それからしばらく経ったある日の朝、身なりのいい老女が、隠れ家を訪れた。
「話、聞いてもらえんかね?」
「どんな?」
 ヴィアザは低い声を出した。
「魚屋の隣にある八百屋を、潰してくれんか?」
「なぜだ。なぜ俺なんかに頼る?」
「人を殺す専門なのじゃろう? 私はあの連中が憎いんじゃ。何度商売の邪魔をされたことか」
「まあいい。決行は今夜。金はあるか」
「ほれ」
 老女はテーブルに金のコイン十枚を置いた。
「分かった。ただし、邪魔をするな。死にたくなければ」
「分かっておるわ。明日の朝、くるのでな」
 老女はそれだけ言うと、隠れ家を出ていった。


 それから数時間後の夜、煙管を片手にぼうっとしていたヴィアザの許を、セリーナが訪れた。
「依頼は入った?」
「ああ。八百屋を潰してほしいんだと」
「なんでこういうのに頼るのかしらね」
「まったくだ。……いくぞ」
 その言葉にうなずいたセリーナは、ヴィアザを追い駆けた。


 問題の八百屋は、貴族街の一角にあった。
「ここの主に話があるんだが」
 ドアを開けてそう言うと、五十代くらいの男が出てきた。
「お前まさか……〝ユドルギン〟!」
「そっちの名で呼ばれるのは滅多にないな。俺のことをよく知っているようだ」
「そりゃ知ってるさ。……おい! 後は任せるっ!」
 暗がりから出てきたのは、武器をちらつかせた男達二十人。
「もしもの時のために、この店を守るように集めた手練れ達だ」
「手練れ? どこからどう見ても、ゴロツキの間違いだろ」
 ヴィアザは刀を抜き、刀身を一瞥した。
 セリーナも両手にリヴォルバーを構えた。
「うるさい。こいつらを殺せ」
「かしこまりました」
 リーダーと思われる長身の男が頭を下げた。

「誰もいない場所へ」
 ヴィアザとセリーナは殺気をあらわにしつつ、男達の後をついていく。
 家すらない広い場所に出た。
「ここで戦うというわけか」
「そういうことだ。ここなら誰も邪魔をしない」
「さっさと始めようじゃないか」
 ヴィアザは不敵な笑みを浮かべた。
「舐めてかかるなよ」
 男達が剣を構えた。
 ヴィアザが刀をちらつかせた。
「おらああっ!」
 男の攻撃を躱さずに右肩に受けた。
 刺し貫かれて、鮮血が地面に滴り落ちる。
 剣が引き抜かれ、再度突きを繰り出してきた。
 手袋をした手で剣をつかんで止め、ヴィアザは不敵に(わら)った。
「なにをするつもりだ!」
「決まっているだろう?」
 動きを封じた上で、男の心臓を刺し貫いた。
 どさりと、骸が倒れた。
 骸から刀を引き抜いた。