貴族の男は脚を撃たれ、痛みに騒ぎ出した。
「血が……! 貴族であるわしの血が……!」
 ナイフなどほっぽり出して、溢れ出す鮮血をどう止めたものか考えているようだ。が、パニックというのもあり、いい案が浮かばないらしい。
「こっちだ! こい!」
 ヴィアザは少女に、視線を向けて声を張った。
 少女は弾かれたように、さっと顔を上げてこちらへ駆け寄ってきた。
「あの場所へ」
 ヴィアザが低い声で告げると、セリーナは少女を連れて、家を去った。


「殺してやるよ」
 痛みに騒いでいる貴族に近づこうとしたが、使いの男が立ち塞がった。
「死にたいのか」
 ヴィアザは嘲笑(あざわら)うと、刀を繰り出した。
 男の腹を刺し貫き、無造作に刀を引き抜く。鮮血が溢れ出す傷に、強烈な蹴りを叩き込んだ。
 男はその勢いに耐えきれず、壁に激突。激しく咳き込んだ。
「後で相手してやる。それと、返す」
 部屋の入口に置いてあった、ずしりと重い印つきの袋を、二人の間に向かって投げつけた。
「あの子どもを引き取るのなら、返して当然だ」
「勘違いしていないか? 貴様らに金など必要なかろう?」
「大きな石が詰め込まれているだけで、金のコインが一枚もありません!」
 使いの男が中身を見て叫んだ。
「騙したな!」
「それがなんだ? 貧しい者達の人生を、命を、金の袋ひとつで買い取ることがおかしいんだよ。値段がつけられないものなのに、勝手につけて。それらは売り物じゃあない」
 ヴィアザは貴族の男を睨んだ。
「黙れ、黙れ! 代々そうしてきたから、やったにすぎん!」
「代々そうしてきたから赦されると? ふざけるな」
 ヴィアザは怒気をあらわに吐き捨て、刀を貴族の男に向けて駆け出した。
 腹の傷を庇いながら、使いの男が壁になるためか、突っ込んできた。
「邪魔だ」
 心臓を刺し貫き、刀を強引に引き抜いた。倒れそうになった骸を、貴族の男に向かって蹴り上げた。骸を鈍器代わりに使ったのだ。
 大袈裟な動きで躱した男だったが、脚からの鮮血は止まっていないし、腰が引けている。
「金をやる! 言い値で! だから、生かしてくれ!」
 怯えきった悲鳴が響いた。
「金なんぞ()らん」
「や、やめ……っ!」
 ヴィアザは右手で、男の口を塞ぎ、腹に刀を深々と刺した。
「っ……!」
 首を振ろうとしたのをやめさせ、涙目になっている男を、呆れたように見つめた。
 無造作に刀を引き抜き、今度は右太腿を刺し貫いた。
 もう十分かと思ったヴィアザは、心臓を刺し貫くと、押さえていた右手を離した。
 鮮血が派手に飛び散り、右手は鮮血で真っ赤に染まっていた。
「また、怒られるかもしれないな」
 ヴィアザは刺された左肩と、右手を眺めた。
 惨劇と化した家を後にした。