音質の悪いスピーカーから花火の上がる三十分前を告げるアナウンスが流れた。
 人通りが疎らだった道路も今では川沿いの方がごった返している。
 まだ花火は打ち上っていないのに、先程まで迷子や落とし物のお知らせ、パトカーのサイレンが鳴り渡っていた。
 子供の頃は花火なんてうるさいだけで興味も無かったのに、いつの間にか”見たい”に変わり、次第に”花火は見るべきもの”だと義務的な思考へ変わっていった。
 感受性豊かな子に育てられていたら僕も花火会場で迷子になれたのだろうか。と、そんな生産性のない事を考えていた時、どこか耳覚えのあるテーマ曲とタイトルコールがと聞こえてきた。
 『会場へお越しの皆さま、テレビの前でご覧んの皆さま、お近くにお住いの方々。こんばんは。ひばなラジオのパーソナリティ、堀川粒弥(ほりかわつぶや)です。この番組はーーー』
 突如として始まったラジオ番組。
 そういえばこの花火大会には”メッセージ花火”と言うものがあったな。
 プロポーズだったり、結婚や子供のお誕生祝い、長寿祈願、大切な人へのメッセージをお便りとして募集して花火の打上前にメッセージを読み上げる企画。
 リクエストによってはハート型だったり、星型だったり、スマイルマークの形をした花火を打ち上げて貰えたりする。
 未だに続いているという事は応募している人がまだ少なからず存在している事になる。
 作っているのは花火師だし読み上げるのは堀川なんとかさんだ。
 本当に伝えたいことがあるのなら、他人になど頼らず己の口で、言葉で、声で、伝えるべきだ。
 
 『それでは参りましょう、花火のひばなラジオ!改めましてこんばんは。ひばなラジオのパーソナリティ、堀川粒弥です。今年もーー』

 粒弥さんか。
 フリートークも終わり、本編のコーナーに移り変わった。
 ラジオ番組のMC歴が長いのか粒弥さんの会話は聞いていてとても楽しい。
 一方的に進め、視聴者を置いていくことも無く、かと言ってゆっくり過ぎて聴く側をいらだたせることも無い。
 フリートークでは粒弥さん本人が経験した出来事だったり友人から聞いた話だったりと、多種多様なテーマがあった。
 時には笑ったり、たまに怒ったり、少しうるッときたり、一瞬ぞわっとしたり、そしてまた笑ったり。
 文章読んでいるなど思いもしないような、全て彼のアドリブなのでと疑ってしまう程に”面白い”。
 
 『っと!フリートークもここまで!スタッフさんがカンペで早くコーナーしろって怒ってきました。怖いですねー。なので!そろそろお便りの方をご紹介していきましょう。ペンネーム匿名ーー』