1、夏夜(なつよ)も君に会いたかった



✦夏夜も君に会いたかった


 もし、タイムスリップできたり、
 願いを叶えられるとしたら、
 街が寝静まった今、君に会いたいなって、
 思っていると頭がぼんやりしてしまうよ。

 叶わない恋の小説を読んでいるうちに、
 夏夜は、どんどん深くなっていくけど、
 君からの連絡は未だに来ないんだ。

 だけど、もし、君と今の瞬間、
 この夏夜を共有できたら、
 きっと、好きだってことを伝えられる気がするんだ。

 だから、今日も部屋の窓から、
 君の病院のほうを眺めているよ。




✦純粋に君のことが好きだった


 小学校のとき、好きだった男子がいた。
 息だってあうし、無限に会話だって続くような気がした。

 だけど、お互いにどうやって、
 恋を成熟すればいいのかわからないまま、
 卒業の日を迎えて、
 ふたりは別の中学校に進んだ。

 そして、この夏、
 4年ぶりに君とたまたま、
 近所のイオンモールで再会してしまった弾みで、
 私は思わず、
 「あのとき、好きだったよ」と勢いで言ってしまった。

 そしたら、君は微笑んでくれて、
 「あのときは、わからなかったんだ。だけど、今ならわかるよ」
 と言って、私の手を繋いでくれた。



✦青春が遠くなる


 なぜか、離れ離れになったと錯覚していて、
 銀色の街を彷徨うように、
 運命的な出会いばかりを追い求めていた、
 あのときの私は、
 アイスコーヒーを夜に飲むたびに、
 大人に近づき、遠くなっていくような気がするよ。

 その苦みを感じ、
 黄色のロルバーンダイアリーを開くたびに、
 キラキラしていた日々が離れていくのを実感するたびに、
 青春が遠くなるって、思うんだ。
 


✦しっかりと、熱を感じたい


 しっかりと、熱を感じたい。
 裸足で砂浜を感じ、
 海風と一緒に今持っている、
 すべての憂鬱の毒を足からゆっくり抜きたい。



✦意味不明なまま


 適切かどうかなんて、わからないよ。
 ただ、毎日は思った通りに進まないから、
 ただ、ノートの上で、
 よくわからないけど、いいことが起きる。と、
 確信した自分が意味不明なまま、
 シャープペンで何度も書いた。




✦君のしょぼいプライドなんて捨てちゃえば最高なのに。


 私はもう、疲れてしまったんだ。
 君の言い訳とか、君のどうでもいい話とか、
 君のしょぼいプライドとか。

 だけど、そんな君のことなんて、
 嫌いになれないよ。
 だって、そんな君でも、
 世界で一番、私のことを大事にしてくれているから。
 


✦いつだって、つらいことはあるよ。


 いつもの午後六時を告げるメロディが流れたけど、
 このまま、日が沈むまで、
 僕と君しかいない公園で話していたいんだ。

 すでに、いつもの緑山は、オレンジに染まっているけど、
 午後四時のだれもいない教室で見た、
 君の涙は過去になりつつあるね。

 だけどね、君の傷はまだ癒えてないことくらい、
 わかるよ、僕だって。



✦もう、センチメンタルは魔法じゃない


 センチメンタル病の私はきっと、
 時代に置いていかれているくらい、
 古臭いのはわかっているよ。

 もう、中二病と表裏一体のセンチメンタルや、
 申し訳程度の浅いエモさのセンチメンタルとか、
 そういうのに、もう、嫌気がさしたんだ。

 だから、今ある風景を古いコンデジで保存するように、
 今日の見慣れた街の夕暮れをいつか取り出せるように、
 心の中に保存したい。




✦末期のTikTok中毒だから、最高の青春なんだよ


 大人になりきれない私たちは、
 末期のTikTok中毒者で、
 透明なお皿のなかにたくさん、
 カラフルなグミを入れ、
 サイダーを入れたりして、
 最高に透明感100%な時間を作り上げて、
 爆笑するだけだよ。

 だけど、仕方ないじゃん。
 これが私たちの青春で、今が最高に楽しいんだから。



✦夜行バスに乗って、翌朝からディズニーに行く

 
 君と約束通り、終業式が終わり、
 夏休みに入ったから速攻で、
 バイト代を突っ込み買った夜行バスに乗り込むと、
 完全に嬉しくなってワクワクし始めた。
 
 君はそれに気がついてくれたみたいで、
 「とりあえず、イメトレしとこう」と、
 TikTokのベイマックスのハッピーライドの動画を見せてきた君も、
 ワクワクしてそうで、明日は素直に最高の一日になる気がした。



✦大人になるのは気になるけど


 冬も、夏もはしゃぎすぎるのは、
 きっと、青春のど真ん中を今、走っているからだと思うけど、
 いつか、今を振り返ったとき、
 寂しさを感じたときが、
 きっと、大人になったときだから、
 それまで、今のテンションを維持したまま突っ走りたい。

 

✦たまに柵の中に閉じ込められているように感じちゃうから


 現実を見ることは、
 広大な緑の丘陵の中なのに、
 柵で囲われた牧草地に閉じ込められた羊が、
 画像データの中で、
 さらにフォトジニックに閉じ込められた、
 ようなものだと思うんだ。

 だから、現実を見ないで、
 自分が今見ている周りの世界を楽しくして、
 淡々と、自分色にフォトジニックにしたい。



✦楽しいソーダ水の中で


 本を読んだって、
 もう、新しいことは見つからない気がするんだ。
 
 だけど、悪口であふれるSNSはそのうち滅ぶと思うし、
 それを世間だと思うのも視野が狭い気がするよね。

 だから、楽しい動画があふれるSNSの中で、
 無数の楽しいことを真似して、
 楽しいソーダ水で満たした水槽の中で溺れたい。



✦ピンチな気持ちを楽しくしたいんだよ


 ピンチになった瞬間から、
 チャンスが来たと思い込むようにしているんだ。
 だって、そう思わないと楽しくないじゃん。




✦SOUL LOVE


 宇宙船で栽培しているレタスみたいに、
 過酷な条件下の君に無条件の愛をあげたい。



✦蒸し暑い夜、君は公園で話を聞いてくれようとしている

 霧がかかり、蒸し暑い夜の公園で、
 どうしてかわからないけど、君は私にあってくれた。

 焦りに押し潰されそうになるなかで、
 その思いを言語化しようとしたけど、
 どうしても上手くいかなくて、
 スカートの裾をぎゅっと両手で握ると、

 「わからないことは、わからないままでいいんだよ。
  ただ、君はもう、そのままで十分だと思うから忘れよう。
  簡単には忘れられないと思うけど、忘れられるように手伝うよ」

 そう言って、君は微笑んでくれたから、
 まだ、気持ちは晴れないままだけど、
 君のその優しさに対して、微笑み返すことにした。



✦大人を目指そうとしているけど

 
 大人に手を伸ばしたくて、飲み始めたコーヒーも、
 いつの間に慣れてしまった私は、
 もう、戻れないところまで大人になったんだって、
 LEDのスタンドライトの下で、勉強しながら、ふとそう思った。



