窓の外を眺めていた私は、人に気を遣わずに空に浮いている雲が羨ましいと思っていた。私も、穏やかな風に吹かれるがまま何も考えずに只々浮いている雲の存在になりたい。
こんな事を考えながら時の流れに身を任せて生きていたら、あっという間に高校二年生に上がってから数日が経っていた。
『偽善者』と言われたあの日以来、私と彼が口を利く事はなかった。
二年生に上がったばかりでこのスタートは中々しんどいと心の中で大きなため息を吐く。
四限の授業が終わり、私はお弁当の入った袋を手に持ち二人の方に向かい歩いた。二人は、私より先に準備を終え待っていてくれていた。
そして、三人で学食へ歩き出し始めた。
「今日のお弁当はなんだろ~」
私は、いつもの様に明るく楽しそうにお弁当の蓋を開けた。
「小春って本当にいつも楽しそうだよね。」
「本当に悩みとかなさそう」
実花ちゃんが言った、『悩みなさそう』という言葉に私の中で何かが、切れかけていた。それでも、その細くなって切れそうな糸の様な物を丁寧に結び直す。
「そうかな~!でも、確かにないかも~」
「だよね~」
実花ちゃんは、思った事をそのまま口に出してしまう性格な為仕方ないで片付ける事が多かった。でも、今回の言葉は私の心に深く突き刺さった。
お昼を終え教室に戻ってきた私は、時間を確認した。まだ、少し時間が余っている事を知り小説を読むことにした。
小説を読んでいる時だけは無心になれるから特別な時間で好きだった。このゆったりした時間が一生続けばいいのに、そんな儚い私の願いは五限目が始まるチャイムと共に散っていった。
「やっと一日終わったね~」
実花ちゃんがそう言いながら腕を空に上げ伸びをした。
「本当にね~」
「小春もう帰れそう?」
もう少し小説を読みたかった私は二人の帰りの誘いを断って、学校に残ることにした。
そして、ほとんど小説を読み終えた私は時間を確認しようと、小説から目を離し顔を上げた。
「やば!結構時間たってる」
誰もいない教室で思わず出た独り言が、少し面白くなってしまい小さく声を出して笑った。自然に出た笑いってこんな幸せで、当たり前のはずなのに最近どんな事で笑ったっけ。
深く考えると、帰る時間がもっと遅くなりそうで、考える事を諦め教室から出る為、鞄に荷物を詰めた。
『暗くなってきたな』
学校が閉まる前に校舎から出ないとそんな気持ちから少し焦り歩くスピードを上げた。普段の方から階段を降りると、下駄箱が遠くなると思い美術室の方の階段から降りる事にした。
そして、下駄箱が見えたぐらいで美術室の電気がついてる事に気づき、自分以外にもまだ残っている生徒がいるのかと思い、美術室の中をこっそり覗いてみる事にした。
私は、その数分後に覗いた事を後悔した。私の隣の席の彼がいたからだ。
あの後、何故か彼の名前が気になった私は、クラスメイト全員の名前が書かれた紙を確認していた。
彼の名前は宮下奏というらしく、クラスの子たちも噂していたが人を寄せ付けない何かをいつも纏っている為、誰も近づけずにいるらしく、それは男女問わずとのことだ。
どうして彼(宮下奏)がそうなったのかは知らないけど、初日に吐かれたあの言葉が耳から離れなくてあの目で睨まれた時、全て見透かされている気がして怖くなった。
「おい、お前何してる」
急に声をかけられ、頭の中が真っ白になり声が出なかった。
「もう一度聞くけど、何してた?」
「ご、ごめんなさい。たまたま通りかかった時に明かりが見えてそれで」
「で?」
「少し見てから帰ろうと思って。覗き見してすみませんでした。帰ります」
頭を下げそのままの状態で足を後ろに一歩下げようとした時、彼が椅子から立ち上がって私の方向へ歩いてくる。そして、私の手首を引っ張り中へ入れると、唯一の開いていた扉も閉められてしまい絶望した私はその場に座り込みたくなった。
「勝手に自己解釈して帰ろうとするなよ」
「本当にすみませんでした。」
いつもみたいに笑って誤魔化す余裕がなかった私は、ただ視線に落としたまま謝る事しか出来なかった。
「もう、謝罪はいらないんだけど。この時間まで何してたの?」
そう聞かれた私は恐る恐る顔を上げ彼の姿に目を向けて、何とか声を出した。
「ほ、本を読んでいたら、こんな時間になっていて」
「本って小説?」
「はい、そうです」
「いいじゃん。好きなの?」
「余計なこと考えなくて良いから好きです」
「俺も小説とか好きだよ」
私は話の内容よりも彼の人格の方が気になってしまった。だって、普段は人を寄せ付けないオーラを纏っているのに、普通に会話出来ていることにびっくりしたから。
「あ、あの」
「なに?」
今なら勇気を出して聞くことが出来るかもしれない。初日、私に向けて言った『偽善者』という言葉の真相を。
「なんで、あの時私に対して『偽善者』って言ってきたんですか?」
眉一つ動かすことなく私の目を見たまま、口を開く。
「名前を聞かれた時に、仕方なくその場の流れでみたいな気持ちが笑顔に出てたから。それなのに、また話かけて来て次はお節介みたいな事してくるし、そんなに周りからよく思われたいのかなって思ったら口から出てただけ。」
そんな事ないときっぱり言いたかった。でも、彼の言ってることがあまりにも当たっていて、前の時と同様で言い返す言葉が見つかれなかった。
「そんなに大事?人によく思われる事って」
「えっ?」
「だって、今の山中が全然幸せそうに笑えてないから。」
この瞬間私は初めて、宮下奏くんの顔をちゃんと見た気がした。
