私の世界はとても狭くて冷たくて、生きにくいものだ。
愛にあふれた家庭があれば、私の事を大切に思ってくれる恋人がいれば何か違った世界が見えてたのかな。
「愛花ちゃんもうちょっと気持ちよさそうな演技できないの?」
「....。」
「お金渡してるんだからね!分かってんのか!」
「すみません。」
「もういい。君のその態度で一気に萎えたよ。」
「....。」
「君感情とかない訳?本当ポンコツな子って駄目だな。」
「すみません」
「ほら、金。本当は渡したくなんかないけど」
「ありがとうございます」
手を伸ばし受け取ろうとした時、男性の手からお金がヒラヒラと落ちる。
「拾えよ、カス」
拳を握り、唇を思いっきり噛み締め落ちたお札を拾う。
そんな私を横目に文句を言いながらホテルの部屋を出て行く、男性を見送った私は一人残された部屋で大きい溜息を吐く。
「きもちわる....」
洗面台に向かった私は、うがいをしそのまま唇を洗い、鏡に映った顔を見る。
「私の顔ってこんなブスかったっけ」
何百回と見てきたはずなのに、色素がなくなった自分の顔は世の中にいる何者よりも醜く感じて、そして惨めに思えた。
「きも」
鏡の中にいる自分にののしる言葉をぶつけた後、服を着てホテルを後にした。
賑やかな街中、楽しそうに会話をしている人たちを目にするたび、心臓の脈が速くなる。
普通の人たちは形の見えない幸せも目に見える幸福もあるのに、自分には何もない。この格差って一体誰が作った物なんだろう。
「君、今一人?」
「知らない」
それだけ吐き捨てるとまた歩き出す。
行く当てなんて何処にもないけど、ただ一人になれる場所を求めてひたすら歩き続けた。
路地裏に入り一つの扉が目に付いた。
「非常口....隙間がある」
隙間に指を入れると、ゆっくりと重たい扉を開き中へ入っていく。
人気がなく凄く不気味な雰囲気だけがそこには漂っていた。
「はあ、少し怖いかも」
勇気を出して歩みを進める。自分の足音だけが響き渡る空間がもう気持ち悪くて、早く外に出たくなる。
屋上に着き辺り一面を見渡した。
「綺麗だな。世の中ってこんなにキラキラしてたんだ。」
それでも、そこに居場所がない事に気づくと自然と涙が零れた。
「何の為に生きてるんだっけ」
死んだら、この綺麗な世界と一心同体になれる気がして、屋上から飛び降りる事にした。
あと一歩踏み出したら落ちるところまで足を持って行った。
「私の人生って何だったの?死ぬ為にあったの?」
誰にも届かない声で今までの人生を嘆き悲しむ姿は、凄く滑稽かもしれない。それでも、私の心が声を上げたがっていた。
そして、私は体を委ねて夜に溶け込もうとした。
その瞬間、誰かに思いっきり手を引っ張られそのまま私は意識を手放した。