しばらく眺めていると光がさらに強くなって、二つの素材が粒子になり錬成板に吸収された。
中心の円に置かれたフラスコから湧き出るようにして青い水が出て、エーテル純水と同じぐらいの量に到達すると、錬成反応の光は完全に消える。
「エーテルの含有量100の回復ポーションの完成だが、これには問題が一つある。含有量60の最高級回復ポーションと同じ効果しか発揮しないのだ」
エーテルが最大まで含まれていても、回復ポーションであればそれ以上のものは作れない。エリクシルにはならいのだ。
錬成結果は素材で決まる。そういうことなんだろう。
「このまま使うのはもったいない。純水を入れて希釈するぞ」
錬成作業が始まる前からルタスの背に登って覗いていたのだが、引き剥がされて床に置かれてしまった。どうやら邪魔だったみたいだ。
作業を眺めているとフラスコに入っている回復ポーションを鍋に入れた。続いて竈みたいな所に薪、おが屑を入れて手を近づける。
何をする気だ?
注意深く見ていると、指先からバチッと火花が出て着火した。
手品じゃなければ魔法だ。
「これは初級火魔法のイグニッションだ。火を付けるときに使うから後で教えてやる」
相変わらず雑な説明だな。振り返ることなく作業を進めているルタスは、どでかいフラスコをもってくる。錬成板と同じような謎の文字と模様がガラスに刻み込まれていて、これもまた特殊な道具だというのが見て分かった。中には水が入っていて何かに使うのだろう。
火で暖まった鉄板の上にフラスコを置くと、ルタスは分厚い生地で作られた耐熱性手袋を着けた。模様が描かれてないので、これは特殊な物じゃなさそうだ。
しばらくして水が沸騰する。黒い蒸気が出てきた。普通は白っぽいはずなんだけど……有毒ガスが出てるんじゃないかって心配になってしまう。
「水には様々な不純物が含まれていて、俺たち錬金術師は純化フラスコ使い何も混ざってない水――純水を作り出す作業をする。黒い煙が白くなったら純水になった証拠だ。さらに沸騰を続けてしまうと火の元素を取り込んで別の物質になるからタイミングは重要だ。余所見するなよ」
一気に説明されて頭はパンクしそうだが、錬金術師になるのであればしっかりと覚えなければいけない。俺も父親と一緒に見守る。
時間にして十五分ぐらいだろうか。ついに煙が白くなった。すぐさまフラスコをキッチンから離すとコルクの蓋をする。
密閉されたことで不純物が入らないようにしたのだろう。
「これで純水は完成した。少し冷ましたら回復ポーションを希釈する」
フラスコを持ちながら、ルタスは作業台の近くにあるエーテル測定器を空いている手で握った。
熱を冷ましてから先ほど作った純水を、回復ポーションが入っている鍋に入れていく。エーテル測定器を近づけると、100だったメーターが、95、90、85と減って、ちょうど60になったところで注ぐのを止めた。
回復ポーションは鍋から溢れそうなほどある。
「最高級の回復ポーションが完成した」
これが錬金術か。すばらしい。胸がドキドキしていて興奮している。質問したいことが湯水のように湧き出てくるが、ルタスのことだから面倒になって全部を答えることなんてしないだろう。重要なこと、それを一つ聞くことにした。
「錬金術でゴーレムも作れる?」
「当然だ。魔法生物、ホムンクルスも可能だぞ」
孤独だった前世は動かないフィギュアを友達代わりにしていたが、この世界では本当の友人にできるかもしれない。その道のりが困難だとしても可能性があるというのが重要だった。
こみ上げてくる嬉しさは止められず、どうしても頬が緩んでしまう。だからだろうか、ルタスの目は厳しい。
「だが、人体を材料に錬金するのは禁忌とされている。絶対に手を出すなよ」
「禁忌……理由は?」
「そのぐらい自分で考えろ。無駄話は終わりだ」
相変わらず自分勝手な男だ。説明が面倒になったみたいで放棄しやがった。
「作った回復ポーションを保存と硬質化の魔法が付与された瓶に入れていくぞ。手伝え」
「うん」
何を言っても考えを変えないと思うので今は素直に従うことにした。
細長いガラス管が沢山入った箱が目の前に置かれた。おたまで鍋からガラス管へ移していく。限界ギリギリまで入れたらコルクで蓋をして完了だ。
これを百回繰り返すが、それでも終わらない。
作業の途中でルタスは寝室に入って寝てしまったので、夜になるまで一人で作業をすることになった。やはりあの父親は子育てに向いてない。
その日の夜。
壺の中に入れられた。いつもだとすぐ眠くなるけど、今日は違う。興奮して目が覚めていた。
回復ポーション作りには大きな衝撃を受けた。魔法という超常現象がある世界だと錬金術はここまで大きく変わるのか。夢のような世界だ。
前世は体が思うように動かずフィギュアはあまり作れなかったけど、二度目の人生で健康な体を手に入れた。ようやく全力を出して頑張れる。
錬金術師として最強の回復薬であるエリクシルの他、賢者の石、ミスリル銀、作りたい物は色々とあるけど、でもやっぱり相棒みたいなものが欲しいな。友達すらいなかったので、側にいてくれる存在というのに憧れているんだ。
この世界にはゴーレム、魔法生物、ホムンクルス、そういった疑似生命体があるというのはルタスの説明から判明してる。作れないということはないだろう。
友人のように楽しくおしゃべりをして一緒に成長し、そして最期を看取って欲しい。
うん、意外と悪くない願いだ。
フィギュア作りの経験も活かせそうだだし、今度こそ自分の生きた証というのが残せそうだと思っていた。
中心の円に置かれたフラスコから湧き出るようにして青い水が出て、エーテル純水と同じぐらいの量に到達すると、錬成反応の光は完全に消える。
「エーテルの含有量100の回復ポーションの完成だが、これには問題が一つある。含有量60の最高級回復ポーションと同じ効果しか発揮しないのだ」
エーテルが最大まで含まれていても、回復ポーションであればそれ以上のものは作れない。エリクシルにはならいのだ。
錬成結果は素材で決まる。そういうことなんだろう。
「このまま使うのはもったいない。純水を入れて希釈するぞ」
錬成作業が始まる前からルタスの背に登って覗いていたのだが、引き剥がされて床に置かれてしまった。どうやら邪魔だったみたいだ。
作業を眺めているとフラスコに入っている回復ポーションを鍋に入れた。続いて竈みたいな所に薪、おが屑を入れて手を近づける。
何をする気だ?
