ニトの医務院に向かい、手当てを受けたヴィアザは、明け方隠れ家に戻った。
 依頼人にどちらも潰したことを告げ、さっさと帰らせた。

 念のため依頼を受けるなと言われたのを思い出したので、看板を引っかけた。
「着替える」
 ヴィアザは言いながら使い物にならない手袋とワイシャツを捨てた。
 新しいワイシャツと手袋を取り出して嵌めると、マントを羽織った。
 目深に被ると、ベッドに座った。手の届くところに刀が立てかけられている。
「話がある」
「聞くわよ」
「俺は昨日、ヴァンパイアとしての力を解放していた。目が爛々と輝くと、普段よりも能力が飛躍的に上昇し、素手だろうと簡単に人を殺せる。鋭い爪と牙も生えてくる。こういうときは刀を使わない。邪魔なだけだからな」
「……そうなのね」
「残骸を見ただろう。あれは人の為せるモノではない。俺は、そういう一面を持っている。それでも、想いが変わらないと、言い切れるか?」
「ちょっと初めて見たから、怖くなったけれど。でも、言ったことを否定するつもりはないわ」
「そうか。こまめに渇きを癒した方がよさそうだと、今回痛感した。……ワインだけではどうにもできん」
 ヴィアザは、溜息を吐いた。
「でも、どこで調達するの?」
「この国の城の裏に、誰も近づかない山がある。俺一人でいけば、誰にも見つからない」
「……そう。話が終わったのなら、ほら休んで!」
 セリーナが手早くリヴォルバーとポーチを外す。椅子から立ち上がって、ヴィアザの隣に座って言った。
「セリーナ」
「なに?」
「ありがとうな」
「あたしが勝手に傍にいるんだもの。お礼なんていいのよ」
 ヴィアザはふっと笑うと、ベッドに寝た。
 セリーナはそれを見ながら、なにも言わずにただ寄り添った。


 翌日の昼間、目を開けたヴィアザが目にしたのは、隣で眠るセリーナの姿だった。
 ――いつも思うが、本当に綺麗な顔をしているな。互いに暗殺者なのに、なんでこうも、無防備なんだ?
 見つめたままそんなことを思っていると、セリーナがうっすら目を開けた。
「ん……。おはよう」
「ああ。よく寝ていたようだな」
 ヴィアザが少し笑った。
「寝るつもりはなかったんだけれど」
「構わん」
 ヴィアザは身体を起こし、フードを目深に被った。
「なんていうか、不器用よね。あなたって」
「そうかもしれないな」
 ヴィアザは苦笑するしかない。
「ちょっと外いってくるわ」
 セリーナはリヴォルバーとポーチを装備すると、外へ出た。
「いい天気」
 セリーナは呟きながら、空を見上げた。
 見上げながら思った。