……まだ眠くないな。普段寝るのは日付が変わる頃だったからまだ早い。
そうだな、ピナレラちゃんをぽんぽんしながら従兄弟の話の続きでもしようか。
叔父さんちには息子が二人で、早くに死んじまったのは俺と同い年の上の長男だ。
下の弟はふつうに生きてるはずだが叔父さんは離婚して元嫁の叔母さんが親権を取ったので、その後どうなったかわからない。ばあちゃんも心配してるんだが連絡を拒否されていると聞いた。
俺と同い年で、中学までは夏休みや冬休みにばあちゃんちにお互い家族で帰省してよく遊んでたっけ。
俺も従兄弟も御米田家の血が濃く出た黒髪と黒目、なかなか整った端正な顔立ちだ。性格はだいぶ違ったな。あっちはばあちゃん似でのんびりした奴だった。
お前も生きてたら、一緒に異世界転移してエンジョイしてたかもしれんのになあ。
めんこい幼女のいる優しいほうの異世界転移だ。飯も旨いし人も親切。ばあちゃんも家も一緒。あいつ絶対喜んだろうに。
ラノベ好きでよく読んでたっけ。遺品になっちまったお気に入りの文庫本は俺が形見分けで貰ってまだ持っている。
表紙イラストが中央に勇者、左手に賢者、右手に大魔道士がいる。俺たちが中学の頃ブームになったファンタジー物語だ。
立場は違えど友人同士の三人は、勇者の親の仇である共通の敵を倒すため、協力して旅に出る。オーソドックスな英雄の旅の物語だった。
シリーズ最強の大魔王が後に勇者たちのお師匠様になる胸熱展開や、そのお師匠様の少年時代のスピンオフが女の子たちの間で大人気になって手作りぬいぐるみの推し活がSNSのトレンドになったり。
モンスターが足の生えた魚類だったり(これもぬい化が流行った)、第二の魔王として勇者たちの前に立ち塞がったブサ可愛いウーパールーパー星人に翻弄されたり。
大魔王の生き別れの姉が元カレと再会したときは世界が滅びかけたっけ……
大魔道士は絶対一度は勇者への裏切りをやらかすと思ってたのに、結局一度もイベントがなくて勇者パーティーは真のラスボスを倒してたなあ。
……今思えばなんであんなに俺たち夢中になってたんだろう? という謎展開の多い小説だった。
ただ、作中のごはん描写がものすごい美味そうで夜中に読むと腹が減って仕方なかったのを覚えている。サーモンパイとかどこへ行けば食えたんだろう。
そのライトノベルは俺は従兄弟が死んでから読まなくなっていたが、順調に十年近くかけて完結まで刊行されたらしい。
そして最終巻のあとがきで作家が衝撃的な告白をしたとSNSでバズってたので、俺は持ってなかった分とあわせて全巻、電子書籍で購入した。
で、噂のあとがきを読んでみた。
『この作品はわたしがチャネリングして見た、地球とは異なる世界の出来事のオマージュです』
オマージュ、敬意をもって何かから特定の影響を受けて作品を創ることだ。品の良い二次創作みたいなものか。
チャネリングとは霊的交信、霊とか天使とか神様とか、人間より高次の存在とコンタクトしてメッセージを受信する行為をいうそうで。
……なんかここでもオカルトスピリチュアル話が出てきたな。
意外にも作者のとんでも告白は読者や世間に好意的に受け入れられたそうだ。世相が合っていたとでも言うべきか。
昔はスピ系といえばエジプト神話やギリシャ神話、北欧神話ネタ、あとやはり西洋魔術系をよく見た。
題材にした漫画やアニメ、ゲームも多かったしそこからスピリチュアルに興味を持つ人は多いだろう。俺も据え置き機のゲームであれこれ覚えた口だ。
近年だと考古学研究の発展でメソポタミア文明ネタが人気らしい。メソポタ系を題材にしたスマホのソーシャルゲームのヒット作なんかの影響もあって、メソポタ系の神様の名前はいま若い世代でもふつうに知っている。イシュタルとかギルガメッシュとか。
そういえば、メソポタミア系の神話には他の神話と比べて、ある面白い顕著な特徴がある。
――宇宙人が地球人を作ったという記述があるのだ。そして地球人は彼らの奴隷として作られたとも。
そして宇宙人の中には、地球人の敵となる種族もいれば、味方になる種族もいるらしい。
「……あの虹色キラキラの宇宙人たちはどっちだったんだろうな」
美味いお茶は飲ませてくれたが、結局チートはくれないままだった。
なんかこう、遺伝子操作して特殊能力をくれるとか、目からビームが出るようになるとか、寿命が伸びるとか女性にモテまくるとか……
異世界転生や転移にハーレムやチーレム(チート能力+ハーレム)は基本じゃないのか!?
俺だけ特別なスキルで無双するストレスフリー展開はどこへいった?