✦ただ、ひとつだけなんだ。


 今、私が君にしてほしいことは、ただ、ひとつだけなんだ。
 余裕な笑みを浮かべて、手を繋いでほしいだけだよ。



✦さよなら、切り刻んだ過去

 
 今までの日記をカッターで切り刻んだ。
 別に恨みとか、悔しさとか、
 そういう理由で切り刻んだわけじゃないんだ。

 ただ、もう、過去のイメージの私はもういいかなって思っただけで、
 失恋の傷とか、そういう理由でもないし、
 自分自身が嫌いってわけでもないんだよ。

 ただ、今の微温い生き方をしていたら、
 10年後に後悔するなって思ったからってだけなんだ。




✦ありがとうって、素直に伝えたかった


 夕立で濡れた銀色のビル街は、
 私たちの悲しみの涙みたいに感じた。
 それは、だれでも思いつく、
 ありきたりな、表現だと思うけど、
 君のいなくなった世界では、
 私は本当にそう思うんだ。

 君がいなくなった街は寂しすぎるよ。
 だから、最後にありがとうって伝えたかった。







2、夏が始まったから海へ出かけよう。君が最高に似合う季節がやってきた




✦ぼやけたレンズの所為でたまに肝心なこと忘れてしまうよね。



 いつか美しいものも朽ちていくけど、
 星の欠片を集めた瓶は、
 きっと、輝き続けるんだろうね。

 なにかに虚しくなったら、思い出してほしい。
 君が愛されてここまで生きてきたことを。
 
 ただ、ひとつの願いは
 君の笑顔がきらめくことだよ。




✦未来が不安なのは、今がふわふわしてるから


 遠い未来を考えすぎると
 ブルーな気持ちになっちゃうね。

 もう、大丈夫とか、
 無責任な言葉は、
 もう、聞き飽きてしまった。

 花びらが散るように
 じっと待っていられない性分なの。

 さあ、誰か救い出して、面倒な自分を。




✦風景であの瞬間を思い出すのは、思い出の保護フィルターがオートになっているからだ


 雲がない5月の空はスカイダイビングしたいくらい淡い色をしている。
 
 思い出の坂道を駆ける。
 自動的にあの人の手を握った感触をありありと思い出す。
 
 粉砂糖を優しくまぶすように
 楽しいことを保護しよう。

 そうすれば、生きていけそうな気力が湧くから。




✦メッセージは永遠、幻の君に手を伸ばしたい。

 
 海に向かって投げたメッセージボトルは、
 きれいに弧を描き、着水して、波に漂い始めた。

 手紙にはわだかまりを書いた。

 会いたい。
 好きだった。
 
 もっと思い出を描きたかったな。
 もういない君に届けばいいなって、思っただけだよ。



 

