「エルフやこの国について教えてもらえないか?」

 俺の居る場所がなんなのか。少しでも情報が知りたいと思い聞いてみた。

「教えても良いけど、今度ルーベルト君のことも教えてくれる?」
「いいけど面白くないよ」
「そんなことないって」

 手をつなぎながら笑っている。何が楽しいのだろうか。まったく想像できないが悪い気分ではなかった。

 もし前世も友達がいたら、こんな風に何気ない会話をして毎日を過ごしていたのだろうか。きっと楽しかったんだろうなぁ。

「まずは私からね。エルフは成長がすごく遅くて長寿なんだよ。精霊や妖精に近いと言われていて、エーテルの濃い場所じゃないと本来の力が発揮できない種族なの。町に出たら息苦しく感じるし、だから皆この森に住んでいるんだよ。知ってた?」
「初めて聞いた」

 辺鄙な場所に国を作っている理由がエーテルなのか。

 錬金術だけじゃなくエルフにとっても重要な元素なんだな。

「そっか。じゃあ、私たちが他の種族に狙われているっても知らないんだよね」

 首を縦に振った。

 これはエルフだけじゃなく森に住んでいる俺にも関わる話だ。詳しく知りたい。

「なんで狙われているの?」
「エーテルの濃い場所は貴重な薬草が採取できるし、ミスリル銀も手に入る。それに錬金術をする場所としても向いているんだ。ルーベルト君だって、そのぐらいはわかっているよね」
「もちろん」

 錬金術をする上で、エーテルという存在は切っても切り離せない。より良い物を錬成しようとするなら、この森は最適だ。

 土地を狙う理由になるだろう。

「後は私たちって他種族から見ると美しいみたいだから、高く売れるんだって」

 ためらいがちに言ったのは恥ずかしかったからだろう。

 長い耳がほんのりと赤い。感情が分かりやすいな。

「敵が多いんだ」
「うん。毎年、数十人は人間とかに殺されているし、攫われている。だから私たちって閉鎖的なんだよね」

 定期的に被害が出ているとは思わなかった。想像していたより被害は多く大きな問題みたいだ。

 エルフの状況はだいたい把握できたが、気になる点がある。

「ならどうして俺や父親は森の滞在を許されているんだ?」
「それは私たちが錬金術に向いてないからだよ。代わりにポーションや貴重な鉱石を錬成する人が必要なんだ」
「だから俺たちがいるのか。裏切ったらどうするんだ?」
「契約魔法を使ってるから大丈夫だよ。ルーベルト君も生まれてすぐに契約魔法を使われたんじゃないかな」

 記憶にはないがサリーの言うことなら確かなのだろう。

 契約魔法とは魂まで縛り、呪いの部類に入る。違反するようなことをすれば命を落とすらしい。使い手は必ず体内の魔力に生命属性とよばれるものを持ってなければいけないらしく、無属性である俺は長い魔法名を覚えたとしてもエーテルが願いを叶えてくれない。要は適性がないから使用不可の魔法というわけだ。

 ちなみに同様の理由で俺は上級以上の属性魔法も使えない。属性を持っていないとエーテルへ作用する力の限界があるのだ。

 これだと無属性はデメリットばかりに思えるかもしれないが、純粋なエーテルが扱えるため錬金術や付与術には向いていて、生産系の職人になるには無属性が良いとされているのだ。

「だから安心して一緒に行動できると。知らない間に俺も契約魔法をかけられていたのかぁ」
「嫌だった?」
「特に不便してないから嫌じゃないけど、どんな条件を入れられているかは気になる」

 知らずに違反して死ぬなんて目にはあいたくない。

「エルフを裏切るな、ぐらいじゃないかな? あまり細かいルールはないと思うよ」

 曖昧な条件でも契約できるのか。驚いた。

 細かい定義をしなくて済むなら抜け道は作りにくい。裏切ったと思えば発動するのだから、かけた本人、この場合はエルフにとって非常に有利な条件と言えるだろう。

 色々と抜けている父親ではあるが、このぐらいはわかって契約したはずだ。それでも受け入れたということは、エーテルが豊富なこの場所に住むメリットが上回ったのだろう。

「なら安心だな」
「うん。ルーベルト君は私を裏切らないもんね」
「もちろん」

 一度信じた相手であれば疑うことをしない。経験の浅い子供みたいな考えだけど嫌いじゃない。むしろ好意に応えてあげたいと思ってしまう。

 きっと初めての友達だからだろう。どうも未知なる感情に振り回されっぱなしだ。

「だよね。他にもエルフの国や世界樹について教えてあげたいんだけど……洞窟に着いちゃった。後でもいい?」

 目の前に穴の空いた大きな大木がある。横幅は大人が二人両手を開いも足りなさそうだ。背も非常に高く太陽の光を遮っているので、周辺には木がなくちょっとした広場になっていた。

 洞窟と聞いていたが、木の洞だったとは思わなかったな。

「意外と近かったな」
「他の種族に襲われるかもしれないから遠くには行けないんだよ」
「なるほど、ね」

 エルフの事情を聞いていたからすんなりと納得できた。

 森の外側に向かえば危険度は高まるだろうし、子供が外を歩くのであれば、ここら辺が限度なんだろう。

「この中に薬草があるから、探しに行こう」

 名残惜しそうに俺の手を離したサリーは洞の中へ入っていたので、俺も後を付いて進んでいく。

 不思議なことに周囲は明るかった。壁や床に発光するキノコが生えているのだ。柔らかい光で温かみを感じる。照明の類いが不要だった理由は判明したな。

 地面は土がむき出しになっていて植物は生えていない。太陽の光が届かないから当然だろう。

「本当に薬草があるのか?」
「うん。一番奥まで行くと群生地があるんだよ」

 並んで歩けるほど幅は広くないので、サリーは先に進みながら返事をした。

 何度か来たことがあるのだろう。自信たっぷりだ。控えめな性格をしている彼女が、あそこまで言い切るのであれば信じて問題ない。

 大きなカゴを背負っている姿を見ながら黙ってついていくことにした。