「俺も診てもらおうか」
 ヴィアザはベッドの手前に置いてある椅子に座った。
「彼女の前だけれど、いいのかい?」
 ニトが耳打ちをしてきた。
「いつまでも、隠し通せるものではない。いつかは知ることになるんだ。それが早まっただけのこと」
「そ」
 囁くような低い声を聞き、ニトは離れた。
 無言でマントとワイシャツを脱いだ。
「なによ……! その身体っ!」
 背中を見たセリーナが、口走った。
 鮮血で真っ赤に染まる上半身を見ている。
 セリーナが見守る中、ニトは鮮血を落としにかかった。
 しばらくして、美しい白い肌に無秩序に刻まれた古傷の数々が、あらわになった。
「……っ!」
 セリーナは彼の身体から、目を逸らせなかった。
 こんなに深手を負い続けていたのか。たった独りで、ずっと痛みに耐えてきたのか、と思った。なぜ、と思ったが、そんなことは、どうでもよかった。
 大きめの薄手の布があてられ、傷が隠れた。
「歩けるようになるまで、隠れ家にいろ」
 手当てを受けながら、ヴィアザが言った。
 上半身と右掌を包帯で覆われ、左頬に薄手の布をはられたヴィアザは、ワイシャツとマントを着て、ニトに金のコイン一枚を払った。
「いくぞ」
 フードを目深に被ったヴィアザに抱き上げられ、セリーナはこくんとうなずいた。
 ニトが見送る中、二人は医務院を後にした。


 ヴィアザは隠れ家に着くと、ベッドにセリーナを下ろした。
「大人しくしていろ」
「ありがとう」
 セリーナはハイヒールの踵を揃えて、床に置いた。
「でも、いいの? あなたの方が重傷なのに」
 セリーナは心配そうな顔をした。
「いいんだよ。俺は座る場所さえあれば。ちょっと着替える」
 セリーナはうなずくと、天井に視線を向けた。
 クローゼットの戸が軋む音と、衣擦れの音がした。しばらくすると、クローゼットの戸が軋みながら閉まった。