✦自意識がぎゅっとなる時期だから、甘ったれていいよ
 だって、それは自分を守ることだから



 知ってほしい。
 だけど、干渉してほしくない。
 5月は冒険したくなるけど、
 憂鬱なのは現実に気づくからだ。

 社会が日進月歩するのは、大勢の努力のおかげだ。
 だけど、それを私に押し付けないで。

 飾らないで気兼ねなく、
 生きていけたら、
 私自身を愛することができるかな。




✦海へ続く一本道は青い。君が何かを背負っているなら手放して


 君が眩しいから、砂時計は落ちることはない。
 飽きることのない無垢さで。

 青空は海まで続き、坂道は長く、
 途中で立ち止まる君は思いふける。

 不意に守りたくなるこの衝動は、
 いつもあで留められるだろう。
 
 もうすぐ、夏だね。



✦透明な君が切ない。憂鬱な君を愛せる自信はどうしようもないくらいある


 「私を忘れないで」
 君がそう言ったあと、
 弱い海風が吹き、君のボブが揺れた。


 湾岸を見渡せるベンチで君と手を繋いでいるけど、
 君が消えてしまいそうに感じた。

 だから、君の手を強く握った。
 そんな悲しいこと言うなよ。

 だって、夏は、
 まだ始まってもいないんだから。



✦いつも、あの時を取り戻すことができたら、
 どれだけ今の自分と違うんだろうって、考えすぎるときがあるんだ


 もし、過ぎ去った日々を取り戻すことができるなら、
 素敵なことだね。

 忘れたいことだらけの過去を
 今日もコーヒーを飲み、一緒に胃の中に流し込むよ。
 一瞬、闇が胸に広がるから。

 諦めることを重ねるのが、
 大人になることだって、
 誰かが言っていたのを思い出した。

 諦めが悪いから、
 夢や希望に今日もすがる。



✦朝はいつもの繰り返しだし、夢の余韻に浸る暇なんてないんだね


 お気に入りの白い自転車で、
 朝霧につつまれた商店街をぐんぐんと切り裂いていく。
 
 頬に冷たい空気が当たる。
 さっきのデタラメな夢の中で、
 虹を描くザトウクジラを見た。

 あんなふうに空を気持ちよく泳ぎたい。

 そうすれば、
 憂鬱な朝とさよならできそうだね。



✦普遍的な想いを忘れたときは、あのときの無限を思い出せば元に戻れる
 

 離さない。
 あの日、夢中で話したように無限の中にいよう。
 
 遠くなっていく思い出は、
 大切にビスケットの缶にしまおう。

 例えば、ソーダ水越しで君を覗くように
 遠い記憶は透明になる。

 だから、もう一度、お互いの小指を結ぼう。



✦雑音は胸に響く。だから、息を思いっきり吸い込む



 つまらないことを、ぐっと力を入れて忘れよう。

 カレンダーが進めば、
 時の流れは残酷だけど、
 胸の痛みは何故か和らぐよ。

 ぼんやりできない日々は続く。
 だから、息を思いっきり吸い込む。
 
 プレッツェルの輪を作るように
 丁寧に優しく、自分を労れたらいいのに。



✦疲れているなんて、言いたくないからカフェインで起動を待ってる



 ぼんやりした頭は、
 コーヒーを飲んでも一向に起動する気配がなく、
 このまま、ファンタジーの中で
 カラフルなキャンディを数えているみたいになるそうだ。

 不意に涙が一滴こぼれた。

 ファジーで重たい悔しさが、
 溢れちゃうのは何故だろう。
 もう一口、飲んで落ち着かそう。



✦もう二度と変えることが出来ないことは、素直に受け入れると楽になるのはなぜだろう



 無数の雨粒がガラスに当たる。

 引っ込み思案だから、いつも雨になると、
 幼い頃に怯えたことを思い出す。

 クッキーが焼き上がるように
 大人になったら治ると思っていた。

 だけど、内気だけが残った。

 今は別にそれでいいと思っている。
 だって、こうして
 雨粒を見る余裕があるんだから。



✦つい、うつつを抜かしてしまうと、無限に楽しいことが湧いてきてフワフワしちゃう


 壮大なことをつい、
 考えてしまう癖は昔から出
 ハリボーをぎゅっと噛むときくらい、
 爽やかな甘さに浸っている。

 本当に素敵なことは
 誰かに与えられるものではなく、
 自分でてにしなくちゃいけないことはわかっている。

 誰かのためになりたいけど、
 自分の可能性も信じたい。



✦約束なんてもうどうでもいい。あの時のあの瞬間が最高だっただけなんだから


 誓った約束を思い出した。
 今も果たされてないけど、
 あの時、濡らした頬は本物だった。

 きらめく絶望はレモンをしっかりと絞るように、
 爽やかなことではない。

 「泣いてもいいよ」
 あのとき、肯定してくれた君は
 永遠がないことをきっと知っていたんだ。
 
 君と何気ない日常を過ごす選択をすればよかった。



✦始まりは夕暮れ。さよならは言いたくないのをわかって欲しかった



 君との始まりを断片的に思い出した。
 頬杖ついて流れる車窓を見て。
 電車はゆっくりと海岸線の曲線をなぞっている。
 
 君と手を繋いだまま、
 あの日の帰り、
 お互い緊張して、妙な沈黙が流れた。

 だけど、君は輝いていた。
 夕暮れが差し込む車内で。



✦いつも虚しいのは、日常に追われすぎて何かを忘れているからだ



 心の隙間を埋めるには、楽しいことを満たせばいい。
 
 そんなことはわかっている。
 キラキラなことをジュエリーボックスに納めて、
 うっとり眺める時間を作ろう。

 過去は成長痛のように酸っぱく胸が痛むけど、
 いつか微笑むことが、
 できる日が来ることを信じている。


✦毎日、こなすのは簡単なことじゃないから、自分を守って


 憂鬱な日々を星のかけらと一緒にミキサーにかけて、
 爽やかなスムージーを作ろう。

 そうすれば、鉄くずのように錆びた毎日も
 少しはマシになりそう。

 ミルクと砂糖で甘口にしてしまおう。
 社会のつらさは香料にしよう。

 作り笑い、褒められても動じるな。
 会釈で自分を淡々と作り上げろ。



✦例えば、君を傷つけたら、愛がない世界を嘆いて自分を責めるだろうから、
 君に伝えるべきことはしっかりと伝えたい


 世界を変えることは難しいことだけど、
 君を愛することは普遍的だと確信することができるのは、
 それだけ安心感があるからだね。
 
 ねだって、駄々をこねるこどものように
 まっすぐな怒りがほしい。

 例えば、無邪気さを魔法の渦に放り込むとハートが出来上がる。
 そんな風に簡単に愛を誓う方法がほしい。



✦夢の残像がぼんやりとする。やりきれなくて寂しいのは、君の所為だよ


 数秒前に戻るみたいに
 夢の映像がまだ残っている。
 
 別に差し込む朝日が眩しいから、
 その光景を思い出したわけではない。

 君に踊ってくれないかと声をかけられただけだ。

 月の砂が入った砂時計をひっくり返して、
 期限付きの恋をするようなものだ。

 だから、今日はこんなに晴れているのに、
 外に出たくないや。




✦朝が来るたび、心躍ることを求めてしまう


 過去に囚われて、ぐるぐる回る頭の中。
 もう何度も嫌を繰り返した。
 
 ゼンマイをキリキリと、
 巻くように自分を蘇生して。
 優しさが(あざ)になり、青い朝が来る。

 弱さはコーヒーに溶けて、
 クリープの渦を作る。
 もうやめにしようと決意した。



✦大人になれない月曜日は、夢のかけらが二人を包み込んでいる


 ファンタジーな日々を君に送りたいから、
 メリーゴーランドのスピードを落としたくない。

 月曜日には、きっと魔法がとけて、
 醒めた世界がひっそりと始まる。

 巡る季節が僕たちを追い越して、
 二人きりになったら、
 きっと二人とも今より、
 大人になっているのかもしれないね。




✦夏が始まったから海へ出かけよう。君が最高に似合う季節がやってきた


 海へ続く下り坂を、ゆっくり君と歩く時間は、
 なんでこんなにきらめくんだろう?

 もし、このまま夏が消えても、
 君と笑えるだけでいい。

 そんな安い空想が似合う君が好きだ。
 君が急に坂を駆け抜けて、白い背中が揺れる。

 振り向き、呼ぶ声が透き通っていた。



✦スニーカーの靴紐を結び、砂浜を駆け抜ける準備をしたあの日は晴れていた


 失った時間を思い出した。
 おさなすぎて、気持ちを伝えられなかった。
 
 今はただ、それを思い出し、
 穏やかな海を眺めているだけでいい。


 無限に思えた時間は砂の城のように簡単に崩れた。
 感傷は潮風でヒリヒリする。
 胸はずんと重い。

 「もし」は満ち引き、
 万有引力の法則は普遍だから、
 あのときの思いは手放したくない。



✦記憶の断片は日々、積み重なるけど、決して間違った選択なんてしていないと思う


 クリームソーダのアイスが流氷のように溶け始めている。
 細いスプーンでそっと(すく)い口に含む。

 炭酸の泡みたいに消えた、淡い恋愛のことをふと思い出した。

 左の人差し指でテーブルに円を描く。
 小指のピンキーリングのピンクゴールドが電球色の照明を反射した。
 その一瞬で、遠い記憶が近づいた気がした。



✦終わりなんて見えないから、世界は美しく見えるんだろうね


 時空を逆らうように、
 泣く君はなぜ綺麗なんだろう?

