「小春、二年生も同じクラスだね!」
「麻里ちゃんとまた一緒で本当にうれしい!」
教室の前に貼り出されている名前の書かれた紙にお互いの名前を見つけた麻里ちゃんと私は喜んだ。
教室の中へ入ると、他の子たちも同様に友達同士で話が盛り上がっていた。
「麻里、小春今年も一年よろ」
「おはよ!実花もここのクラスだったの?」
「ひっどーい!私は、あの紙見た瞬間二人の名前見つけてたのに、気付いてくれなかったの?」
「いや~、小春と二人で盛り上がり過ぎてそれどころじゃなかったわ」
「私は、気付いてたよ。実花ちゃんのなまえあるって」
「さすが、小春はやっぱりいい子だね!大好き!」
実花ちゃんは、そのセリフと一緒に抱きつき、麻里ちゃんが私の腕を引き助けてくれた
「私の可愛い小春にあんまベタベタしないでよ」
「いいじゃん!減るもんじゃないし。ねえ~小春」
「うん!もちろんだよ」
あまり、人にベタベタくっつかれるの苦手だけど、喜んでくれている二人にそれを言える訳でもなく、ここまで来たらこのキャラを付き通すしかないと思って演じている。
「そういえば二人ともいつまで鞄を肩にかけとくつもりなの?」
「実花が、話しかけてきたから席に行けてないんだよ。ねえ、小春」
「でも、実花ちゃん来てくれたから嬉しかったよ!」
そう言って笑った私に、また抱きついてきた実花ちゃんそれに対して「あんたも懲りないね」と呆れた口調で言い放った麻里ちゃん。
「一度自分の席に鞄置いてくるね」
私は、二人にそう伝えると黒板に貼ってあった紙で自分の席を確認してから、席へ向かった。
隣にはもう男の子が座っていて、凄くダルそうにしていた。私は、一応その男の子に声をかける事にした。
「あの、隣の席の山中小春です。これから、一年間よろしくお願いします」
聞こえているはずなのに返事が返ってくることはなく、男の子は私を一度見た後机に顔を伏せた。
感じの悪い人だなと思ったが、大してそこまで気にすることなく二人の方へ戻った。
「今さ、あの男子に声かけてなかった?」
「うん、かけたけど。それがどうかしたの?」
私はキョトンとした顔で実花ちゃんに質問をした。
「あの男子と関わるのやめた方がいいよ」
「どうして?」という言葉の後に麻里ちゃんも状況が良く理解できてなかったのか、私と同じ表情で実花ちゃんの顔を見た。
「なんかさ、あの男子嫌われてるらしいじゃん。理由が確か人に対して冷たい態度をとるからだった気がする」
それを聞いて私は少し納得した。だって、人を寄せ付けたくないオーラが出ていたから。
「なるほどね」
私は、納得の言葉を口に出した。
その後会話をしていた私たちだったが途中チャイムに邪魔をされ、席に戻って来た私は隣の席で名前すら知らない彼の事を横目でチラチラ見ていた。
新学期早々、なんて子と隣になってしまったんだと気持ちが少し億劫になってしまった私は、何か別の楽しいことを考えようと思ったが、何も頭に湧いてこず諦めた。
数分後、担任の先生が扉を開け教室内に入って来た。
「このクラスを受け持つことになった、渡部浩一と言います。これから一年間よろしく。じゃあ、皆にも自己紹介してもらおうかな」
先生のその一言で、私の全身に緊張が走った私は、なんて言おうと順番も来ていないのに一人で焦っていた。
「と、その前にまず全校集会か」
思い出したかのように、口にした先生に内心この先生頼りがいなさそうだなと思ってしまった。
「はい、じゃあ皆各自で体育館に向かって、着いた人から整列しとくように」
その言葉を最後に先生は少し小走りで体育館へ向かっていった。
ちらほら皆も席から立つのを見て、私も真似て立つことにした。少し隣が気になり、見るとビクともせずさっきほど同様、机に伏せたままだった。
『どうしよう、このままだとこの子教室で一人になっちゃう。起こした方が良いよね』
起こそうとした瞬間さっきの実花ちゃんの『あの男子と関わるのやめた方がいいよ』の言葉が頭をよぎった。
でも、無視できないそう思い起こすことに決めた私は、彼の肩を軽く揺すっって声をかける。
「ねえ、起きて。集会があるって、体育館に行かないと」
彼の肩に置いていた私の手を弾き、不機嫌な顔で私を睨みつける。私は、一瞬で背筋が凍る感覚がした。
「何?」
「寝てるのに、ごめんね。集会があるから体育館に行くんだけど....」
「だから?俺行く気ないんだけど。」
「....でも、行かないと」
「行かないと何?てか、こういう事やって優しい人って思って欲しいの?偽善者みたいでキモイんだけど」
私の中で『偽善者』という言葉が大きく引っかかったが、笑わないとと思い笑顔を貼り付ける。
「ごめんね。起こしちゃって」
彼との会話を終わらせ視線を下に落とし、二人の元へ歩いているが足が普段より重く前進むのに時間がかかっている気がした。
「大丈夫だった?」
麻里ちゃんの優しい口調にさっきまでの緊張が解けて、強張っていた表情が緩み笑みを作りそのまま小さく頷いた。
体育館に着いた私たちは、体育座りで集会が始まるのを待っていた。時間になっても彼が来ることは結局なかった。


その後、彼の口から出た『偽善者』という言葉が何度も私の脳裏で繰り返し再生されている気がした。