鮮血を吐き出した男を見たヴィアザは、刀を無造作に引き抜いた。恐ろしいほど冷笑を浮かべたまま。
「お前ええ!」
「じきに死ぬが、もう少し、頑張ってもらわないとな」
 ヴィアザは口端を吊り上げて(わら)いながら言った。
「殺して、やる!」
 男が鮮血をドバドバと吐きながら言った。
「やれるものなら、やってみろ」
 ヴィアザが挑発すると、男が大剣を振り下ろしてきた。
 刀で受け止めたのを見た男はさらに力を込めるが、びくともしなかった。
「ちくしょう!」
 悔しそうな顔をする男を一瞥し、ヴィアザは大剣を弾き返すと、心臓を刺し貫いた。
「くそおおおおっ!」
 叫んでこと切れた。
「うるさいんだよ」
 ヴィアザは刀についた鮮血を殺ぎ落として、言い放った。
 骸を踏み越えて、部屋のドアを蹴り開けた。


「死を届けにきた。だが、その前に」
 ヴィアザは部屋に入るや、手ごろな置物を手にして、窓に向かって投げつけた。
 硝子(ガラス)が割れ、煙がいっせいに出ていく。
「余計なことを……!」
「俺には効かんが、人間には毒だ」
 ヴィアザは言い放った。
 セリーナは窓まで走っていき、蹴って硝子を割る。詰めていた息を吐き出した。生き返ったようだ。
「お前、いったい……?」
「人ではない、とだけ言っておく」
「人間ではないなにか、だと! そこの女、そんな奴といて平気なのか!」
「ずいぶん動揺してるようだけれど。あたしは平気だし、あんたと違って、差別なんかしないわ」
「な、なんだと……」
「貴様は罪を犯している。しかもとても重いときた。貴様の命ひとつで(つぐな)えるとは、とうてい思えないが、ここで幕引きとさせてもらう」
 冷ややかに眺めながら、ヴィアザが告げた。
「黙って殺されるような人間ではない!」
 部屋の中にいる男がライフルを片手に、なにかのスイッチを押した。
 どこからともなく、黒ずくめの男達が十人、部屋に飛び込んできた。
 しかも、全員武装している。
 入ってきた五人に視線を送っていたヴィアザは、ちらりと見て、顔を歪めた。
 不敵に(わら)う男と目が合った。
 こいつらはおそらく、この男の護衛。安全なところまで逃がそうというわけか。
 男は彼らに守られながら、部屋を出ていった。
「半分ずつ、といこうじゃないか」
 ヴィアザは不敵に(わら)いながら、目で奴らを追えと告げると、理解したセリーナがうなずいた。
 セリーナは硝子をさらに蹴って割ると伸びていた木に飛び移り、素早く木を降りた。
 その様子を見たヴィアザは、刀を構え直した。