 輝く涙は潮騒(しおさい)に紛れて消えていく。
 潮風がきっと忘れさせてくれるよ。
 そんな気の利いたこと言って、簡単に終わらせたくない。
  
 だから、炭酸が抜けないうちに
 コーラを飲んで、
 無数の虚しさを消し飛ばしちゃおう。



✦自分を大切にする方法を、たまに忘れるから、穏やかに真ん中に戻す


 昼下がりの木陰の下は、
 少しだけ涼しくて、座っているだけで頭が空になる。

 眼の前に広がる草原は、
 時折、吹く風で線が描かれている。

 流れが早い雲の上に乗ったら、
 きっと簡単に都会まで行けるんだろうね。

 別に翼なんてもってないけど、
 社会で上手くやることなら持っている。

 だけど、もういいよ。
 そんなのは。



✦夜明けは紫で、街にある大好きなことはまだ眠っている


 泣きたいけど、泣けない日々が最近、続いている。

 自分のことが惨めになったら、
 「明け方の空を見ればいい」と自分に言い聞かせている。

 宛名のない手紙を書いては捨ててを繰り返す。

 未完成のパズルを漠然と眺めているような不器用さが嫌。
 理由を求めすぎてると絶望するから、
 レモネードでも飲んですっきりしよう。

 もうすぐ来る、絶望的な暑さに耐えられなくなるから。



✦退屈な日々が始まる前に、カフェで気持ちを切り、ため息を今日も防ぐ


 頭の中はクリアにならない。
 そんな日々が続いている。
 
 アイスコーヒーが入ったグラスの水滴を指でそっとなぞる。

 生きているリアルが起きるたびにインストールされて、
 こうして同じような朝を作る。

 読みかけの文庫は半端で、意識は空想に飛ぶ。

 今日も始まる退屈な日々を思い出し、
 濡れたグラスを持ち、ストローを(くわ)えた。




✦深い傷はゆっくり塞がりつつある。だから、臆病になって静かに諦めたくなる


 始まりは静かだった。
 ひとつのことに囚われて、
 頭の中はぐちゃぐちゃだけど、
 しっかり君のことは見れる。

 歩みを止めるのは簡単だけど、
 また動き始めるのは大変だよと、
 君に言われて、諦めようとしていた自分が、とても(おろ)かに感じた。

 だから、ガラスに雨があたるように
 静かに再始動できたのは、君のおかげだよ。





3、最初の最初。エモを追求していた毎日。✦2020年6~7月、最初期の頃の作品✦

✦はじめに

 2020年6月3日に蜃気羊として、Twitterに作品を投稿し始めました。
 この章では、4周年を記念して、初期の作品をまとめました。

 まだ、タイトルをつけず、ひたすらエモとはなにかを考えながら、
 日々、試行錯誤をして、テキストを書いていた頃の作品です。
 平成レトロに振ってみたり、突飛な設定に振ったりと、
 いろんなことを試しています。

 本当に書き始めの頃の作品なので、
 今とは、文章の雰囲気や、テーマ性もかなり違いますが、
 記録として、残したいと思います。

 それでもよろしければ、読んでいただけると嬉しいです!!







2020.06.03


初めまして。蜃気羊です。
文を書くのが好きで、何度か、小説や詩の作品応募をしてきました。

夕暮れとか、夏とか、青春とか、死にたくなるあの感じが好きです。
#エモい が流行ったとき、それ!ってすごく共感しました。
エモか中2なのかわからない文章を作りたいと思います!




2020.06.04



堤防の青芝が西日で淡い。北の村に遅い夏が来た。
君と肩をくっつけ、川をぼんやり眺める。

夕方のサイレンが鳴り、変わりたくない時が終わった。
君が立ち上がり、歩きだす。30年も直していないアスファルトがボロく、悲しい。
西日のオレンジ、逆光でも君はキレイだ。




2020.06.04


石炭がガラクタになり、炭鉱の街は死んだ。
そう言われてから半世紀近く経った、ゴーストタウンに僕は住んでいる。

1世帯しか住んでいない集合住宅、昭和字体のホーロー看板、
廃墟の映画館、廃校。すべてが夢だった世界だ。

今はコンビニしかなく、冬は死んだように静かで寒い。



2020.06.04


雨に打たれ、
ずぶ濡れでも平気なのは、無心のおかげ。
私はあなたに嘘をついて、
自由を取り戻したように感じた。
自由とは究極の独りぼっち。

商店街のスピーカーから「人にやさしく」が流れている。
私は人の心に寄り添うことを決意した。

あなたにも頑張れ!ってか。



2020.06.04



頭痛がひどくて、保健室のベッドに駆け込んで死にたくなった。
バファリン飲んだけど、全然気分すぐれないし。
学校なんて何のために来ているのかわからないから、今日も早退しよう。

なんでこんなに毎日がつらいのかわからないし、解放されたいしで頭にバグ。

あーあ、世界が終わればいいのに。




2020.06.04


惰性になれたらいいなっていつも思う。
高校生のときにブコウスキーにドハマりして、そこから人生おかしくなった。
夜遊びを覚えて、毎日夜にさまようようになって、
気が付いたら、夜しか生きることができなくなった。

だから、惰性で人生歩むことができなくなった。
とりあえず、ラーク吸うわ。




2020.06.04


忘れないうちに何度も言葉を自分の内側に繰り返す。
私は忘れやすいから、ちょっとした言葉とか、
これからの人生に影響しそうな出来事とか、結構忘れる。

今この瞬間を今生きているって感じは毎日するけど、今の積み重なりを振り返ることが苦手。
青春あっという間、ってそいうことか。



2020.06.04



海の奥からは雷鳴。
積乱雲が上へあがり、暗くする。
星が正義をいえば、対岸の地図にバツ印をつけるだろう。

どす黒さが憂鬱。
浜を歩けば、足跡が湿った砂に残り、波が消す。
積乱雲はどんどんあがっていく。
浜に戦慄が走り、空中に舞った。そのとき、私は別の平面に飛ばされた。



2020.06.04


ピンクで溺れた未来が今になった。
あなたとの不思議な世界。
一緒にいることが不自然。
僕らの暗号文を作ろう。
誰にも見つけられない平文を。
平面を何面も重ねよう。
平面では僕らは一緒になれるけれど。
立体では離別するだろう。
だから、このまま過ごしたい。



2020.06.04



「地球は青かった」

ガガーリンのように決め台詞を言いたい
なんで感動している最中にあんな言葉が出てくるのだろう

宇宙の冷たさで冷えっ冷えっのコーヒーを飲みながら言うならわかるけれど、
宇宙船の計器を常に確認しながら、孤独の中で言うのだから、尊敬しますわ

地球?青いよ



2020.06.04


霧雨がじっとりと不快。
街にガスがかかり、車のヘッドライトが霞んでいる。
自分は優しい人間でありたいと思っていたけど、
時間が経つとともに都会の汚さに染まって薄情で平らになった。

君の言った意味がわかったから、
人間らしくなるために仕事を辞めて、山奥に行くことに決めた。




2020.06.05


ボロアパートで、熱中症ぎみで、目覚めて、頭痛。

入道雲が大きくなったのを制服の君と見たのを思い出した。
午後の誰もいない公園。
ブランコに座って、はっきりしない未来のことを話し、無限な気がした。

その夏以来、君と会わなくなり、揺れる今がある。
懐かしい苦味がした。



2020.06.05


夢の後は寂しい。
楽しいことや、嬉しいことを思い出すからだけど。
わかっていても虚しくなる。

オシャレしたこととか。
美味しい料理食べたこととか。
愛されたいとか。
わかりあいたいとか。

すべてがモノクロール。
影で形を思い出し、夢を着色する。
だから、夢って眩しいんだよ。



2020.06.06


過去を忘れることを決めた日、
今しか見ないことを決めた。
生きることに集中するって、
仕事だけじゃないことにようやく気付いた。

テレビでド田舎に住んでいる人の意味がわかった気がする。
結局、過去を捨てれない自分が惨めだ。
時空がプリズムみたいに歪んだ。




2020.06.06



コンクリートの非常階段から夜景を眺めていた。
夏が始まったばかりだから、少し冷たい。
時々、なぜこんなに人が都会に暮らすのか疑問に思うけど、
便利で仕事があるからに尽きる。

