外は、土砂降りの雨だった。
まるで、今の俺の気持ちのよう。
なんてことを考えながら、俺は渋々体を起こす。
時計を見ると、まだ5時半だった。
早すぎた。
二度寝するか?
いや、そうすると逆に遅刻してしまう。
仕方ない。
大きなため息をつき、布団を身体から引っ剥がす。
シャワーを浴びようと、階段を降りて1階へ向かう。
足音が、怒っている。
当然か…。
あんなことを、言われたんだから。
でも、断るわけにはいかなかった。
断れなかった。
そんな、優柔不断な自分に嫌気が差す。
ネガティブな思考を振り払うように、冷たい水を頭から浴びる。
「寒っ…!」
思わず叫んでいた。
いつの間にか洗面所にいた姉が、
「うっさい」
と言ってくる。
朝ご飯を食べ、家を出ても、空は晴れなかった。
いつの間にか、雨が止んでいたことだけが救いか。
それでも、どんよりとした曇り空を見ると、不思議と心も重くなる。
イライラする。
いつまでも、この6文字が頭の中を走り回っている。
「あー。イライラする。」
声に出しては駄目だとわかっていても、つい言ってしまう。
悪い癖だ。
よく、夜空に直せって言われたっけ。
ふと思いついてスマホを見てみると、おびただしい量の通知が来ていた。
内訳は男子のグループトークと…アイツか。
『おはよっ☆今日、日向くん部活なかったよね?一緒に帰ろっ!!』
『昇降口で待ってるね♡』
語尾のハート、そしてキモかわとか言われているキャラクターのスタンプを見て気分が悪くなった。
返信はしないで、グループトークの方に適当に返信を入れておく。
「はぁ。早く、終わんねえかなぁ。」
事の発端は1週間前。
俺は、その時付き合っていた姫川夜空に呼び出された。
話の内容は、嫌いな元知り合いが来るので、ソイツの彼氏になって自分とは不仲を演じてほしいとのこと。
当然、最初は拒否した。
でも、成功報酬と上目遣いに負け…了承してしまった。
早速後悔が止まらないが、成功しなければ報酬はもらえない。
仕方がない…やるか。
俺は、夜空との不仲を演じるために彼女に近づいた。
ついでに、聞きたいことも聞いておく。
彼女に了解を取ってるとはいえ、心が痛む。
こんなこと、言いたいんじゃないのに。
こんな言い方、したくないのに。
彼女と別れ、教室に付くと、新しいメッセージが来ていた。
差出人は…Night。
夜空のアカウント名だ。
すぐにトークルームを開き、内容を確認する。
『やっほー。元気?あんまし元気じゃなさそうだけどwほんっと日向って私のこと大好きだよね?まぁ、このまま上手くやってくれたまえ。』
変なキャラクターのスタンプもついてくる。
そんなものまで愛おしいと思ってしまう。
アイツとはずいぶんな差だ。
やっぱり、夜空とアイツを同じ熱量で扱うことはできない。
相変わらず手のひらで転がされてるな、と思いつつ、
『うっせえ。』
と返信した。
ふと、なぜ夜空はアイツのことをあれほどまでに嫌っているのだろう…と疑問に思った。
今度、聞いてみるか。
事態が急展開したのはそれから3日後のこと。
夜空から来た
『これから決行。』
のメッセージを見て、全てを悟った。
打ち合わせ通り、人気のない校舎裏へ向かう。
そこには、夜空と…アイツがいた。
何かを言い争っていた。
内容は…
「あのねぇ。私の前世を暴いたところで何かが変わる??どうせ、アンタみたいな根暗の言うことなんて、誰も信じないでしょ。それに、証拠がある?私が、元陰キャだっていう証拠が。ないでしょ?なら、みんな今の私を見て判断する。つまり、アンタは可愛いカースト上位の女の子にいちゃもんつけたカースト最下位ヤローになんだよ!わかったか、ブス!!」
「はぁ?ふざけんなよ。」
そう言って駆け寄ろうとしたとき。
夜空が、メガネを外した。
つけていた偽の前髪も外す。
手で擦ると、汚く見えた肌もきれいになる。
夜空いわく、特殊メイクだそうだ。
アイツが夜空の美しさに言葉を失う。
当然だ。
アイツがこの学校の仮初、ハリボテの女王だとしたら。
彼女はこの学校の、この世界の真の女王。
真の支配者なのだから。
きれいな唇から、言葉が紡がれていく。
「ねぇ。覚えてる?小さい頃、隣に住んでた『てんちゃん』だよ。私、ちゃんと天川って言ったのに、ずーっと『てんちゃん』って呼んでたね。よく、お姫様の召使い役、させてくれたよね?あの時のお礼、しないといけないと思ってたんだ。『みしずん』ちゃん。」
アイツは、真っ青な顔をして硬直している。
