レイの手を取り、ロゼッタは全速力で走り、いつの間にかゴブリンの住処から抜け出して、2人は河原へとついていた。
 ロゼッタは息が切れて、新鮮な空気を求めて忙しなく肩が上下している。

ロゼッタ「はぁはぁ……」

 そんなロゼッタの側には冷静さを取り戻したレイが申し訳なさそうに佇んでいた。

ロゼッタ「もー気をつけてよ、レイ」
レイ「……」
ロゼッタ「魔王倒す前に私達が死刑になっちゃうとこだったじゃない」
ロゼッタ(ホント……危ない、危ない。人間同士の殺し合いは固く禁じられてる。何故なら魔族を倒す同士だから……。人間同士がいがみ合い、争うということは人間達にとって仲間を減らすデメリットしかないどころか、魔族達に絶好のチャンスを与えるということ……。だって、魔族にとって倒すべき人間達が1人でも多くいなくなれば、その分、戦いが有利になるもの。それだけはあってはならない……。だから、厳しく国の掟として定められているんだ)
レイ「……ご、めっ……」

 レイの言葉を遮るように……ロゼッタが言葉を重ねる。

ロゼッタ「謝らないでっ!」
レイ「……ロゼッタ……」
ロゼッタ「レイがブチギレたのって、これ以上……私が傷つかないように……と、思ってのことでしょ?」
レイ「……っ……」
ロゼッタ「でも」
レイ「……?」
ロゼッタ「やりすぎっ!」
レイ「ごっ……」

 またもレイの言葉を遮るように……ロゼッタが言葉を重ねる。

ロゼッタ「謝らないでって言ったじゃん! ありがとうね、レイ」

 ロゼッタは満面の笑みを浮かべてルイを見つめる。
 レイはどうしたらいいのか分からず、戸惑いの表情を浮かべていた。

パチパチ……。

 不意に拍手の音が響き、ロゼッタとレイは辺りを注意深く見回す。

リチャード「素晴らしいっ!」

 木の陰からリチャードがゆっくりと姿を現して、ロゼッタとレイ元へと向かう。
 リチャードの姿を目にとらえた途端、レイはロゼッタを背中に庇う。

レイ「ーーっ!!」
ロゼッタ「あっ! あんた!!」
リチャード「あぁ……なんて素晴らしいんだ。感動した!!」

 大粒の涙を流すリチャードの姿にロゼッタとレイは困惑する。

リチャード「姫の人を大切に想う気持ち……とても素敵です!! 僕も姫にそう想われたい……」

 リチャードはレイの目の前で片膝をつき、(こうべ)を垂れ、ロゼッタとレイはびっくりする。

リチャード「先程のご無礼をお許し下さい。そして、僕を仲間として受け入れてもらえませんか?」

 レイの背にいたロゼッタが前へと進み出て、不機嫌な声をあげる。

ロゼッタ「はぁ!? 何言ってんのよ、あんた!」
レイ「ロゼ!」

 レイの叱咤に、ロゼットはハッとして、口を(つぐ)む。

レイ「あなた程の銃の使い手ならば、仲間に引き入れたいと言う人は後を立たないはずです。私達にこだわらなくても……」
リチャード「先程も申しましたが、姫の人を想う気持ちに惚れたのです。ですから、僕を仲間として受け入れて下さい。お願いします!」
ロゼッタ「イヤだ」
リチャード「そう言わず……」
ロゼッタ「イヤだ」

 『仲間に入れてほしい』『イヤだ』の押し問答を繰り返すリチャードとロゼッタに対してレイが口を挟む。

レイ「分かりました。仲間として受け入れましょう」
リチャード「ーーっ!!」
ロゼッタ「はぁ、なんでよっ!?」
リチャード「ありがとう……。ありがとうございます、姫!」

 嬉しさのあまりリチャードは喜びの舞を踊り出す。

ロゼッタ「み、認めない! 認めないんだからっ!!」
レイ「ロゼ……」
ロゼッタ「だって、あいつ私のことを……」
レイ「貴方が怒るのも認めたくない気持ちも分かります。私だって、先程の貴方に対する振る舞いを完全に許したわけではないのですよ」
ロゼッタ「じゃ、なんで?」
レイ「この先……魔王を討伐するのであれば、より強い仲間がいた方が有利にことを進めることが出来ると思ったのです。貴方の願いを確実に叶えることを考えれば、そうするのが良いかと……」

 レイの考えを聞いて、ロゼッタはしばし考え込む。

ロゼッタ「……分かった」

 レイは喜びの舞を踊り続けるリチャードに声をかける。

レイ「ただし、仲間として受け入れるには条件があります」

 レイの言葉にリチャードはピタッと踊るのをやめて、再びレイの前に片膝をつく。

リチャード「……条件とは?」
レイ「今後、ロゼに対して無礼な行ないは一切しないで下さい」
リチャード「それはもちろん!」
レイ「あ、とは……私のことを『姫』と呼ばないで下さい。私、姫ではないので」
リチャード「何を言ってるんですか! 生まれた時から女性は『姫』で、男性は『王子』なのですよ」
ロゼッタ「はぁ?」
レイ「……っ……」

 ロゼッタはレイの肩を抱き、素早くリチャードに背を向けて、こそっと耳打ちする。

ロゼッタ「ヤバい、あいつ超ヤバじゃん! やっぱ、やめよう。仲間に入れるの!」
レイ「……」

 レイは無言で頷き、リチャードに向き直る。

レイ「や、やっぱ……」
リチャード「僕がしっかりとお守りしますからね、姫!」

 リチャードは片膝をついたまま、レイの手を両手で握りしめて、瞳を輝かせながら誓うのであったーー……。