セブンスターが燃え切ったとき、
遠くで隕石が落ちていくのが見え、手が震えた。



2020.06.06



雨上がりの路面に赤信号が反射していた。

死にたがりだったあの子が、
赤信号を待っているとき、
なんで生まれてきたんだろ。
と言ってたことを思い出した。
哲学すぎてわからないと答えたら、
あの子に浮いた印象を与えた。
結局、あの子は死ぬことはなかった。




2020.06.06



レモン色ワンピースの強気一色コーデが無敵に似合うのは君だけだ。

強い日差しが、甘酸っぱさを溶かし、白タイルの街に君が反射する。
たまたま見つけた露店でラムネを買って、
炎天下のベンチで焼けそうになりながら、ラムネを飲んだ。

君が青く笑ってたから、素直な気持ちが蘇った。




2020.06.06



朝、起きると街は灰色だった。
光も何もかもが灰色で、色が恋しくなった。

出勤のために外に出た。
街は騒然としていた。
ニュースは「大都会も灰色」「灰色になった街での色の見分け方」など、
灰色関連の報道ばかりだった。

だけど、職場はいつも通りだった。





2020.06.07


田んぼが闇に包まれ始めたとき、
遠くの街が城のように光っている。

パルプ工場の煙突から煙が静かに上がっていて、ダークオレンジに白を足していた。

自転車を止めてコーラを飲む。
部活が終わり、あの城下から、この時間に帰って来ることが当たり前になった。
あともう少し、頑張ろうと思った。




2020.06.08



真面目になりたいから、
実直になることを選んできた。

国道の喧騒を聞きながら、
散歩をしていたとき、
ふと、自我を忘れたことに気がついた。

周りは幸せそうなのに、
自分はなぜ恵まれないのか。
自分が自然体になる術を忘れてしまった。

トラックのエンジン音にイラついた。



2020.06.08



フィガロに憧れている。
ミニクーパーに憧れるように。

30年くらい前の車で、ニッチな人気を得たみたいだけど、シリーズ化されなかった。
バブルが弾けて、日産に余力がなくなったからだ。

たまにフィガロを街で見かけると、
あの車で夜の街をドライブデートしたいって憧れる。



2020.06.09



眠れず、早朝の河川敷を歩く。
黄緑の芝生と土が麒麟の縞模様に見える。
置き去りにされた、軟式野球ボールが持ち主を待っていた。

ボールに草色がついていて、朝露で濡れていたのを気にせず握る。
思いっきり遠投したら、ボールは草の影に消えた。

鬱が晴れる気がした。



2020.06.09



#失恋を14文字以内で

二度とない青春に浸ることだよ




2020.06.09


濡れたコンクリートにミルキーが落ちていた。
ピンクの水玉に泥。
幸せとか、夢とかこういう感じで失うんだね。

もし、ミルキーが吸殻だったら、何とも思わなかっただろう。
吸殻がミルキーだったら、吸った後にママを思い出して、ポイ捨てできねぇな。

ミルキーはママの味ー





2020.06.09



飛行機雲が延びる。
君は高校生の癖にやけに大人びてた。

言葉の節々に大人っぽさが滲むし、やけに余裕のある落ち着きがあるし。
話すこともないから、話題が高校生じゃないよねって聞いたら

「私、タイムリープ3回目なんだ」
「へぇ、宇宙人だね」

僕は何となく、君の手をつないだ。




2020.06.10



全裸で暮らしている男が14インチのテレビデオに写っている。
インチがなくて近くで見てるからか、酔が廻ったからか、目がチカチカしている。

面白くて思わず、見入った。
不安だけ、ポケットにしまえば、あとは楽観すればいいや。
氷が溶け切ったスコッチで、木の味を飲み干した。




2020.06.10



深夜、誰もいない国道。
田舎すぎて、コンビニの光すら遠くにあり、
等間隔で置かれたオレンジ色の街灯が浮いてる。
深夜バイトが終わり、自転車で帰宅するとき、
人生の無駄遣いじゃないかって、時々思うんだ。
このまま終わりたくない。って心の底から震えるけど、今のままがいい。



2020.06.10



浜辺で夕暮れを見て、世界の終わりだと感じるのは当たり前。
だから、浜辺で夕立の中、君と日没の海を見れたのは貴重で、髪が濡れて鬱陶しい。
波は一定のリズムだけど、雨はテレビの砂嵐みたいだから、君を笑顔にする。

