、一緒にどうかな?」と提案されお昼に向かった。
 
 ***
「じゃあ、またね」
「はい。ありがとうございました!」
 いつもと同じ言葉を交わし帰宅すると珍しくお母さんから電話がかかってきていた。上機嫌で電話に出ると、彼女の言葉に驚きが隠せない。
 その言葉が、私の運命を変えたのだった。
「お父さんがね、危篤だって! どうしよう」