――東北の限界集落、まるごと神隠しか!?

 もう連日、テレビやネットニュース、SNS、新聞はこの話題で持ちきりだった。

 そんでこの事件が騒がれるようになってから、田舎に戻ったユウキ先輩とスマホが繋がらなくなったっス。

 あの人『あんたはオレの彼女か!?』レベルでいつでも速攻既読付けるし即レスするのに、ずーっと既読スルー。
 ユウキ先輩……まさか本当にあんたまで神隠しに遭ったとかいう……?



 ところが六月に入って、急にその先輩からのメッセージが来始めた。
 しばらくやりとりを続けて退職の経緯を詳しく確認してみた。あ、やっぱりあの八十神先輩がコンペ企画盗んだって本当だったのか。

 ただ、その手口がかなり悪質で。そっか、パスワードとログインを盗んで……ってユウキ先輩、だからメモに書いてデスクマットに入れたままはやめろって言ったのに! ゆとり世代のオレでも危ないってわかるぞあれは!?

 ……あの八十神って野郎はスカした感じでオレは最初から嫌いだった。彼女を寝取られたのも最悪だし、しかもあの野郎、寝取った女の元カレがオレだと認識すらしてなかった。それでもういいやってゆとり世代は萎えましたよ。
 どうせオレはモブですよ。でもモブだって怒りもすれば恨みもするんだぞ。

 ただ、仕事は抜群にできる男だった。そこはオレもユウキ先輩も認めないわけにはいかなかったっていうか。

 ところがその八十神が、ユウキ先輩がいなくなってからあからさまに増長し始めた。
 栄転確実のコンペ優勝で気が大きくなってるのもあるんだろう。先輩から奪った彼女と社内でイチャついてるし、先輩より自分がどれだけすごかったか鼻につくような自慢をするようになったっス。

 中でも、先輩のあることないこと周りに吹き込み始めたに至っては、いつも野郎が飲んでるコーヒーにタバスコでも仕込みたくて仕方なかったっスわー。
 確かにユウキ先輩はうざかった。やたら説教くさいし、ネクタイの締め方が甘いとかハンカチは必ず持てとか「あんたはオレのママか!」みたいな注意をしょっちゅうしてくる。

 でも仕事のミスがあってもフォローは絶対やってくれるし、取引先に迷惑かけたやらかしも一緒に謝りに行って帰りに反省会と称して飲みに連れて行ってくれたりで……まあ理想の上司なんだよあの人。
 こんなん、そりゃ御米田派閥になるでしょっていうか。
 だから今の調子乗ってる八十神には、ユウキ先輩に可愛がられてたオレにはイラッとくるのなんの。

『彼の行動は明らかにユウキ先輩への名誉毀損です。正直ろくでもねえって思います』

 そんならしくない俺のメッセージに、先輩からの返事は。

『実は俺、いま異世界にいてさ。日本にいたら八十神を殴りに東京行ってたかもな』

「異世界? まさか先輩、失恋ショックで妄想世界に現実逃避……いやそういう人じゃないか」

 そのやりとりの後も、ユウキ先輩とのメッセージは繋がったり繋がらなかったり。

「あ。先輩から神隠しの村のこと聞くの忘れた」

 まあいいか。本当に異世界にいるならスマホからメッセージが送れるぐらいだし、ネットニュースも見てるだろ。



 事態が急展開したのは、このアプリのメッセージと同時期に、ユウキ先輩が会社のシステム部宛に直接メールを送ってからだった。
 どうも先輩、オレに教えてくれたのと同じ八十神の所業をまるっとシステム部にタレ込んだようで。
 ……いや、それ勢いで退職する前にすりゃよかったんじゃ……?
 まあ退職して一ヶ月、いろいろ気持ちも落ち着いた頃だろうスからね。

 ただ、いま一番ホットな神隠しで大騒ぎのもなか村関係者からのメールだったから、会社は警察に届け出たと後から聞いた。