どうして、ずぶ濡れると世界がどうでも良くなるのだろう。と君が言った。




2020.06.11



バケツひっくり返し
頭から水被る
君は最高にクレイジー。
カラフル水風船
投げる肉弾戦
柔らかくしぶき
シャツを濡らす。

二人でこのまま
世界を水で征服できそう。
息つく間もなく
熱波を忘れて
時間を超越、濡れた笑顔。
割れたゴム片
虚しく、カラフル。



2020.06.11



日本全国、ほとんど雨なのにここはあまりにも北過ぎて、爽やかに晴れている。

梅雨を知らないけど、マイナス20度の冷蔵庫な世界は知っている。
インフラ整備の最小限で、昭和で時が止まっている街は、高齢化でそのうち消えるらしい。

短い夏だから、晴れてる日は炎天下になったって足りない。


2020.06.11



雑然とするデスクの海で、手を動かす。
ぎこちなくため息ついて、缶コーヒーを飲む。

子供の頃、無限だった集中力が、大人になり、無くなった。

脳みそは肉体であって、フラッシュメモリーじゃない。
情報過多で、時間に追われ、タスクに溺れ。
情報から離れたくなり、会社を辞めることにした。




2020.06.11



雨上がりの夕暮れで、街が青い。
誘惑を奇抜な色で表した、看板が無秩序を作っている。

あなたとの待ち合わせ場所に向かう。

スクランブル交差点はどこからともなく人が流れ、一人一人に人生があることが不思議に感じる。

今日の夜が、一生記憶になるかもと思うと鳥肌が立った。




2020.06.11



テールランプが赤線になる夜を歩道橋から眺めていた。
最後の一本になった、ラキストを吸いながら。

都合良く生き、当たり障りなく、今まで来たけど、それが限界を迎えたことに気づいた。

3車線の国道は無限の車が真下を去っていった。
吸殻を踏み消し、前しか向かないことにした。



2020.06.12


砂場に忘れられたスコップが、街灯を反射していた。
小さな公園は所々闇に覆われている。

夜になり、気温が下がった。昼間の熱はどこかに行った。
白ペンキが剥がれたボロボロのベンチに座り、砂場を眺めていた。

幼いときの無邪気さを取り戻したいと強く思った。




2020.06.14



自分が何者でもないと無力を知ったとき、世界が三回くらいひっくり返った気がした。

都合のいい、一瞬が重なり、今になり、未来になり、そして自我になり、自分を苦しめる。

怖くて、一瞬をためらうから、自我が終わる音がする。

人を大切にすることって大変だ。




2020.06.14



休日の昼下がり、シートの赤さが目立つガラガラの通勤電車に乗る。
天井の扇風機が回転するものの、ぬるさをかき回しているだけだった。

開いた窓から、風を切る轟音が車内を支配する。
読書する気になれず、早く病院前の駅に連れてってほしくなった。

君が産まれた日は暑かった。





2020.06.15



レモンサワーの気泡があなたを揺らす。
透明なグラスを溶かしてほしい。
あなたとの日々は忘れられない程キレイで、淡く満ち足りるはずだ。

キズを溶かすには、しばらく時間がかかるだろうけど、仕方ない。

頼れない幼さに、真面目は滑稽。だから、揺さぶられるんだ。



2020.06.15



星を拾いに行くよ。
なんて、気取ったこと言うのは白けるから、
とりあえず、言葉少な目に展望台に君を連れていった。

君は感動して、インスタ用の写真取りまくって、キレイを連呼してる。

俺は星を見るのにすぐ飽きて、Pieceに火をつけ、甘いバニラで呼吸を整えた。

先端が浮いてる気がした。


2020.06.15



補習授業の教室はオレンジの影が濃く、2人で自習。
マジだるい。雨上がりで妙に湿気が強く、息すらめんどい。
携帯を開き、iモードに接続する。

うねる前髪が鬱陶しい。
ストパーかけてなくてダサい。

って思われても、隣にいるこの女は、俺以上にダサいからそんなこと言えない。



2020.06.15



たまに、人間関係で酸素不足になる。

海の中に放り込まれて、屈折する日差しが遠くなり、深海に意識が持っていかれる。
深い青さが人と人との繋がりだとしたら、
容赦なく押し寄せる、人の評価、批判が自分をギュッと圧する。

肺と心は潰れ、酸素交換が出来ない私は、
海の底で人間失格を読んだ。



2020.06.15



外来で点滴を打たれ、硬いベッドで寝転んでいる。
開けた窓から、強い風が入り、白いカーテンが大きくなびく。
初夏と消毒の匂いがまじり、病室に清潔感が増した。

誰もいない病室で、ぼんやりしているだけだった。
輸液バッグが殻になり、身体の重さが和らぎ、薬の偉大さに驚いた。




2020.06.17



歩行者用信号の青緑が、
雨で濡れたアスファルトに反射している。
雨上がりだけど、曇りの暗さが夕方なのを忘れさせる。
いつもの地下鉄出入り口に入る。

出入り口から地下の妙に冷たい風を感じ、
なぜ、毎日がこんなに自分の心も湿っているのだろうと、
しみったれた気持ちになった。




2020.06.18



本能で生きていけると思い込んでいた。
やさしくするとか、甘えるとか、おせっかいをするとか、
それらは人間らしくないと唾をつけていた。

それが仇になり、一切を辞めた。夢や、愛など、コンビニのごみ箱に捨てた。
しかし、すべてを捨て切れず、部屋で膝を抱えた。
斜陽に照らされ、ほっとした。




2020.06.18


「あの頃は若かったね」ってラークの1ミリ吸う君に言われた。
うるせぇ、ってとっさに返したあと、
君がまだ制服だった夏の夕暮れを思い出した。

「あの頃は若かった」はバーボン片手に、自分に酔って言うセリフだ。

と言ったら、君から超ウケる、
こぼしてるし、って爆笑された。



2020.06.19



古く、錆びたショッピングセンター。
上りエスカレーターで3階に向かう。
ステンドグラス風の窓から光が入り、吹き抜け広場の白タイルを淡くカラフルに映している。

女の子がカラフルの上を飛躍していた。
5、6歳のとき、黄色い服を買ってもらったことを思い出した。
赤い手すりから手を離した。



2020.06.19



朝日で青白い商店街のど真ん中、自転車をゆっくり漕いでいる。
昨日の昼間の暑さに合わせて、半袖にしたけど、
妙に凛とした寒さで、一枚くらい羽織っとけばよかったと後悔した。

カフェに着き、7時オープンさせるために
オープンテラスの傘をいくつか広げ、鍵を開け、店内に入った。



2020.06.19



宇宙の儚さについての夢を見た朝、気持ち悪い。

恋とか、愛とかではなく、存在を認める一言を誰かが言ってくれたらそれで十分。
しわくちゃになったシャツに軽くアイロンをするように一言、言ってくれたら、穏やかになる。

だけど、他人任せだから、一向に人生が始まらない。
義務感が妙に湧いた。




2020.06.21



自分で作り出した日常に追われ、余裕がないときに隙ができる。

淹れたてだったコーヒーも、温くなるくらい、時間が経ち、
一服するつもりが、結局、胃に流し込むだけになった。

先のことなんて、考えられないけど、
今をそつなくこなして、毎日、一年と過ぎればいいや。




2020.06.22



どうせ、冬になったら、海のことなんて考えもしないんだから、今のうちに海に行きこうって君が言った。

平日の電車は空いていて、色あせた青いシートが目立った。
甲高いモーター音がやけに耳障りで、君との会話が弾まない。

青黒い海に日が反射して、白く輝いていた。
自分の心変わりに見えた。




2020.06.22



午前授業が終わった。
定期を忘れたから、仕方なくきっぷを買う。

自動券売機が置いてある台にビニール傘がかかっている。
雨上がりで、ジメジメで、蛙が喜びそうな晴れだから、傘は忘れたことすら、忘れられてそうに見える。

妙に寂しくなって、振り向いたら、君がいるわけがない。




2020.06.22



昭和な遊園地に行った。
入ってすぐ、パンダカーが無数に止まっていた。
君も昭和を知らないのに、懐かしいを連呼していた。
赤、青、緑帯のコーヒーカップに乗ることにした。
ぶっきらぼうなブザーに合わせて回り始めたから、
クリープみたいにハンドルを目一杯回した。
一瞬で、時が過ぎた。



2020.06.22



押し、戻し、夢のかけら。
幸せ、本気、淡い破片。
あなたと描く夢、幻の島、灰色になる。
意識混濁を起こした夜。
昼になり、朝になり。
歪む時空、病室の天井。
鳥がさえずり、安らぎ、
緑の芝で、大きく息をして。
息する、生きるのが楽になった。
未来と今が同期して、ここにいると実感する。




2020.06.22



流氷がきしむ音はしない夏。
さざなみがコンクリートの岸壁をちゃぽちゃぽさせている。
船が出払ったボロい港で、かもめが夏を楽しんでいた。

最高に青い空と、青い海。
沖の弱い蜃気楼が、漁船を揺れる白丸にした。
永遠にこのまま、連れて行ってほしいくらい、
引き込まれる青さにあくびした。




2020.06.23



ファンタジアに憧れて、
かわいさ求め、甘いものに目が行く。
Pink amazing !
チョコレートで、カカオ職人に憧れて、
甘さ引き立つ焙煎がしたい。
私は最高のパティシエになって、
失神するくらい、世界一甘いケーキを作る夢。
練乳、カスタードをあげる。
I have an amazing present for you !




