「……そうかもしれないな。俺は終わることのない、数多くの痛みを受けてきた。それも、たった独りで。依頼人の数は減るどころか、増える一方だ。俺が命を懸ける。そんなことが当たり前になるくらい、数多くの依頼をこなしてきた。
痛みからはもう、逃れようがないと思った。俺の身体や心の苦痛と引き換えに、依頼人の望みを叶える。俺は……咎人だ」
「あたしだって、同じよ! あたしも、人を殺して生きていかなきゃならない! 強くならなきゃ、生きることすらできなかったから……!」
「命は木の葉よりも軽い。生きたくば……強者であれ、か。最悪な掟を作ったものだ。貧困街に生きる人間には、酷でしかないだろう。その〝強者〟になるまで、死に物狂いで生きてきたんだから。俺もセリーナも、それぞれの地獄を歩いてきた。独りきりで。
俺はともかく、人間がその中を歩くというのは、とても辛かっただろう。うん……頑張ったな」
 ヴィアザはセリーナの頭をぽんぽんと撫でた。
「無理でも、願ってしまうの。ヴィアザが傷つかないでいられる日が、きてほしいって! 自分の大事なモノを犠牲にし続けて、そんな地獄とも言える日々が、早く終わらないかって! あなたは、もう十分すぎるくらい、戦ってきたでしょう!?」
 セリーナは泣き叫ぶ。
「そんなにも、想っていてくれたのだな。俺はそんな願い、とっくの昔に諦めたんだ。闇がひとつもない、そんな国はきっとどこにも存在しない。光あるところに影が必ずあるように。完全に無くすことは、誰であってもできない」
ヴィアザは突き放すように言い放った。
「なら、闇とともに生きていくしか、ないのね?」
「そうだ」
 ヴィアザは低い声で断言した。
「ねぇ、今、何を望んでるの?」
「もう少し、このままでいさせてくれないか。俺は自分の感情を素直に伝えることが、多分、下手だ。この激痛はどうにもならんが、少しでもいいから、傍にいてほしい。……嫌なら断ってくれ」
 ヴィアザは視線を彷徨(さまよ)わせながら言った。
「バカね。断る理由がないわよ」
「ありがとうな」
 ヴィアザは言いながら、抱きしめる腕に力を込めた。