注意深く見ていると、指先からバチッと火花が出て着火した。
手品じゃなければ魔法だ。
「これは初級火魔法のイグニッションだ。火を付けるときに使うから後で教えてやる」
相変わらず雑な説明だな。振り返ることなく作業を進めているルタスは、どでかいフラスコをもってくる。錬成板と同じような謎の文字と模様がガラスに刻み込まれていて、これもまた特殊な道具だというのが見て分かった。中には水が入っていて何かに使うのだろう。
火で暖まった鉄板の上にフラスコを置くと、ルタスは分厚い生地で作られた耐熱性手袋を着けた。模様が描かれてないので、これは特殊な物じゃなさそうだ。
しばらくして水が沸騰する。黒い蒸気が出てきた。普通は白っぽいはずなんだけど……有毒ガスが出てるんじゃないかって心配になってしまう。
「水には様々な不純物が含まれていて、俺たち錬金術師は純化フラスコ使い何も混ざってない水――純水を作り出す作業をする。黒い煙が白くなったら純水になった証拠だ。さらに沸騰を続けてしまうと火の元素を取り込んで別の物質になるからタイミングは重要だ。余所見するなよ」
一気に説明されて頭はパンクしそうだが、錬金術師になるのであればしっかりと覚えなければいけない。俺も父親と一緒に見守る。
時間にして十五分ぐらいだろうか。ついに煙が白くなった。すぐさまフラスコをキッチンから離すとコルクの蓋をする。
密閉されたことで不純物が入らないようにしたのだろう。
「これで純水は完成した。少し冷ましたら回復ポーションを希釈する」
フラスコを持ちながら、ルタスは作業台の近くにあるエーテル測定器を空いている手で握った。
熱を冷ましてから先ほど作った純水を、回復ポーションが入っている鍋に入れていく。エーテル測定器を近づけると、100だったメーターが、95、90、85と減って、ちょうど60になったところで注ぐのを止めた。
回復ポーションは鍋から溢れそうなほどある。
「最高級の回復ポーションが完成した」
これが錬金術か。すばらしい。胸がドキドキしていて興奮している。質問したいことが湯水のように湧き出てくるが、ルタスのことだから面倒になって全部を答えることなんてしないだろう。重要なこと、それを一つ聞くことにした。
「錬金術でゴーレムも作れる?」
「当然だ。魔法生物、ホムンクルスも可能だぞ」
孤独だった前世は動かないフィギュアを友達代わりにしていたが、この世界では本当の友人にできるかもしれない。その道のりが困難だとしても可能性があるというのが重要だった。
こみ上げてくる嬉しさは止められず、どうしても頬が緩んでしまう。だからだろうか、ルタスの目は厳しい。
「だが、人体を材料に錬金するのは禁忌とされている。絶対に手を出すなよ」
「禁忌……理由は?」
「そのぐらい自分で考えろ。無駄話は終わりだ」
相変わらず自分勝手な男だ。説明が面倒になったみたいで放棄しやがった。
「作った回復ポーションを保存と硬質化の魔法が付与された瓶に入れていくぞ。手伝え」
「うん」
何を言っても考えを変えないと思うので今は素直に従うことにした。
細長いガラス管が沢山入った箱が目の前に置かれた。おたまで鍋からガラス管へ移していく。限界ギリギリまで入れたらコルクで蓋をして完了だ。
これを百回繰り返すが、それでも終わらない。
作業の途中でルタスは寝室に入って寝てしまったので、夜になるまで一人で作業をすることになった。やはりあの父親は子育てに向いてない。
その日の夜。
壺の中に入れられた。いつもだとすぐ眠くなるけど、今日は違う。興奮して目が覚めていた。
回復ポーション作りには大きな衝撃を受けた。魔法という超常現象がある世界だと錬金術はここまで大きく変わるのか。夢のような世界だ。
前世は体が思うように動かずフィギュアはあまり作れなかったけど、二度目の人生で健康な体を手に入れた。ようやく全力を出して頑張れる。
錬金術師として最強の回復薬であるエリクシルの他、賢者の石、ミスリル銀、作りたい物は色々とあるけど、でもやっぱり相棒みたいなものが欲しいな。友達すらいなかったので、側にいてくれる存在というのに憧れているんだ。
この世界にはゴーレム、魔法生物、ホムンクルス、そういった疑似生命体があるというのはルタスの説明から判明してる。作れないということはないだろう。
友人のように楽しくおしゃべりをして一緒に成長し、そして最期を看取って欲しい。
うん、意外と悪くない願いだ。
フィギュア作りの経験も活かせそうだだし、今度こそ自分の生きた証というのが残せそうだと思っていた。