2020.06.24



コンビニでお菓子買い、君と公園に来た。
噴水は青い空を白く冷やしていた。
練習サボり、ギターが重たい。

「デビュー曲で車買うんだ」
「サボってる人がデビューって、永遠に無理でしょ」
「赤のオープンカーで一緒にドライブしよ」
「だっさ」

チュッパチャップスで乾杯した。



2020.06.24



廃線のボロい駅。
取り残された2本のレールが、錆びて歪んでいる。
君ははしゃぎながら、錆びたレールの上を歩いている。
平均台みたいに。

思いっきり、両手を伸ばし、ふらついている。
「あー、落ちちゃった。意外と歩くの難しいよ」
二度と点灯することがない信号機が青く光ったように見えた。




2020.06.25



時を欠けた記念日

無理して
淡い朝になって
期待を黄色で包み
自然と調和したい。
けど、一つもわからない。

過去に意識を飛ばし
同期した瞬間
一人だけ戻り
やり直すことができる。

あの一瞬を突き刺し
もう、二度とない時間軸を作り直し
欠けた心を取り戻すんだ。
さよなら、現生の思い出。





2020.06.25



そっと水瓶で世界を虹色にする。
水瓶に君との日々を詰め込んだ。
今は灰色でも、モノクロは薬品を漬ければカラフル。
海を灰色から水色にして、
木々を灰色から緑にして、太陽を灰色から黄色にして。
そっと目を瞑れば、驚き、暖かい世界になる。
世界を変えてやるんだ。
夢見心地でね。




2020.06.26



何日かぶりに雨が上がった昼下がり
経済学の講義をほったらかして、
君と歩くことにした。

県道は海岸線をなぞり、半島の先まで見える。
むわっとした空気でも、なぜか爽やかに感じる。
海の家で何人かがせっせと準備していた。

もうすぐ海開きだね。
君が夏を感じたとき、風がぶわっと吹いた。



2020.06.26



いらないと言われ、諦めた日、
夏至が過ぎたばかりの空は高く、素直だった。

心に響くことを意識しすぎて、
社会とか、効率とか、働くとかがわからなくて、
浮きながら、合わせる努力をした。
だけど、限界で苦しく、モヤモヤに存在否定。

早く夏が終わればいいのにっていう、青さだった。




2020.06.26



カウンター席から、雨で滲む夜景を眺めていた。
大ぶりの滴が、窓ガラスを濡らし、
青、赤、緑、白が滲み、ニッカウヰスキーの看板も、知らなければ、ただの色。
花火のように丸い水が、花開く。
奥の繁華街は今日も恐怖と楽しさが入り混じっているんだろうな。
安い夜食を済ませ、寂しくなった。





2020.06.27



夜中に孤独を楽しむと、
人を傷つけたことを思い出す。
常識をがむしゃらに頑張り、
いつもバランスを崩す。

昔からだ。
決め事は嫌いだから、
無理に争った。
でも、それが楽しかった。

計画が嫌で、
時間は過ぎたけど、
安らぎ、直感に従えば、
次は必ず上手くやると真夜中のベッドで誓った。




2020.06.29




海へ続く小道。
下り坂を思いっきり、自転車で駆け下りていく。
海上上空には、幻みたいな入道雲が伸びている。

昼間の日が、左右に濃く影を作り、電柱が道の真ん中にできていた。
踏切の遮断機が降り始め、慌てて立ち止まった。
立ち止まった先、青さが眩しく、かぼちゃ色の電車が遮った。




2020.07.01



近所の本屋が潰れた。でも、この街は何も変わらない。

夏文庫を初めて目にしたのも、あの本屋だし、
初めて文庫を買って、大人になったのも、あの本屋だし。

Amazonで買えない思い出が消えても、本を読むことを覚えた。

この街から、文化が死んだ音が響くのは十年後かもしれない。




2020.07.02



田園の滑走路は不自然。
山を切った空港は、空母のように異物だった。

朝、北から飛び立ち、ボーイング737の狭い機内で一眠りしたら、もう着陸態勢に入っていた。

東京湾を旋回中、見える街は完全に異国で、朝の田園は幻だと確信する。

いつも、この景色を見て、慣れない人波に入る覚悟をする。




2020.07.03


電柱にぶら下がる錆びた蛍光灯が、路地を白くする。
君はゆっくり歩いている。
仕方なく君の足取りに合わせる。

コンビニで買ったアイスが溶けそうで不安になった。
不意に君が立ち止まった。

「どうしたの?」
「ごめん、放っておいて。こういう日だから」

君の頬に涙が白く光った。



2020.07.03


夜の公園は半袖だと寒く感じた。
彼女と座るベンチは、街灯で白く目立っていた。

「成人です」彼女はそう言いながら、ラーク1ミリを咥え、火をつけた。
「未成年のくせに」俺もpeaceを取り出し、彼女から火をもらった。

彼女は空を仰ぎ、肺に吸い込んだ煙を大げさに吐き出した。




2020.07.07



未来なんてみたら、キリがないよ。
と君に言われたことを思い出した。
人並みや硬い社会に押しつぶされ、
脳が重く、黒くなった日、すべてを捨てることにした。
反対行の電車に乗り、文明が退行した世界に行きたい。
しかし、これは妄想にすぎず、今日もまた満員電車から黒い街並みを眺めていた。



2020.07.07



公園は夕闇が深くなり、街灯が主張し始めた。
君とベンチに座り、スマホで撮った写真を見せ合った。
緑と青に君の黄色が魅力的な多くのシーンが次々と指先で過ぎていく。

「黄色ワンピにしてよかった」
「いいね」
「映え狙ったから」

AirDropで送った写真を君は早速アップしてた。




2020.07.08



夕立が田んぼを煙らせる。
雨宿りできる場所なんてない。
全力で自転車を漕ぐ。
濡れる制服が張り付き、スカートもぐちゃぐちゃ。
伸びた前髪の鬱陶しさを忘れるくらい、濡れて束になる。
でも、なぜか気持ちが吹っ切れて、
雨のバカヤローって言ったら、CMになるのかなって思うとウケる。