振り返って逃げようとすると、俺と視線が交差した。
「ね、ねぇ。日向くん?助けに、来てくれたんだよね。ありがとぉー。あ、あの子を、夜空を、どうにかして。ねぇ、お願い。カレシでしょう?」
ふざけるな。
「どうにかするのはお前だ。」
「夜空。まだコイツに付き合わないといけないのか?」
「もういいわ。あの子のあんな顔が見れただけで、十分だもの。」
クスクスと笑っている。
「でも、あなたをこの学校に通わせるわけにはいかないわ。ご両親の仕事はどうにかするから、一刻も早くこの街から出て行きなさい。」
「ふ、ふざけないでよ!こっちには、あんたらみたいなのよりもマトモな味方がいるんだから!ねぇ!?海漣、桃葉!!」
「はぁ。ほんっと呆れた。私達が本気でアンタを持ち上げてると思ってた?」
「ほんとほんと。海漣の言うとおり。この学校の女王は夜空。学校中で夜空に協力してただけだからね。」
「なんで…なんで!?なんで、こんな陰キャをみんな庇うの!?私のほうが可愛いのに!!」
「教えてあげる。アンタはね、心が汚いの。夜空はもともと、そこまで可愛くなかったのよ。それを日向のために頑張って、可愛くなったの。それを大勢見守ってたわ。」
「みんな、夜空がとっても優しい女の子だってわかってる。なのに、急にこんなこと言い出したのには驚いた。でも、夜空が言うんだからよほどの事情があるに違いないの。だから、海漣も私も、学校中が夜空に協力してるの。」
アイツは、学校の外へと逃げ出した。
「うっっさいわね!ブスはブス同士仲良くしてればいいんじゃない!?」
負け犬の遠吠えを残して。
「こ、怖かったよぉー。」
すっかりいつも通りになった夜空が、海漣や桃葉に頭を撫でられている。
このために、ツンデレキャラの第二人格まで作り上げていたというのだから、驚いた。
通りでほんわかキャラがクール系に豹変していた訳だ。
あのクール系の夜空も良かったけど…やっぱりこっちのほうが可愛い。
そんなことを考えていると、突然夜空が空を指さした。
「あっ虹!!」
思わずそっちの方向を見ると、頬に柔らかい何かが触れた。
夜空の、唇が。
赤くなっていると、夜空はもっと真っ赤だった。
空は、きれいな茜色に染まっていた。
まるで、今の俺の気持ちのよう。
なんてことを考えながら、俺は渋々体を起こす。
時計を見ると、まだ5時半だった。
早すぎた。
二度寝するか?
いや、そうすると逆に遅刻してしまう。
仕方ない。
大きなため息をつき、布団を身体から引っ剥がす。
シャワーを浴びようと、階段を降りて1階へ向かう。
足音が、怒っている。
当然か…。
あんなことを、言われたんだから。
でも、断るわけにはいかなかった。
断れなかった。
そんな、優柔不断な自分に嫌気が差す。
ネガティブな思考を振り払うように、冷たい水を頭から浴びる。
「寒っ…!」
思わず叫んでいた。
いつの間にか洗面所にいた姉が、
「うっさい」
と言ってくる。
朝ご飯を食べ、家を出ても、空は晴れなかった。
いつの間にか、雨が止んでいたことだけが救いか。
それでも、どんよりとした曇り空を見ると、不思議と心も重くなる。
イライラする。
いつまでも、この6文字が頭の中を走り回っている。
「あー。イライラする。」
声に出しては駄目だとわかっていても、つい言ってしまう。
悪い癖だ。
よく、夜空に直せって言われたっけ。
ふと思いついてスマホを見てみると、おびただしい量の通知が来ていた。
内訳は男子のグループトークと…アイツか。
『おはよっ☆今日、日向くん部活なかったよね?一緒に帰ろっ!!』
『昇降口で待ってるね♡』
語尾のハート、そしてキモかわとか言われているキャラクターのスタンプを見て気分が悪くなった。
返信はしないで、グループトークの方に適当に返信を入れておく。
「はぁ。早く、終わんねえかなぁ。」
事の発端は1週間前。
俺は、その時付き合っていた姫川夜空に呼び出された。
話の内容は、嫌いな元知り合いが来るので、ソイツの彼氏になって自分とは不仲を演じてほしいとのこと。
当然、最初は拒否した。
でも、成功報酬と上目遣いに負け…了承してしまった。
早速後悔が止まらないが、成功しなければ報酬はもらえない。
仕方がない…やるか。
俺は、夜空との不仲を演じるために彼女に近づいた。
ついでに、聞きたいことも聞いておく。
彼女に了解を取ってるとはいえ、心が痛む。
こんなこと、言いたいんじゃないのに。
