それから一月(ひとつき)後の夜、ヴィアザは傷がまだ癒えきっていないが、起きていられるようになった。
 起きていられることに安堵しつつ、椅子に座って、ワインを呑んでいた。
 ここまで回復するまでに、一切呑んでいなかったため、喉が渇いて仕方がなかったのだ。
 ――煙草は完治するまで、やめておいた方がいいな。
 ヴィアザが溜息を吐いていると、ドアが開けられた。
「起きてられるようになったんだ」
 入ってきたのは、セリーナだった。
「かなりのスピードで呑んでるのね」
「動けない間、呑まず食わずだった。これくらいよしとしてくれよ」
 ヴィアザは苦笑しながら言った。
「依頼の方は、治るまではこないでしょうし」
「なにをした?」
「ニトさんに頼んだのだけれど」
 セリーナが外に出た。
 ヴィアザがついていくと、「諸事情により、現在依頼を受けることができません。申しわけありませんが、再開までお待ちください」と書かれた看板がドアの取っ手にぶら下がっていた。ひっくり返して見ると「依頼受付中」と書かれていた。
「ニトが書いたんだな」
「ええ。あなたがここにきてからすぐに、相談してやってもらったの」
「確かに今回ばかりは、大人しくしていないといけないだろう、と思ってはいたんだよ。手間が省けた。ありがとうな」
「いいのよ。怒られるんじゃないかとビクビクしてたけれど」
「怒る理由にならん」
 ヴィアザは苦笑して言うと、家の中へ戻った。

「よかった。……痛みはどう?」
「まだ痛むが、最初のころよりだいぶマシだ」
 ワインを呑みながら、ヴィアザが言った。
「あなたの回復力には、驚かされてばかり。無敵ではないのでしょう?」
「そうかもしれんな。……この世に無敵なものなど存在しない」
 ヴィアザは鼻で(わら)った。
「もしもよ? これ以上ないほどの強敵があらわれたら、どうするの?」
「殺すだけだ。どれほど強くてもな」
 ヴィアザはぞっとするほどの、冷笑を浮かべ言い放った。