2020.07.09


低くなった夏空がやるせなさを掻き立てる。

高校のとき、自分の底が浅いことを知られないようにと、言葉数を少なくすることにした。

その後の青春は色褪せ、面白さに欠けていることに気づかなかった。

十年経った今、自分に蓋をして生きるのは楽だけど、辛いし、逃げることにした。




2020.07.12



君の水色が似合う7月。
君の憂鬱な姿を見ていると助けたくなる。

陽炎でコンクリートが揺れる中、
なぜアイスも買わずに公園のベンチで話し始めたのか、なりゆきが忘れかける。

君は蛇口を回し全開のように、自分のことを、すらすらと脈略もなく話し、
気が付くと、君は泣いていた。



2020.07.14



星の砂をかき集めて。
なんて、言えない昼間の砂浜は白く熱くて。

あなたと足跡つけて、遊びましょう。
あの人との時を潮風に流して。

白波
入道雲
色褪せた灯台

白の絵の具みたい。

溶けるように甘く。
波はチョコレートみたいに浜を濡らす。

あなたと今をフィルム色に淡くしよう。




2020.07.14



閉園前のメリーゴーランドは最高に輝き、夜に浮いていた
君の隣に座りたいから、白馬じゃなく、馬車に腰掛けた

ベルが鳴り、重いモーター音をかき消す三拍子が急に世界を作り、誰も騎乗しない白馬が走る

君の手を繋ぎ、夢のあとを眺めていた
夜風が気持ちよく、このまま無言でいいやと思った




2020.07.16



過去を思い出して死にたくなるとき、
10秒呼吸を整える暇さえ与えてくれない。
そんなに忙しい現代だから、
普通演じて、輝きが永遠にくすむ。

ビー玉みたいな、涼しさと清ささえあれば生きていける世の中が良かったと絶望するんだ。

だから、煙草を吸い、何もかも忘れられる今が幸せすぎる。



2020.07.17



長雨で夜のアスファルトは潤っていて、白い街灯が反射する。

目尻が痒くて、擦ると、指にマスカラが黒く付いた。

終電前のことを思い出し、寂しいけど、疲れた。

あなたは明日、旅立つけど、今日も何もなく終わり、これからも何もないんでしょ。

後ろ振り向いても、あなたは居るわけがない。



2020.07.17



卑しい社会は汗染みがすごいから、洗濯したい。
けど、そうもいかないから、社会はややこしい。

偽造は空虚を作るから、話がもつれるから困る。
末端たちはただ、笑ってシワになるしかない。

だから、君の愛想笑いが最強の武器になるから、
そんな軽蔑すら吹き飛ばすことが出来るのが最高だね。



2020.07.18



星読みはなぜ、ロマンチックなのかと言うと、宇宙が浪漫にあふれているからだよ。

なぜ人は星の動きで大きなことを知ることが出来るのか、不思議で熱い涙が溢れる。

星のない世界に連れて行かれたら、水面には何も映らず、船は行き先不明になる。

無限の星が有限に思える日はきっと来ない。




2020.07.19



完璧な夏空と7月。
部活を早く切り上げた帰り道、たまたま君と一緒になった。

部活辞めたいと言われ、いきなりそんな相談かよって思ったけど、
学校辞めたいよりマシかと思って、君の浅い悩みを聞いた。
君は学校で浮いているけど、僕も浮いている。

部活は簡単に辞めれるから、社会よりいいよね。



2020.07.21



駅を出ようとしたら、急に土砂降り。
雨予報を無視して、傘を持たなかったことを後悔した。

ぬるそうな雨が、街をグレーに染める。
何人かは、誰かに電話し、車の迎えを頼んでいた。

駅の出入口でたじろいでいたら、雲が切れ、夕日が差した。
雨に振り回されてる自分がちっぽけだなって思った。




2020.07.22



夏の非常階段はひんやりして白い。
バリバリに剥がれた白のペンキは新築だった30年前を忘れ、粉になっていく。

誰もいないから、最近はここでセブンスターを吸っている。
今日も完璧な青空が低く広がり、遠くの空気が熱で揺れる。

昨日、あなたに言われた思わせぶりな言葉を思い出した。




2020.07.23



老舗の純喫茶にわざわざ行き、緑色のグラスを2つ並べて、少しご満悦。

クリームソーダに思い出なんてないけど、
なんで懐かしい感じになるんだろう。
と君は言った。珍しく説得力がある。

君はiPhoneで撮影し、
インスタに上げてる雰囲気だったから、
その間に長いスプーンでアイスをかき混ぜた。



2020.07.23



終わる虚しさと始める新鮮さ。

夜のバッティングセンター。
ナイター聞きながら、ベンチで休憩してたら、
助っ人が逆転満塁ホームラン打った。
歓喜の様子が虚しく流れる。

誰かが力んだ打音が鈍く響く。
悩みを終わらせたくて、
無心になりたくて、
バットを振ったけど、
不甲斐なさで虚しいや。




2020.07.23



二人だけで世界征服しよう

誰も見つけないような世界征服を
ゴミだらけの砂浜で、
星のかけらを探すように難しく、
誰もやらないことをしよう

蔑視する世界を置いて、
揺れる心を強く持ち確信して、
隕石を炭酸に入れて、
柔らかくしようと試すように

そんなぶっ飛んだ閃きで世界を作るんだ




2020.07.23



ずっと一緒にいるという未定な予定をあなたは守ることができるの?

観覧車で誓った永遠が一瞬で溶けることが怖いのは、
私が臆病だからかな。

グラスの氷が馴染んで、
音を立てるように前触れなんてなく、
夏になると思うと、怖くて眠れない。

だから、日曜の昼に遊園地に連れってほしい。




2020.07.24



ひとつの失敗に囚われ、手が付かなくなったから、仕方なく蒸し暑い夜道を散歩している。

頭を空っぽにすることが難しくなったのは、人のことを気にするようになってからだ。

自販機の光が黒い路地に浮いている。
暑すぎるから、缶コーラ買って、保冷剤代わりに首に当て、ため息をついた。




2020.07.27



夏が来る前に、あなたと逢いたかった。
それが出来ずに夏の真ん中まで時が流れていた。

時間の所為、
天気の所為、
暑さの所為、
運命の所為、
やる気の所為、
めんどくさがりの所為。

言い訳を繰り返せば言い訳が真実になり、
季節はどんどん深まる。
もう二度、あなたと会うことはないだろう。



2020.07.28



錆びた漁船が波で揺れている。
二人でテトラポットに座り、沖を見て、波の音を聞いていた。
港は今日も冴えない昼間の空気で、潮の香りが油っぽく感じる。

このまま針が止まり、
一生二人だけの世界に迷っても飽きないような気がするけど、着実に太陽は西に進む。

7月は最高だなって思った。




2020.07.29




電車を逃して仕方なく、色あせた青のプラスチックベンチに座る。

駅構内にキツい西日が差し込む。
30分急に暇になり、不服。

無駄に温まったベンチのぬくもりを感じ、夏の真ん中はなぜ、気だるくさせるのだろうと哲学を投げる相手が欲しくなった。

貨物列車が轟音を立て通過した。



2020.07.29



人と空を愛したとき
青さや空気がすべて決まっていることを知った。

人と海を愛したとき
夕闇の静けさの積み重ねが人生だと知った。

地球から出られない窮屈さ
近くに物質惑星がない孤独さ

冥王星調査旅団が、孤独の星に着陸し、
定住を始めるニュースは、そんな常識を壊した気がした。





【初出】
 1章
 完全書き下ろし

 2章 
 蜃気羊X(@shinkiyoh)
 https://twitter.com/shinkiyoh
 
 2022.5.1~5.31


 3章 
 蜃気羊X(@shinkiyoh)
 https://twitter.com/shinkiyoh
 
 2020.6.3~7.29