パンッ!!

 1つの銃声音をきっかけにバタバタと倒れていくゴブリン達にロゼッタとレイは目を見開き、驚く……。

ロゼッタ(……な、にが、起きたの……?)

 ロゼッタとレイが状況を理解するよりも早く、いつの間にか背の高い美青年ーリチャードが2人の側にいて、レイの手を取り、熱い眼差しで見つめていた。

リチャード「お怪我は?」
レイ「えっ……」

 リチャードの声かけにレイは戸惑う……。
 ロゼッタは何が何だか分からぬ状態で目の前の光景をただ見ていることしか出来ずにいた……。
 
リチャード「お怪我はありませんか? 姫」
レイ「ーーっ!?」
ロゼッタ「ひっ、ひめっ!?」

 リチャードの言葉を聞いてレイは絶句し、ロゼッタは声をあげるもリチャードにはロゼッタの声は耳に届いておらず、そればかりか存在すら認識していない。

リチャード「あぁ……可哀想に……声も出せないほど怖い思いをされたのですね」

 そっと、リチャードはレイのことを優しく抱きしめる。

レイ「ーーっ!?」
ロゼッタ「ーーっ!?」
リチャード「大丈夫……大丈夫ですから……」

 リチャードはレイを片手で抱きしめ、もう一方の手でレイの頭を撫でながら、優しく話し続ける。

リチャード「安心して下さい。僕がいます。僕が姫のことをお守りしますから!」
レイ「あっ……の! ちょっ……」

 レイはなんとかリチャードの腕の中から抜け出そうともがく。

リチャード「はははっ……。僕に抱きしめられて照れているのですね」
レイ「て……れて、なんかっ……」
レイ(な、んだよ……全然振り払われねぇ……。どんな力してんだよっ!)
リチャード「なんとも可愛らしい姫だ」

 リチャードの耳にレイの言葉は届いておらず、リチャードはさらに力強くレイを抱きしめる。

レイ「ちょっ、は……は、なし……」
ロゼッタ「離しなさいよっ!」
リチャード「……?」
ロゼッタ「離しなさいよって言ってんのっ! 聞こえないの!?」

 ロゼッタは声を張り上げると共にリチャードの肩とレイの肩をそれぞれ掴み、2人を離そうとする。
 リチャードはゆっくりと声のした方へと視線を向ける。その顔は不快感を露わにしていた……。

リチャード「……なんだい?」
ロゼッタ「だから、さっきから言ってんじゃん! 離しなさいよって!!」
リチャード「何故、君にそんなことを言われなきゃならないんだ?」
ロゼッタ「あんたが抱きしめてる子の仲間なのっ!」
リチャード「な、かま……き……君が?」

 リチャードの問いかけにロゼッタは大きく頷くと同時にリチャードが突然、大きな声で笑い出す。

リチャード「(笑い声)あーははっ……」
ロゼッタ(えっ、なに、コイツ……)
リチャード「あー可笑しい……」
ロゼッタ「お、かしい……?」
ロゼッタ(一体何が可笑しいっていうの……?)
リチャード「あぁ、そうさ。き、みが……姫の仲間……だって……? (笑い声)あーはははっ……可笑しくてたまらないよっ! 大量とはいえゴブリンさえまともに倒せずに危機的状況に陥り、挙句の果てに姫を危険にさらしていた者がよく『仲間』だなんて言えるね。僕なら恥ずかしくて……とてもじゃないけど言えない」

 リチャードの言葉に図星を指されたロゼッタは唇を噛み、レイの心情は穏やかではなくなる……。

リチャード「そもそも己の実力を全く知らぬ者がっ……」

 意気揚々と話をしていたリチャードの言葉が不意に途切れる。

リチャード「……ひ……め……?」

 いつの間にかレイはリチャードの腕の中から抜け出して、杖の先をリチャードの喉元に突きつけて、鋭く冷ややかな瞳を向け、言葉を放つ。

レイ「助けてくれたことには感謝します。けれど、これ以上ロゼを侮辱するのであれば……」

 杖の先がリチャードの首元にゆっくりと押し当てられてゆく……。
 リチャードはレイから目をそらすことなく見つめ続け、ロゼッタはレイが冷静さを失っていることに気がつき、慌ててレイの名前を叫ぶ。

ロゼッタ「レイ!」
ロゼッタ(や、やばっ! 完全に()がいっちゃってるよ〜)
レイ「……」

 ロゼッタに名前を呼ばれても返事をしないレイに対してロゼッタは取り返しのつかないことになる前に離れなきゃ!と、焦る。

ロゼッタ「ホント助けてくれてありがとう! じゃぁ!!」

 ロゼッタはレイの手を取り、ものすごい勢いで駆け出す。

リチャード「……」

 リチャードは呆然とその場に立ち尽くし、瞬く間に小さくなってゆくロゼッタとレイの背中をしばらく見つめた後……口元を緩める。

リチャード「(笑い声)ふふっ……」

 リチャードは意味深な笑みを浮かべるのであったーー……。