そして、普段とは違う優しく私を見ている彼の目や言葉に私の心は惹かれてしまった。
こんな事を考えながら時の流れに身を任せて生きていたら、あっという間に高校二年生に上がってから数日が経っていた。
『偽善者』と言われたあの日以来、私と彼が口を利く事はなかった。
二年生に上がったばかりでこのスタートは中々しんどいと心の中で大きなため息を吐く。
四限の授業が終わり、私はお弁当の入った袋を手に持ち二人の方に向かい歩いた。二人は、私より先に準備を終え待っていてくれていた。
そして、三人で学食へ歩き出し始めた。
「今日のお弁当はなんだろ~」
私は、いつもの様に明るく楽しそうにお弁当の蓋を開けた。
「小春って本当にいつも楽しそうだよね。」
「本当に悩みとかなさそう」
実花ちゃんが言った、『悩みなさそう』という言葉に私の中で何かが、切れかけていた。それでも、その細くなって切れそうな糸の様な物を丁寧に結び直す。
「そうかな~!でも、確かにないかも~」
「だよね~」
実花ちゃんは、思った事をそのまま口に出してしまう性格な為仕方ないで片付ける事が多かった。でも、今回の言葉は私の心に深く突き刺さった。
お昼を終え教室に戻ってきた私は、時間を確認した。まだ、少し時間が余っている事を知り小説を読むことにした。
小説を読んでいる時だけは無心になれるから特別な時間で好きだった。このゆったりした時間が一生続けばいいのに、そんな儚い私の願いは五限目が始まるチャイムと共に散っていった。
「やっと一日終わったね~」
実花ちゃんがそう言いながら腕を空に上げ伸びをした。
「本当にね~」
「小春もう帰れそう?」
もう少し小説を読みたかった私は二人の帰りの誘いを断って、学校に残ることにした。
そして、ほとんど小説を読み終えた私は時間を確認しようと、小説から目を離し顔を上げた。
「やば!結構時間たってる」
誰もいない教室で思わず出た独り言が、少し面白くなってしまい小さく声を出して笑った。自然に出た笑いってこんな幸せで、当たり前のはずなのに最近どんな事で笑ったっけ。
深く考えると、帰る時間がもっと遅くなりそうで、考える事を諦め教室から出る為、鞄に荷物を詰めた。
『暗くなってきたな』
学校が閉まる前に校舎から出ないとそんな気持ちから少し焦り歩くスピードを上げた。普段の方から階段を降りると、下駄箱が遠くなると思い美術室の方の階段から降りる事にした。
そして、下駄箱が見えたぐらいで美術室の電気がついてる事に気づき、自分以外にもまだ残っている生徒がいるのかと思い、美術室の中をこっそり覗いてみる事にした。
私は、その数分後に覗いた事を後悔した。私の隣の席の彼がいたからだ。
あの後、何故か彼の名前が気になった私は、クラスメイト全員の名前が書かれた紙を確認していた。
彼の名前は宮下奏というらしく、クラスの子たちも噂していたが人を寄せ付けない何かをいつも纏っている為、誰も近づけずにいるらしく、それは男女問わずとのことだ。
どうして彼(宮下奏)がそうなったのかは知らないけど、初日に吐かれたあの言葉が耳から離れなくてあの目で睨まれた時、全て見透かされている気がして怖くなった。
「おい、お前何してる」
急に声をかけられ、頭の中が真っ白になり声が出なかった。
「もう一度聞くけど、何してた?」
「ご、ごめんなさい。たまたま通りかかった時に明かりが見えてそれで」
「で?」
「少し見てから帰ろうと思って。覗き見してすみませんでした。帰ります」
頭を下げそのままの状態で足を後ろに一歩下げようとした時、彼が椅子から立ち上がって私の方向へ歩いてくる。そして、私の手首を引っ張り中へ入れると、唯一の開いていた扉も閉められてしまい絶望した私はその場に座り込みたくなった。
「勝手に自己解釈して帰ろうとするなよ」
「本当にすみませんでした。」
いつもみたいに笑って誤魔化す余裕がなかった私は、ただ視線に落としたまま謝る事しか出来なかった。
「もう、謝罪はいらないんだけど。この時間まで何してたの?」
そう聞かれた私は恐る恐る顔を上げ彼の姿に目を向けて、何とか声を出した。
「ほ、本を読んでいたら、こんな時間になっていて」
「本って小説?」
「はい、そうです」
「いいじゃん。好きなの?」
「余計なこと考えなくて良いから好きです」
「俺も小説とか好きだよ」
私は話の内容よりも彼の人格の方が気になってしまった。だって、普段は人を寄せ付けないオーラを纏っているのに、普通に会話出来ていることにびっくりしたから。
「あ、あの」
「なに?」
今なら勇気を出して聞くことが出来るかもしれない。初日、私に向けて言った『偽善者』という言葉の真相を。
「なんで、あの時私に対して『偽善者』って言ってきたんですか?」
眉一つ動かすことなく私の目を見たまま、口を開く。
「名前を聞かれた時に、仕方なくその場の流れでみたいな気持ちが笑顔に出てたから。それなのに、また話かけて来て次はお節介みたいな事してくるし、そんなに周りからよく思われたいのかなって思ったら口から出てただけ。」
そんな事ないときっぱり言いたかった。でも、彼の言ってることがあまりにも当たっていて、前の時と同様で言い返す言葉が見つかれなかった。
「そんなに大事?人によく思われる事って」
「えっ?」
「だって、今の山中が全然幸せそうに笑えてないから。」
この瞬間私は初めて、宮下奏くんの顔をちゃんと見た気がした。
そして、普段とは違う優しく私を見ている彼の目や言葉に私の心は惹かれてしまった。