「まったく! 肝が冷えたわよ!」
「悪い」
 ヴィアザが謝った。
「痛いでしょう?」
「……今まで散々怪我をしてきたが、多分一番、痛い」
 ヴィアザは言葉を絞り出した。
「あれだけの怪我をしたんだもの」
 セリーナの言葉に、ヴィアザは無言でうなずいた。
「痛みが引かない限り、眠れもしないだろう」
「話すのは、辛くない?」
「それだけなら、大丈夫だ」
「よかった。ねぇ、ヴィアザ」
「どうした」
 ヴィアザがセリーナに視線を向けた。
「本音を教えて。独りで痛みを引き受け続けること、どう思っているの?」
「俺にできることはそれしかない。痛みに対しては、大分鈍くなった。俺はもう、痛みを引き受けると、覚悟を決めてしまった。それがどんなに酷いものでも、な」
 ヴィアザは低い声で言った。
「本当に、哀しい覚悟だわ。ボロボロなのに、そこは変わらないのね」
「そうだ」
 泣いているセリーナを見て、胸が締めつけられるような気持ちになった。
「なんで、そんな顔をしてるのよ」
 泣きながらセリーナが言った。
「泣いているセリーナを、見ていたくない。……と言っても、無理な話だよな」
 ヴィアザは言いながら、溜息を吐いた。
「ヴィアザ」
「なんだ……っ!?」
 ヴィアザは目を(みは)った。
 セリーナが身体を横にして、ヴィアザの胸に飛び込み、額を押し当ててきたからだ。
「バカ……! 痛くて苦しくて、辛くて。そんななのに、無表情でさ! 誰も、隠せ、抑え込め、なんて言っていないのに……!」
 セリーナは泣きながら、ワイシャツをぎゅっとつかんだ。
「その通りだよ。すべてを抑え込んで、平気なフリをし続けている。そんなの、俺が望んだことじゃあない。だがな、心に巣食い続けている闇に抗うには、それしか、それしかなかったんだ」
「っ!」
 セリーナが泣きながら、額を擦りつけてきた。
 ヴィアザはそんな彼女の頭を優しく撫で、そっと手を置いた。
「俺のことを気にかけてくれる人など、ニトくらいのものだと思っていた。俺になんか、誰も寄りつかない。そう思って、生きてきたんだ。俺なんかのために、どうして泣くんだよ」
「……そんなに、自分を(おとし)めないで。ヴィアザは、痛みを引き受けて、今を、必死に生きてる。あたしが想像しているよりもきっと、大きな痛みを抱えてるんだと思う。本当は痛くてたまらないはずなのに!」