こんな言い方、したくないのに。
彼女と別れ、教室に付くと、新しいメッセージが来ていた。
差出人は…Night。
夜空のアカウント名だ。
すぐにトークルームを開き、内容を確認する。
『やっほー。元気?あんまし元気じゃなさそうだけどwほんっと日向って私のこと大好きだよね?まぁ、このまま上手くやってくれたまえ。』
変なキャラクターのスタンプもついてくる。
そんなものまで愛おしいと思ってしまう。
アイツとはずいぶんな差だ。
やっぱり、夜空とアイツを同じ熱量で扱うことはできない。
相変わらず手のひらで転がされてるな、と思いつつ、
『うっせえ。』
と返信した。
ふと、なぜ夜空はアイツのことをあれほどまでに嫌っているのだろう…と疑問に思った。
今度、聞いてみるか。
事態が急展開したのはそれから3日後のこと。
夜空から来た
『これから決行。』
のメッセージを見て、全てを悟った。
打ち合わせ通り、人気のない校舎裏へ向かう。
そこには、夜空と…アイツがいた。
何かを言い争っていた。
内容は…
「あのねぇ。私の前世を暴いたところで何かが変わる??どうせ、アンタみたいな根暗の言うことなんて、誰も信じないでしょ。それに、証拠がある?私が、元陰キャだっていう証拠が。ないでしょ?なら、みんな今の私を見て判断する。つまり、アンタは可愛いカースト上位の女の子にいちゃもんつけたカースト最下位ヤローになんだよ!わかったか、ブス!!」
「はぁ?ふざけんなよ。」
そう言って駆け寄ろうとしたとき。
夜空が、メガネを外した。
つけていた偽の前髪も外す。
手で擦ると、汚く見えた肌もきれいになる。
夜空いわく、特殊メイクだそうだ。
アイツが夜空の美しさに言葉を失う。
当然だ。
アイツがこの学校の仮初、ハリボテの女王だとしたら。
彼女はこの学校の、この世界の真の女王。
真の支配者なのだから。
きれいな唇から、言葉が紡がれていく。
「ねぇ。覚えてる?小さい頃、隣に住んでた『てんちゃん』だよ。私、ちゃんと天川って言ったのに、ずーっと『てんちゃん』って呼んでたね。よく、お姫様の召使い役、させてくれたよね?あの時のお礼、しないといけないと思ってたんだ。『みしずん』ちゃん。」
アイツは、真っ青な顔をして硬直している。
振り返って逃げようとすると、俺と視線が交差した。
「ね、ねぇ。日向くん?助けに、来てくれたんだよね。ありがとぉー。あ、あの子を、夜空を、どうにかして。ねぇ、お願い。カレシでしょう?」
ふざけるな。
「どうにかするのはお前だ。」
「夜空。まだコイツに付き合わないといけないのか?」
「もういいわ。あの子のあんな顔が見れただけで、十分だもの。」
クスクスと笑っている。
「でも、あなたをこの学校に通わせるわけにはいかないわ。ご両親の仕事はどうにかするから、一刻も早くこの街から出て行きなさい。」
「ふ、ふざけないでよ!こっちには、あんたらみたいなのよりもマトモな味方がいるんだから!ねぇ!?海漣、桃葉!!」
「はぁ。ほんっと呆れた。私達が本気でアンタを持ち上げてると思ってた?」
「ほんとほんと。海漣の言うとおり。この学校の女王は夜空。学校中で夜空に協力してただけだからね。」
「なんで…なんで!?なんで、こんな陰キャをみんな庇うの!?私のほうが可愛いのに!!」
「教えてあげる。アンタはね、心が汚いの。夜空はもともと、そこまで可愛くなかったのよ。それを日向のために頑張って、可愛くなったの。それを大勢見守ってたわ。」
「みんな、夜空がとっても優しい女の子だってわかってる。なのに、急にこんなこと言い出したのには驚いた。でも、夜空が言うんだからよほどの事情があるに違いないの。だから、海漣も私も、学校中が夜空に協力してるの。」
アイツは、学校の外へと逃げ出した。
「うっっさいわね!ブスはブス同士仲良くしてればいいんじゃない!?」
負け犬の遠吠えを残して。
「こ、怖かったよぉー。」
すっかりいつも通りになった夜空が、海漣や桃葉に頭を撫でられている。
このために、ツンデレキャラの第二人格まで作り上げていたというのだから、驚いた。
通りでほんわかキャラがクール系に豹変していた訳だ。
あのクール系の夜空も良かったけど…やっぱりこっちのほうが可愛い。
そんなことを考えていると、突然夜空が空を指さした。
「あっ虹!!」
思わずそっちの方向を見ると、頬に柔らかい何かが触れた。
夜空の、唇が。
赤くなっていると、夜空はもっと真っ赤だった。
空は、きれいな茜色に染まっていた。