そんなことを思いながら、俺は眠りに落ちていったのだった。
そうだな、ピナレラちゃんをぽんぽんしながら従兄弟の話の続きでもしようか。
叔父さんちには息子が二人で、早くに死んじまったのは俺と同い年の上の長男だ。
下の弟はふつうに生きてるはずだが叔父さんは離婚して元嫁の叔母さんが親権を取ったので、その後どうなったかわからない。ばあちゃんも心配してるんだが連絡を拒否されていると聞いた。
俺と同い年で、中学までは夏休みや冬休みにばあちゃんちにお互い家族で帰省してよく遊んでたっけ。
俺も従兄弟も御米田家の血が濃く出た黒髪と黒目、なかなか整った端正な顔立ちだ。性格はだいぶ違ったな。あっちはばあちゃん似でのんびりした奴だった。
お前も生きてたら、一緒に異世界転移してエンジョイしてたかもしれんのになあ。
めんこい幼女のいる優しいほうの異世界転移だ。飯も旨いし人も親切。ばあちゃんも家も一緒。あいつ絶対喜んだろうに。
ラノベ好きでよく読んでたっけ。遺品になっちまったお気に入りの文庫本は俺が形見分けで貰ってまだ持っている。
表紙イラストが中央に勇者、左手に賢者、右手に大魔道士がいる。俺たちが中学の頃ブームになったファンタジー物語だ。
立場は違えど友人同士の三人は、勇者の親の仇である共通の敵を倒すため、協力して旅に出る。オーソドックスな英雄の旅の物語だった。
シリーズ最強の大魔王が後に勇者たちのお師匠様になる胸熱展開や、そのお師匠様の少年時代のスピンオフが女の子たちの間で大人気になって手作りぬいぐるみの推し活がSNSのトレンドになったり。
モンスターが足の生えた魚類だったり(これもぬい化が流行った)、第二の魔王として勇者たちの前に立ち塞がったブサ可愛いウーパールーパー星人に翻弄されたり。
大魔王の生き別れの姉が元カレと再会したときは世界が滅びかけたっけ……
大魔道士は絶対一度は勇者への裏切りをやらかすと思ってたのに、結局一度もイベントがなくて勇者パーティーは真のラスボスを倒してたなあ。
……今思えばなんであんなに俺たち夢中になってたんだろう? という謎展開の多い小説だった。
ただ、作中のごはん描写がものすごい美味そうで夜中に読むと腹が減って仕方なかったのを覚えている。サーモンパイとかどこへ行けば食えたんだろう。
そのライトノベルは俺は従兄弟が死んでから読まなくなっていたが、順調に十年近くかけて完結まで刊行されたらしい。
そして最終巻のあとがきで作家が衝撃的な告白をしたとSNSでバズってたので、俺は持ってなかった分とあわせて全巻、電子書籍で購入した。
で、噂のあとがきを読んでみた。
『この作品はわたしがチャネリングして見た、地球とは異なる世界の出来事のオマージュです』
オマージュ、敬意をもって何かから特定の影響を受けて作品を創ることだ。品の良い二次創作みたいなものか。
チャネリングとは霊的交信、霊とか天使とか神様とか、人間より高次の存在とコンタクトしてメッセージを受信する行為をいうそうで。
……なんかここでもオカルトスピリチュアル話が出てきたな。
意外にも作者のとんでも告白は読者や世間に好意的に受け入れられたそうだ。世相が合っていたとでも言うべきか。
昔はスピ系といえばエジプト神話やギリシャ神話、北欧神話ネタ、あとやはり西洋魔術系をよく見た。
題材にした漫画やアニメ、ゲームも多かったしそこからスピリチュアルに興味を持つ人は多いだろう。俺も据え置き機のゲームであれこれ覚えた口だ。
近年だと考古学研究の発展でメソポタミア文明ネタが人気らしい。メソポタ系を題材にしたスマホのソーシャルゲームのヒット作なんかの影響もあって、メソポタ系の神様の名前はいま若い世代でもふつうに知っている。イシュタルとかギルガメッシュとか。
そういえば、メソポタミア系の神話には他の神話と比べて、ある面白い顕著な特徴がある。
――宇宙人が地球人を作ったという記述があるのだ。そして地球人は彼らの奴隷として作られたとも。
そして宇宙人の中には、地球人の敵となる種族もいれば、味方になる種族もいるらしい。
「……あの虹色キラキラの宇宙人たちはどっちだったんだろうな」
美味いお茶は飲ませてくれたが、結局チートはくれないままだった。
なんかこう、遺伝子操作して特殊能力をくれるとか、目からビームが出るようになるとか、寿命が伸びるとか女性にモテまくるとか……
異世界転生や転移にハーレムやチーレム(チート能力+ハーレム)は基本じゃないのか!?
俺だけ特別なスキルで無双するストレスフリー展開はどこへいった?
そんなことを思いながら、俺は眠りに落ちていったのだった。