「なによ!それは、罪じゃないのに! ヴィアザは、自分のために生きることをやめたの!?」
 セリーナは泣きながら、怒りをぶつけた。
「そうだよ」
 美しい赤い目には、なんの感情も浮かんでいなかった。
 セリーナはその目で悟った。
 ――ヴィアザは本当に、自分の人生を生きることを、やめてしまった。
「っ!」
 無だった彼の顔に、ほんの少しの驚きが混じった。
 セリーナが身体を起こし、ヴィアザを抱きしめたからだ。
「なにをしている?」
「昨日のお礼よ。あたしよりも暗くて深い闇を、独りで歩いてきたのでしょ」
「……ああ、そうだ」
「今じゃなくていい。いつか、話したくなったら、昔話、聞かせて?」
 セリーナは、背を撫でながら言った。
「分かったよ」
「あたしは、ヴィアザと一緒にいたい。こんなに優しい人、ほかにいない。名も知らぬ国民の恨みを引き受けて。自分のことなど放っておいて、戦い続けるだなんて。あたしは、孤高の戦士だと思ってる。ヴィアザは、誰よりも、命の重さを分かってる」
「……そう見えるのか。俺はただ、自分のことを残酷なまでに、斬り捨てただけさ。手段を選ぶ余地はなかった」
 ヴィアザは遣る瀬無い笑みを浮かべた。
「お疲れ様、ヴィアザ。あたしは多分、あなたに()かれてる。どうするかは、あなたが決めて。いつまででも、待っているから」
「なんだと……」
「事実なんだもの、仕方ないじゃない。誰かを好きになるのは、罪ではないでしょ?」
 泣きながら、セリーナが笑った。
その顔を見て、ヴィアザは思わず、セリーナを抱きしめた。
「その答えは、俺の過去を話す時まで、保留にさせてくれ。あと、これだけ。……ありがとう」
 セリーナは首を横に振った。

「なぁ、セリーナ。これは俺の予想だが。まだ人を殺したときの反動が、あるんじゃないのか?」
 抱きしめたまま、ヴィアザが尋ねた。
「まだ、あるわよ。最初のころより、だいぶマシになったけれど」
「なら、なぜ続ける? 誰もそれを強制してはいないというのに」
「そうよね、ホントにその通り。でもね、あたしには、なにもないのよ。復讐で埋め尽くされていた心が、なにを求めているか、分からないのよ」
「……そうか」
 ヴィアザはセリーナを抱きしめる腕に力を込めた。