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山村さんと公園で語り合ってから生活が激動の日々と化した。
部活で言えば夏の大会が終わり先輩が引退した。目標としていた県ベスト4には届かずベスト8という結果だった。
川上部長からはお前達の代で結果を残してくれと想いを託された。
夏休み前から2年生を最上級生とした新体制となり、短い期間だったが練習を積んで秋季大会に臨んだが投打が上手く噛み合わず地区予選で敗退した。
実戦を通してチームの課題が明確になり、夏から秋にかけて1つずつ潰している最中だ。
山村さん周りでは元親友の萩野真由との問題に決着をつけた。
山村さんに暴力を振るう萩野とその取り巻きの様子を物陰からスマホで撮影。証拠を押さえることに成功した。
その上で萩野の彼氏と接触した。
山村さんが自分に色仕掛けをしてきたなどという嘘の証言を萩野に信じ込ませ、山村さんに攻撃するよう仕向けた罪を認めさせた。
動画に収められた行き過ぎた萩野の暴力行為を見せ、そのきっかけを作った張本人であることを必死に説いた。
萩野の彼氏は初めははぐらかしていたが動画を見せられて態度を変えた。
一時の感情に身を任せてついた嘘が何人もの人生を狂わせた。
その罪の重さを認識したのだろう。
罪を犯した人間はきちんと裁かれるべきだ。
だが、裁くのはオレではない。あくまでも学校側だ。
オレは撮影した動画を学校に提出し、去年の冬から続いた一連の流れを余すことなく報告した。
それを踏まえてどういう判断を下すのかは学校側に委ねた。
いじめ問題は闇が深い。
表沙汰にしたくない学校側の対応の遅さに我慢できず泣き寝入りする被害者。
大抵がこんな構図になる。
インターネットが発達した現代ではSNSに動画を投稿して拡散させることで社会的に抹殺することもできなくはないが、オレも山村さんもそこまでのことは望んでいない。
学校側に提出した時点でこの問題に区切りをつけて新しい一歩を踏み出すことの方が重要だ。
「翔太くん、見せたい景色って何?」
自転車で後ろを走る山村さんが車の騒音に負けないように声を張り上げる。
「もうちょっとで着くよ」
「やったね!」
山村さんは出会った頃と比べて随分と明るくなった。
無色透明で何色にも染まっていなかった彼女は世界の素晴らしさに触れることで少しずつ色を付けていった。
仙台駅近くのアーケードで買い食いをしたり、図書館に行ってみたり。
オレが部活の休みの日には仙台うみの杜水族館に出掛けてアシカとイルカのショーを見たりもした。
学校にいる時も表情が柔らかくなり、笑顔が増えた。
山村さんがオレに対して心を許してくれた証なのか気付けば苗字呼びから名前呼びに変わっていた。
2人でもっと色んな所に遊びに行きたい。美味しい物を食べたい。趣味を共有したい。
山村さんと会う度にその想いが強くなっていった。
だから今日その想いを伝える。
「うわ、綺麗〜」
「この時間帯だと夕日が綺麗に見えるんだ」
全長約625メートルある太白大橋。
通学の時は坂がキツイし、長いしで億劫になるポイントの1つだがここから見る夕日は格別だ。
自転車を止めて川や木々を静かに眺める。
ふと隣を見ると山村さんの体が茜色に染まっていた。
理不尽な目に遭い、消えかかっていた内なる炎が再び外に溢れ出たように山村さんの体を真っ赤に燃やしている。
茜色の『茜』は彼女の名前だ。無色透明だった彼女は今では眩しいくらいに輝いている。
「茜、オレ茜のことが好きだ。茜もオレと同じ気持ちだったら付き合って欲しい」
山村さんは驚きの表情を浮かべ、申し訳なさそうに目を伏せた。
そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ありがとう。でもごめんなさい。私好きな人がいるの。翔太くんには本当に感謝してる。私が今生きているのは翔太くんのおかげだから」
予想外の答えに頭が真っ白になった。
オレが言葉に詰まっていると山村さんが真剣な眼差しでオレの目を見た。
「翔太くんには本当に感謝してもしきれない。翔太くんの優しさに何度救われたことか。こんなに真っ直ぐな人がいるんだって、信じてもいい人がいるって教えてくれた。生きる希望を、世界の素晴らしさを教えてもらった」
「オレはただ間違いを正しただけだよ。あと茜に幸せになって欲しかったんだ」
「ありがとう。返事に応えられなくてごめんね」
もしかしたら何となく山村さんも告白されることを察していたのかもしれない。
分かっていて最後までオレと向き合ってくれたような気がする。
「それじゃあ、私行くね。また明日、学校で」
「うん。気をつけてね」
山村さんが去った後もオレはこの場を離れることができなかった。
太陽が山の向こうに姿を隠し、夜が訪れても頭の中に渦巻くごちゃごちゃを整理することができない。
タイミングが合わなかったとか、時間が解決してくれるとか自分を納得させる為の言葉を聞いたことがあるけれど、すぐに飲み込むには経験値が足りなさ過ぎる。
彼女の抱えていた問題が解決して生きる意味を見つけてくれたのだから後悔はない。
だけどこの苦しい気持ちは消えてくれない。
「なんでだよ……」
失恋という苦い経験を溜息と共に吐き出し、オレは自転車を押して家まで歩いて帰るのだった。
