――バシュッ!
「ぎゃああああっ!」
 右脚を撃たれた元締めは、ナイフを投げ捨てて痛みに騒ぎ出した。
「そうくるとは思っていたが。女だからって舐めてかかるから、こうなるんだよ」
 ヴィアザの言葉にうなずいたセリーナは、溜息を吐いた。
「ホント、うるさいわね」
 セリーナは言いながら、元締めの喉を撃ち抜いた。
 声がぴたりとやんだ。
「こんなところで、殺し屋の育成をなぁ?」
「殺し屋なんて、誰かに教わるようなことないわよ。こういうのは潰すに限るわ。それに、殺し屋の本質に気づいていない者達を、育てるなんておかしいのよ。咎人を増やしたところで、得なんかないの」
 セリーナは言い、元締めの心臓を撃ち抜いた。


「これだけ殺しておけば、誰かがこの場所を使うこともないだろうな」
 帰路についたヴィアザが、夥しい骸を見ながら呟いた。
 セリーナはなにも言わず、ついていった。
 地上へ戻ると、セリーナは思わず息を深く吸い込んだ。
「あ、早くニトさんのところにいかないと!」
 セリーナはヴィアザを急かした。

 しばらく歩くとニトの医務院が見えてきた。
 ヴィアザがドアを開けて入ると、ニトがやってきた。
「毎回毎回、酷いもんだね」
 ニトは溜息を吐きながら、治療を指し示した。
 ヴィアザは苦笑しつつ、中へ入っていった。

 ニトが治療室に入ると、半裸になったヴィアザがいた。
「棘があるけど、毒とかの攻撃は受けてない?」
 ヴィアザが無言でうなずくと、ニトは少し安心したようだった。
「まったく、これだけ出血していて、よく倒れないよね」
 ニトが手を動かし始めた。
 いったん布で鮮血を落としてから傷を縫い、薄い布を刺し貫かれた傷に手早くあてる。両肩にも同じ処置をした。
鞭の棘でできた傷は浅かったため、清潔な布をあてた。
 ニトは包帯を取り出して、肩を含めた上半身に巻きつけて、最後に右腕も覆うと、端を縛った。
「お終い。完治までは二月くらいだと思っていて」
「分かった」
 ヴィアザはそう言うと身支度をすませ、ニトに金のコイン一枚を支払った。
「できれば、怪我をしてほしくないんだよ」
 ポロっとニトが本音を零した。
「この国の闇は、存在し続ける。完全に消え去ることなど、ない。俺が傷つくのはもう、決まっているんだ」
 低い声で言い捨て、セリーナの許へ戻った。


「待たせたな」
「どれくらいで治るって言われたの?」
「二月」
 立ち上がったセリーナを見ながら、ヴィアザが言った。
「ちゃんと大人しくしてるか、見にいってあげる」
「おいおい」
 その言葉に困ったヴィアザは、溜息を吐いた。
「別にいいでしょ?」
「……好きにしろ」
 ぼそっと言い、医務院を出ていった。
 嬉しそうな顔をして、セリーナが追い駆けた。


 二人が隠れ家に戻ると、依頼人が待っていた。
「〝フィータ〟を潰した。……お前の好きに生きろ」
 ヴィアザが言うと、依頼人がぺこりと頭を下げて、立ち去った。


 ヴィアザはいったん家に引っ込み、また外へ出てきた。
 手には看板が握られていた。
 文字を確認して、ドアの取っ手に引っかけた。
 ヴィアザが中に入ると、セリーナも続いた。
「着替える」
 セリーナはうなずくと椅子に座った。
 クローゼットのドアが軋む音と、衣擦れの音を聞きながら、セリーナは溜息を吐いた。
「どうした?」
 煙管に火を点けたヴィアザが尋ねてきた。
「今まで大勢の人間を殺してきたけれど。殺しが愉しいなんて一度も思ったことがないなぁって。ほら、殺しが楽しくなっちゃう人もいるじゃない?」
「人によるがな。殺しが愉しいなんていう奴は、ただのバカだ。自分の楽しさのために、誰彼構わず殺すのは、そいつが狂っているということ。人を殺す者ならば、誰よりも命の重さを理解していなければならない、と俺は思っている」
「殺しなんて楽しくないの。虚しくなるだけ」
「そうだな」
 ヴィアザが紫煙を吐き出しながらうなずいた。