大学の入学式。
 緊張する。
 友達、出来るかな。
 4年間の間に、誰かいい人に出会えるかな。
 そんなこと、想いながら。
 座っている僕に。
 隣の女の子は、話しかけてくれた。
「こんにちは。私、かぐや」
「こ、こんにちは」
 うわー、どもってしまった!引いてるかな、引いてるかな!
 いや。
 かぐやさんは、フフっと笑う。
「僕は、努っていいます」
「努くん、よろしく」
「よろしく、お願いします……」
 上京してきてよかったー!
 髪は長めで、はっきりとした色の黒髪を下ろしていて、前髪はぱっつんになっているのをピンでとめている。
 それで、目は少し釣り目だけど大きくて、口が小さい。
 肌は誰よりも白い。
 こんなかわいい子に出会わせてくれて、神様、ありがとう……!
 かぐやさんは式が終わった後もおれと話してくれた。
「努くんは、なんでこの大学に入ろうと思ったの?」
「おれは……英語ができるようになりたかったから。かぐやさんは?」
「私は……努くんに出会うためかな。」
 そう言ってかぐやさんはフフッと笑う。
「でもね、この大学で、とっても楽しく過ごすには、この学校で多分一番イケメンな努くんと付き合うのがいいんじゃないかな、なんて思って」
 この中で、一番イケメン……
 確かに、高校生の頃、イケメンイケメンってちやほやされていた記憶がある。
 おれは、イケメンだ。
 そんなこと、ずっと知っていたことじゃないか。
 でも、かぐやさんにいわれると、なんかうれしい。
「じゃあ、おれ達、付き合う?」
「いいよ。付き合お。でも、1つだけ、約束してほしいの」
「約束?」
「うん。約束。別れるってなったとして、それを止めないでほしいの」
「待って、付き合ってすぐに別れの話?」
「いいからいいから、ね、守れるでしょ?」
 なんか、こんな美少女に騙されているような、言いくるめられているような感じがすごいけど、そんなところも可愛いなんて思ってしまうのが男の性であって、「いいよ」としか言えない。
「じゃあ、決定ね」
「うん」
「一緒の授業、取ろ?」
「うん、そうしよ」

 大学が始まって2週間くらいが経った頃。
 大学中でおれたちのことが噂になっていた。
 めっちゃイケメンとめっちゃ美少女のカップルがいる、なんてことで。
 おれたちは、そんな注目の的にさらされることになってしまった。
 美少女と付き合っている、なんてことで嫉妬を買われたのか、友達がほとんどできなかった。
 ただ一人、優斗を除いて。
 優斗は、おれのことをとても心配してくれていた。
 なぜなら、おれは優斗に相談をしていたからだ。
『うん。約束。別れるってなったとして、それを止めないでほしいの』
 この言葉が何を意味しているのか、分からないけれど。
 でも。
 優斗は、それについて、心配してくれた。
 それで、「危険だよ、やめておいた方がいいんじゃない」なんてアドバイスももらったりした。
 でもおれは、かぐやさんが綺麗でかわいくて、だからかぐやさんとは別れたくなかった。
 大学一年生の男子ってこんなに単純なんだな。
 客観的な目で見ればそう思う感じがする。

夏がやってきた。
 今日は、花火大会がある。
 おれは、奮発していい浴衣を買った。
 かぐやさんのために。
 待ち合わせの駅に、かぐやさんは赤い浴衣でやってきた。
 赤い浴衣に、頭にお団子ヘアを乗せて。
 めっちゃ、可愛い!
「かぐやさん、めっちゃ似合ってるよ!」
「ほんと!?ありがとう!努くんもめっちゃ似合ってるよ!」
 似合ってるって言われて、めちゃくちゃ嬉しくなってはしゃぎたくなってしまったおれは、その感情を抑えながら、かぐやさんに提案をした。
「ねえ、かぐやさん。たませんでも買いにいこ」
「うん、いいよー」
 おれとかぐやさんは、たません売り場についた。
「はーい、一個450円ねー」
「はい」
「はーい、ありがとう」
「ねえ……」
 かぐやさんは目をキラキラさせている。
「わかったよー」
「フフ、ありがとー!ほんとに親切だねー」
 かぐやさんは、こんなところでもあざとかわいい。
 はあ。
 かぐやさんと付き合ってよかった。
 たませんを2人食べ終わったところで、花火が上がった。
「うわー、綺麗だねー」
「うん、めっちゃ綺麗」
 2人で、花火がよく見える芝生に座った。
「ねえ、3年生からゼミ始まるじゃん?かぐやさんは、どのゼミに入ろうと思っているの?」
 そう聞くと、一瞬寂しそうな顔をした後に、かぐやさんは答えた。
「うーん、まだきまってなーい!」
 空一面を、綺麗な花火が包み込んだ。
「わあ、素晴らしい花火!」
「本当に綺麗!まるで、空に連れてかれるような……」
「そんなこと、言わないでよ……」
 隣を見ると。
 かぐやさんが。
 泣いていた。
 涙は花火で照らされて、輝いていた。
「え、ちょっとかぐやさん……?おれは、そんなつもりじゃ……」
「いいの。いいの、私が勝手に泣いてるだけだから。花火に連れてきてくれてありがとう!」
 泣きながら、かぐやさんはフフッと笑った。

 そんな不思議な花火大会が終わって、1年後の夏。
 おれたちは、まだ、付き合っていた。
 夏フェスに行ったり、お祭りに行ったり、海に行ったり、遊園地に行ったり。

 上野の屋台で、おれたちはお酒を飲みながら、そんな思い出話に浸っていた。

「ねえ、努くん」
「かぐやさん……?」
 かぐやさんは、ビールをガーッと飲んで、酔っぱらうと、泣きながら、
「帰りたく、ないよ……」
 って、呟いた。

 冬。
 クリスマス。
 かぐやさんは、「先に帰らなきゃ」って、たったったっと走っていった。

 森の中へと。

 おれは、かぐやさんを追いかけた。

 そこには。

 大きな羽の生えた、かぐやさんが立っていた。

「私、月に帰らなきゃいけないの。普通の人間とは違う、私は、月に帰らなきゃいけない……」

 そ、そんな……

「別れたく、ないよ……」

『うん。約束。別れるってなったとして、それを止めないでほしいの』
『本当に綺麗!まるで、空に連れてかれるような……』
『そんなこと、言わないでよ……』

『帰りたく、ないよ……』


「かぐやさん、じゃあね!」

 かぐやさんは、おれの方をちらっと見て、言った。

「うん!また、会えるといいね!」

 かぐやさんは、空へと、綺麗な星が描く夜空へと、羽ばたいていった。

 街に戻ると、優斗が立っていた。
「優斗……かぐやさんが月に……」
「そっかそっか」