「あんただけね。結構な数がいたけれど。ひょっとして、ここの(あるじ)?」
 セリーナの背後には、数多くの骸が無造作に転がっている。
「ひっ! もうなにもしないから、生かしてくれ!」
「無理な相談ね。だって、恨まれるようなことをしたんだから、罰くらい受けて?」
 うっとりするほど美しい笑みを浮かべたセリーナは、引き金を引いた。
「これで終わりっと」
 セリーナは骸を踏み潰しながら、返り血で汚れたハイヒールを気にしつつ、念のため、生存者がいないかどうかを確認した。
 それを終えると、誰もいなくなったミリー家を後にした。


 そのころヴィアザは、ヘドナ家で戦闘を開始していた。
 背後には無残に斬られた骸の数々。
 革靴でそれらを踏み潰しながら、ヴィアザは先に進む。が、無傷ではない。
 腹を深く斬りつけられている。それでも一切気にせず、ヴィアザは男達に斬撃を放った。
 断末魔と悲鳴が上がって、ふっとやんだ。
「時間がかかっても、仕方ないか」
 美しい顔を歪めながら、ヴィアザは駆け出した。
 一撃で男達を殺し、いとも簡単に命を奪っていく。
 息が乱れることもないし、疲れを一切感じさせない。
「ほう。少しは骨のある奴が出てきたか」
 前方にあらわれたのは、がっちりした体格をした一人の男。
 太い剣を肩に担いでいた。
「久し振りに強そうな男に会えて、嬉しいぜっ!」
 男が言いながら剣を振り下ろしてきた。
 ヴィアザはそれを右手で受け止めた。
「なにっ!」
 がっちりと剣をつかまれてしまっているため、男は身動きが取れない。
「貴族の家だからか、持たせる武器の品質もいいみたいだな。だが」
 ヴィアザはそこで言葉を切り、左手に構えた刀で、腹を刺し貫いた。
「がはっ!」
 ポタポタと男は鮮血を口から零しながら、睨みつけてきた。
 それを見つつ、冷笑を浮かべたヴィアザは、手にしている剣を横に強く振り抜いた。
「なんだとっ!」
 男は派手に転ぶと起き上がろうとした瞬間に、刀の切っ先が突きつけられる。
「図体がデカいってだけで、有利だと思い込むから、こういうふうになるんだよ。バーカ」
 言葉とは裏腹に、ヴィアザは冷たく(わら)った。
「まだだっ!」
 男は剣を拾って、突きを繰り出してきた。
 それを左胸に受けながら、不敵にヴィアザが(わら)う。
「貫通してるのに、なぜ笑っていられる!」
「こんなのは、いつものことだ。驚くようなことでも、焦るようなことでも、ないんだよ」
 ヴィアザは茫然とする男を見ながら、傷ついている右手で剣の柄を握ると、一息に引き抜いてしまった。