人嫌いのキミが茜色に染まるまで、完結。
山村さんと公園で語り合ってから生活が激動の日々と化した。
部活で言えば夏の大会が終わり先輩が引退した。目標としていた県ベスト4には届かずベスト8という結果だった。
川上部長からはお前達の代で結果を残してくれと想いを託された。
夏休み前から2年生を最上級生とした新体制となり、短い期間だったが練習を積んで秋季大会に臨んだが投打が上手く噛み合わず地区予選で敗退した。
実戦を通してチームの課題が明確になり、夏から秋にかけて1つずつ潰している最中だ。
山村さん周りでは元親友の萩野真由との問題に決着をつけた。
山村さんに暴力を振るう萩野とその取り巻きの様子を物陰からスマホで撮影。証拠を押さえることに成功した。
その上で萩野の彼氏と接触した。
山村さんが自分に色仕掛けをしてきたなどという嘘の証言を萩野に信じ込ませ、山村さんに攻撃するよう仕向けた罪を認めさせた。
動画に収められた行き過ぎた萩野の暴力行為を見せ、そのきっかけを作った張本人であることを必死に説いた。
萩野の彼氏は初めははぐらかしていたが動画を見せられて態度を変えた。
一時の感情に身を任せてついた嘘が何人もの人生を狂わせた。
その罪の重さを認識したのだろう。
罪を犯した人間はきちんと裁かれるべきだ。
だが、裁くのはオレではない。あくまでも学校側だ。
オレは撮影した動画を学校に提出し、去年の冬から続いた一連の流れを余すことなく報告した。
それを踏まえてどういう判断を下すのかは学校側に委ねた。
いじめ問題は闇が深い。
表沙汰にしたくない学校側の対応の遅さに我慢できず泣き寝入りする被害者。
大抵がこんな構図になる。
インターネットが発達した現代ではSNSに動画を投稿して拡散させることで社会的に抹殺することもできなくはないが、オレも山村さんもそこまでのことは望んでいない。
学校側に提出した時点でこの問題に区切りをつけて新しい一歩を踏み出すことの方が重要だ。
「翔太くん、見せたい景色って何?」
自転車で後ろを走る山村さんが車の騒音に負けないように声を張り上げる。
「もうちょっとで着くよ」
「やったね!」
山村さんは出会った頃と比べて随分と明るくなった。
無色透明で何色にも染まっていなかった彼女は世界の素晴らしさに触れることで少しずつ色を付けていった。
仙台駅近くのアーケードで買い食いをしたり、図書館に行ってみたり。
オレが部活の休みの日には仙台うみの杜水族館に出掛けてアシカとイルカのショーを見たりもした。
学校にいる時も表情が柔らかくなり、笑顔が増えた。
山村さんがオレに対して心を許してくれた証なのか気付けば苗字呼びから名前呼びに変わっていた。
2人でもっと色んな所に遊びに行きたい。美味しい物を食べたい。趣味を共有したい。
山村さんと会う度にその想いが強くなっていった。
だから今日その想いを伝える。
「うわ、綺麗〜」
「この時間帯だと夕日が綺麗に見えるんだ」
全長約625メートルある太白大橋。
通学の時は坂がキツイし、長いしで億劫になるポイントの1つだがここから見る夕日は格別だ。
自転車を止めて川や木々を静かに眺める。
ふと隣を見ると山村さんの体が茜色に染まっていた。
理不尽な目に遭い、消えかかっていた内なる炎が再び外に溢れ出たように山村さんの体を真っ赤に燃やしている。
茜色の『茜』は彼女の名前だ。無色透明だった彼女は今では眩しいくらいに輝いている。
「茜、オレ茜のことが好きだ。茜もオレと同じ気持ちだったら付き合って欲しい」
山村さんは驚きの表情を浮かべ、申し訳なさそうに目を伏せた。
そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ありがとう。でもごめんなさい。私好きな人がいるの。翔太くんには本当に感謝してる。私が今生きているのは翔太くんのおかげだから」
予想外の答えに頭が真っ白になった。
オレが言葉に詰まっていると山村さんが真剣な眼差しでオレの目を見た。
「翔太くんには本当に感謝してもしきれない。翔太くんの優しさに何度救われたことか。こんなに真っ直ぐな人がいるんだって、信じてもいい人がいるって教えてくれた。生きる希望を、世界の素晴らしさを教えてもらった」
「オレはただ間違いを正しただけだよ。あと茜に幸せになって欲しかったんだ」
「ありがとう。返事に応えられなくてごめんね」
もしかしたら何となく山村さんも告白されることを察していたのかもしれない。
分かっていて最後までオレと向き合ってくれたような気がする。
「それじゃあ、私行くね。また明日、学校で」
「うん。気をつけてね」
山村さんが去った後もオレはこの場を離れることができなかった。
太陽が山の向こうに姿を隠し、夜が訪れても頭の中に渦巻くごちゃごちゃを整理することができない。
タイミングが合わなかったとか、時間が解決してくれるとか自分を納得させる為の言葉を聞いたことがあるけれど、すぐに飲み込むには経験値が足りなさ過ぎる。
彼女の抱えていた問題が解決して生きる意味を見つけてくれたのだから後悔はない。
だけどこの苦しい気持ちは消えてくれない。
「なんでだよ……」
失恋という苦い経験を溜息と共に吐き出し、オレは自転車を押して家まで歩いて帰るのだった。
人嫌いのキミが茜色に染まるまで、完結。