「そうか、お前は人間か?」
「ええ。そうよ。でも、死ぬ気はないの、ごめんなさいね?」
 にっこりとセリーナが冷笑を浮かべた。
 男はその美しさに、一瞬見惚れてしまった。
「あたしは敵よ? 見惚れてるってことは、死を受け容れたと同等よ?」
 セリーナは言うが早いか、引き金を引いた。
 男は心臓を撃たれ、その場に倒れた。


「邪魔者は排除できたわね」
「ようやく殺しにいけるな」
 二人は八百屋まで戻った。
「全員殺したぞ」
 ヴィアザは強引に中に土足で押し入った。
「はあっ? に、逃げろっ!」
 この店の主が素っ頓狂な声を上げた。
 出入口はセリーナが塞いだ。
 次の瞬間、二回の発砲音が響いた。
 妻と子どもが心臓を撃たれて、その場に倒れた。
「そ、そんな……」
主は涙を流した。
「この国を出ようとしていたのに。なんで、殺されなきゃならない!?」
「さてな。そこまで俺達は聞いていない。俺の存在に怯えて生きてきたのか?」
「そうさ! いつ狙われるのかと思っていた!」
 主が叫んだ。
「運が悪かったな。さっさと殺してやる」
「ちくしょうっ!」
 恨みがこもった叫びを聞きながら、ヴィアザは主の心臓を刺し貫いた。

「これで、終いか。さっさと帰るぞ」
 重傷であるはずのヴィアザはそう言うと、ふらつきもせずに、骸が転がる部屋を出ていった。
 セリーナは骸を一瞥して、追い駆けた。


「まったく。怒られても知らないわよ?」
「仕方ないだろ」
 ヴィアザは吐き捨てた。
「まったく」
 そんな話をしている間に、医務院の前に辿り着いた。


「俺だ。入るぞ」
「はい。……なんでそんなに怪我してくるの! ボロボロじゃない! ほら早く入って!」
 ニトが血相を変えて、ヴィアザを治療室へ。

「まったく。これだけの怪我をしておいて、よく生きてるよね」
 ヴィアザはニトの言葉に苦笑するしかない。マントとワイシャツを脱いだ。
「敵が多かったんだ」
「そっか、なんて言えると思う?」
 ニトが手当てに必要なものを用意しながら、睨んできた。
「だよな」
 ヴィアザが苦笑した。
「うーん、上半身から先に処置するから、大人しくしていてね?」
「分かった」
「あーあ、キリがないけれど、仕方ない。念のため傷を洗うから」
 ニトは濡らした布を手にして、背中の傷を撫でていく。
 布はすぐ赤くなったが、ニトは構わず手を動かし続けた。
 固まってこびりついていたものを、綺麗に取り除いた。
 背中が終わると、右肩に移った。
 少し顔をしかめながら、傷を拭っていく。
 洗面器に入った水で布を何度も洗い、胸の斬り傷を撫でていく。それが終わると、心臓付近へ。