「なんて奴だ……!」
「あと一人。少し時間をかけすぎたか」
 ヴィアザは呟いた。
「望みは、なんだ?」
「望みはそうさな……。貴様の命を(いただ)く」
 怯えきった男の顔を見ながら、ヴィアザは口端を吊り上げて(わら)った。
 心臓を刺し抜くと、無造作に刀を抜いて、骸を捨てた。
「ふう」
 ヴィアザは骸が折り重なる、地獄と化したエントランスホールを一瞥し、屋敷の最奥に向かって駆け出した。


 現在。
 がきんっと武器同士がぶつかり、火花を散らした。
「まだ雑魚がいたのか」
 ヴィアザはふたつの剣を刀で受け止め、三本目の剣で右掌を刺し貫かれた状態で、止まっていた。
 ポタポタと鮮血が滴り落ちる。
「表で騒ぎを起こしていた奴かの?」
 のほほんと、老人が尋ねてきた。
「ああ。大したことはなかったが」
 ヴィアザはふたつの剣を弾き返し、それぞれの首を斬り捨てた。
 刀を床に突き刺し、右手を貫いている剣を抜いた。怯えている男の首を斬り捨て、逃げようとした男の額に剣を深々と突き刺した。
「わしが生きている限り、何度だって立ち直せるんじゃ!」
 ヴィアザが一歩下がり、セリーナが一歩前に出た。
「呆れた。人間がたった独りで、なにができるというのよ?」
「なんじゃと?」
 老人が噛みついた。
「あんたは全部、自分のものだと思ってない? 金も、地位も、人も、すべて自分の自由にできるって」
「だったら、なんだと言うんじゃ!」
自惚(うぬぼ)れるのも、いい加減にして! あんたの横暴のせいで、どれだけの命が無くなったと思っているの! 命の重さが分からない。そんな奴は、屑なのよ!」
「貴族のわしを、そこまで愚弄(ぐろう)するか!」
「あんたはきっと憶えていないでしょ。あたしは今でも思い出せる。まだ無力だったあたしを守ってくれた、両親の最期を。……あんたを殺すことだけを考え、なんだってやってきた!」
「復讐者、というわけか。ふん、バカバカしい」
「あんたは知らないと思うけれど。一応言っておくわ。言葉だけでも立派な凶器なのよ?」
「なんじゃと?」
「言葉ってね、心を抉るナイフのようなものよ。その鋭さを理解していない者が、簡単に他人の心を傷つけていいはずがない。人の痛みや苦しみが分からない。そして、敗北を知らないから、あんたは暴走した。なんでもできると思って、酔いしれた」
「くっ……!」
 老人は悔しそうな顔をした。言われたことに反論できないのだ。
「そんな奴、すべてを失って当然なのよ。罰は受けないと、ね?」
 にこりと笑うセリーナだが、目が据わっている。
 老人は杖から手を離し、拳を右足に打ち込んできた。
 それを受けたセリーナは、痛みに顔をしかめつつも、右腕を撃ち抜いた。
 弾がめり込み、鮮血が腕を伝う。
「おのれ……!」
 老人は怒りをあらわにするが、満足に動けていない。