ヴィアザは右腕にナイフを受けると、刀を抜いた。
「おら!」
 刀で男の剣を受け止めて、ヴィアザが(わら)った。
「腕はそこまでではないようだな。普通に肉屋を営んでいればよかったのに。裏で殺しなんかしておいて、隠せるはずがないんだよ」
「どうしてそれを……!」
「貴様は知らなくてもいい」
 ヴィアザは刀を床に突き立て、右腕に刺さったナイフを抜いた。少し考えた後に、ナイフを左手に構え、男の心臓に突き刺した。
深々と刃を喰い込ませると、骸が倒れた。
 刀についた鮮血を殺ぎ落とし、鞘に仕舞うとヴィアザは肉屋を出ていった。


「ちょっと寄るところができた」
「え?」
 きょとんとしたセリーナは、慌てて追い駆けた。

 しばらく城下町を歩いて、辿り着いたのは巨大な城の前。
 ヴィアザは門番に、宰相に話があることと、名を告げた。
 巨大な門が開いた。
 通されたのはとても広い部屋。
「わざわざここまできたのですか。よほど暇なんですね」
 上等な服を着た男が、部屋に入ってきた。
「近くまできたからな。ついでだ」
「それで、話とは?」
「城下町に店を構えている人間全員の弱みを握っているな。それを悪用して、裏で殺しをさせているとも。肉屋のように乗り気の奴もいれば、そうでない者もいるだろうに。命令して強引にやらせている。そう、裏では噂になっている」
 低い声でヴィアザが言った。
「この国の裏を知り尽くしているのは、嘘ではないというわけですか。だとしたら、なんだと?」
「今の王は、ただの飾りか」
「ええ、そうですよ。あなた達にはいずれ、消えてもらいます。そこまで知っている者を、放っておくわけにはいきません」
 男は言い放った。
 ヴィアザは不敵な笑みを浮かべて、城を後にした。


 その後、ニトのところに顔を出して、手当てを受け、隠れ家に戻った。
 待っていた依頼人から金のコインをもらうと、さっさと帰らせた。

 ヴィアザは椅子に座って、煙管を手にし、紫煙を吐き出した。
「俺は通り名が二つもあるせいか、目立つんだよ。よくも悪くも。敵に狙われているのは、変わらんしな」
「そんな気はしてたわ」
 セリーナは苦笑した。